表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/53

40 ルカ国王の初恋⑤

怠さに負けそうになりながら、ダイニングルームへ向かうと、既に聖女候補の二人は揃っていた。

二人を座らせ、リンを待つ。

彼女は朝見た時とは違い、エイダにしっかりとドレスを着せられ現れた。

 エスコートしつつ表情を盗み見るが、今朝の激昂はなりを潜めているようでほっとする。

 …どうやらあの口づけの事は許してくれたようだ…。


 初めて聖女候補が全員そろっての食事会となった。


 相も変わらず聖女候補の二人は私にアレコレ話しかけてくるが、リンは食べることに夢中で私と眼も合わせようとしない。

 少しぐらいは会話もしたいが…。


「…ところで、リンは今日の予定はどうなっている?」


 気負って話しかけたと思われないように、出来るだけ穏やかに話しかける。


「私は別に…。この後はリーチェス王国の公用語を習った後、国の産業について調べるつもりですが」


 やはり彼女は勉強熱心なようだ。正妃になるためにも是非頑張って欲しいが、王宮の中で産業について学ぶとなるとまた別の講師が必要になる。

 だが、王宮にいる者は男性ばかりだし、既婚の男性以外は彼女の傍に置きたくない。


「それでは王宮の蔵書庫を使うと良い。閲覧を許可しよう」


 そうすれば彼女の求める知識も手に入るし、男性に近づける必要もない。まあ、本を読むために必要な知識は勉強熱心な彼女ならば習得できるだろう。


「ありがとうございます」


 リンから初めてお礼の言葉を言われた私は上機嫌で公務へと向ったのだった。




 遂に、第一回目の聖女選定の儀が行われる日が来た。

 まさか逃げ出そうとするわけはないと思いたいが、リンの様子が不審だとエイダから報告を受けているので大広間に警備兵を大勢配置した。

 私の中では既にリンが聖女だと判っているが、それでも確証が欲しい。

 皆が静かに見守る中で選定の儀が始まった。


「一人ずつ、指示があった順番に水晶玉に手を触れなさい」


 宰相が名前を呼ぶ。


「先ずはマナカ・ヒナタこちらへ」


 マナカが両手で水晶玉に触ると球が淡くピンク色に光りだした。

 どうやら聖魔力を強制的に奪っているようだ。

 …これでマナカが聖女の線は完全に消えたことになる。


「次、シホ・オノダ前へ」


 同じようにシホが水晶玉に触れると、今度は球の色が変化した。

 …透明から淡い黄金色へ…。おかしい…普通であれば吸収されるべき聖魔力が減っていない。

 もしかしたらシホにもこちらの世界で使命があるのかもしれない。

 見ていた宰相に指示を出し、この現象の正体を調べさせることにした。


「最後はリン・イチノセ前に出なさい」


 宰相の声に好奇心を覗かせながらリンは水晶玉に触れる。

 …しかし、水晶玉は全く反応しなかった。

 やはり彼女が聖女で間違いなかったのだ。

 水晶玉は聖女以外の聖魔力しか奪わない。だからリンの聖魔力を奪う訳が無い。

 だが、それを知らないリンは不満そうに水晶玉をペチペチと叩いている。…可愛すぎるだろう…。


「ウフフ…あなたは聖女様じゃないってことがこれでハッキリしたようね?」


「そうね。でも国王様はお優しいから、たとえ違うとしても衣食住を保証して下さるし安心よね?」


 小声で言っているようだが、バッチリ聞こえている。

 馬鹿な女性たちだ。リンこそが聖女だということを知らないのだから。


「それでは最後にそなたたちの付けているペンダントを国王陛下に見せるのだ」


 ゾロゾロと目の前に立つ彼女たちのペンダントを確認していく。

 マナカの宝石は真っ赤に、シホの宝石は黄色く色を変えていた。

 …シホの宝石の色は…まさかトーマの色では…?異世界から召喚した女性の中にトーマのつがいがいる可能性などあるのだろうか?…これはしっかり確認せねばなるまい。


 最後にリンの番になると、気持ちが逸ってしまいつい無理に引っ張ってしまった。

 やはり…リンは私の聖女だったのだと思うのと同時に宝石の色が薄いことにショックを受けた。

 …宝石の色が鮮やかであればあるほど互いの想いが通じ合っているということ。

 私の想いだけを受け止めた魔宝石は淡く光り、リンからその想いは返されていないのだとはっきり判ってしまったのだ。

 ああ、リーチェス王国の神よ、こんな難攻不落の女性をどうやって口説いたら良いのでしょうか?

あまりにも手ごわすぎるのではないでしょうか…?


 そして更に私を悩ませたのが、リンの脱走計画だった。


「国王陛下、文官のシャールからご報告がございます」


 エイダに告げられたのは、リンが国の成り立ちや魔宝石の取引相手国、更には近隣諸国との関係性を知りたいと言い出しているという事だった。


「…それは私の正妃になるために調べている…訳ではなさそうだな」


「ええ。シャールもリン様が亡命や密航を計画しているのでは無いかと心配しておりました」


 まったく頭が痛い話だが、そう考えれば彼女の勉強熱心さにも説明が付く。

 王宮の外へ出た時の市井の生活についても聞こうとしているし、どれだけ私から逃げたいのだろう。地味に傷つくな…。


「リンが逃亡しないように警備を増やしてくれ。下手な貴族と接触させるのも拙い。これからは彼女を聖女として扱い、絶対この王宮から逃がすな」


 彼女の知らないところで捕獲計画は着々と進められていたのだ。


マナカとシホの心情は蛇足なので省いていますが、読みたい方っています?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ