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39 ルカ国王の初恋④

その晩のディナーにも結局彼女は姿を見せなかった。


「先ほどの痴態があまりにも恥ずかしいので国王陛下にお顔を見せられないからと仰っています。明日の朝、改めてお詫びに伺いたいとリン様からの御伝言です。」


エイダからそう報告を受け、その日は他の二人と寂しく食事をした。

相変わらず私の気を引こうとはしゃぐ二人の聖女候補に少しだけ苛立ったが、先ほどのリンの可愛さを思い出すだけでイライラが緩和されるから不思議だ。


「国王陛下、私たちも素敵なドレスが着たいです。選んで頂けませんか?」


マナカとか言う女性が上目遣いで強請る。

…そんなに衣装をとっかえひっかえしたいものだろうか?…まあ、欲しいというのならくれてやればいいか。


「貴女方のような美しい女性にはドレスだけでは無く宝石も魅力を高めるのに相応しいかもしれませんね。ぜひ贈らせていただきたい」


「まあ‼私、宝石も大好きなんですの。ぜひお願いします」


ギラギラと欲深そうな顔で喜ぶが、宝石の輝きに負けているのにも気づかずジャラジャラと付けるつもりだろうか?…マナカに比べるとシホはさほど我が儘も言わず、様子を見ているようだ。

むしろ、こちらの女性の方が計算高いのかもしれない…。

そんな風に互いをけん制しつつ食べる食事は非常に胃もたれする時間になっていった。



翌朝、リンが挨拶に来るとは聞いていたが、公務が終わらなかったせいで昨夜は夜半過ぎまで雑務に追われてしまい寝るのが明け方近くになってしまった。

いつもなら起きる時間だが、どうにも体が重い…。

もしかしたらあの二人の聖女候補との雑談が更に疲れを倍増させているのかと思うくらいには憂鬱な時間だった。

本格的に怠くなってきたし今日の公務は休んだ方が良いだろうか…そんなことを考えていたら、執事からリンが部屋を訪ねてきたと聞かされた。

…彼女の顔を見ればこの怠さも少しはマシになるかもしれないな…。

入室を許可し、ベッドでぼんやりとベッドで横になったままリンを待った。


「あの~…国王様…まだお休みですよね?」


 恐る恐る入ってきた様子がありありと目に浮かぶ。

 小声で言っているということは私が寝ていると思って配慮してくれているのか?

 何度か小声で囁いているが、一向に近寄ってこない。

 昨日のようなことを警戒しているのだろうか?


「誰もいないんですか?…開けちゃいますよ~?」


 彼女の手が天蓋の隙間から覗いた瞬間、我ながら素早い動きで彼女を寝所に引き込んでいた。

 …驚いた顔のリンも可愛らしいな。


「今度は朝から寝込みを襲いに来るとは本当に大胆なやつだな。…そんなに私に抱かれたいのなら早く言え」


 そう言いながら抱き込むと彼女の香りがふわりと鼻孔をくすぐった。

 本当に彼女は香りすらも甘い。

 胸元に抱いたせいで薄い夜着越しに彼女の息遣いを感じる。

 許されるのならこのまま彼女を抱いてしまいたいが、リンの今の気持ちをどうやって確認したら良いのだろう。


「私のことを昨夜は随分と罵ったくせに、朝になったらお前が寝込みを襲うとは…。リンは行動に一貫性が無さすぎる」


 彼女の耳をチロリと舐めて『それとも、私を振り回すのが目的か?』と笑えばリンが真っ赤になったのが見えた。…少しは脈ありなのだろうか…?


「いえ、あの昨夜は私が寝ぼけて国王様を抱き枕にしたとエイダに怒られまして…お詫びに伺ったのです」


 彼女はメイドの名前まで把握しているのか?リンにとっては只の使用人だろうに。

 知らないふりで誰の事だと問えば逆に怒られた。


「私のお世話をしてくれているメイドさんの名前ですよ?知らないんですか?」


「…知らん。お前はいちいち使用人の名前を覚えるのか?暇なやつだ」


「私が雇っている訳じゃないですし、彼女のことが好きなので。名前で呼ぶのはおかしいですか?」


 エイダの事は好きだから名前で呼ぶのか…。では私の事は何故名前で呼ばないのだ?


「…国王様は国王様でしょ?不敬にあたるなら国王陛下って呼んだ方が良いですか?」


 そんな風に返されたらどう答えるのが正解なのだろう?

 不敬…私を嫌っている訳じゃないんだ…不敬だからなんだと自分を慰める。


 詫びは済んだとばかりにさっさと帰ろうとする彼女を引き留める。

 …もう少しだけ一緒にいたい。

 困った顔をする彼女に見つめられたら堪らなくなって、しばらく二人で見つめ合った。


 もう起きなければ拙いかと手を緩めた隙に、リンが身を捩って私の胸元に直接触れた。

 素肌の感触と、彼女の恥ずかしそうに頬を染める表情を見ていたら、そのまま口づけてしまった。

 昨日とは違う熱量のある口づけに、彼女も答えてくれているのだと判ると止められない。

 …何度もついばむようにキスしたが、いきなり彼女の体が強張ると罵倒された。


「…私たちは聖女候補であって、まだ聖女様じゃないんだよ⁈あなたの奥さんじゃ無い!もし他の二人が聖女様なら不貞行為だよね!たとえキスだけだとしても、私なら絶対にお断りだよ⁈」


 …そうか。どれ程に私が彼女を求めても、まだ彼女は私を受け入れてくれた訳では無いのだ。

 聖女であれば受け入れるべきという葛藤を抱え、彼女も困惑しているのだろう。

 それでは私の望む彼女の愛は得られないのに。


「…そうか。お前からの詫びは受け取った。…もう戻れ」


 それだけ言うのが精一杯で、そっと怠い体を引きずりながらバスルームへ向かった。

 期限は1か月。

 その間に聖女の愛を勝ち取らなければ無理やり彼女を抱かざるを得ない…。

 互いに愛し、愛される婚姻とは本当に難しいモノなのだな…。


 どうせ好きな人と婚姻できないのだからと思考を放棄してきたことを初めて悔いた。


拗らせまくっております。

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