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38 ルカ国王の初恋③

リンの唇の感触が気持ち良すぎて、もっと深く知りたくなる。

唇をこじ開けて舌も味わいたいのに、彼女は歯を食いしばり私を拒絶していた。

夢中になっていたが、必死に胸元を叩かれ押し返す姿に今はこれ以上は無理だと諦める。


「…他の二人は喜んでいたが、リンは私の口づけを拒むのだな」


あの二人にも挨拶の為に手に口づけたことを思わず零してしまうと、リンの顔が憤ったのが判った。

…しまった…唇へのキスはリンにしかしていないと今さら言い訳するのもおかしな話だし、彼女は多分そこまで私に関心が無いだろう。


「私は聖女様でもないし、国王様のお役には立てそうもありません。こういったお戯れはお止めください!」


彼女のきっぱりとした拒絶は却って私の気持ちを昂らせた。

なんと可愛らしい生き物なのだろう。私が本気で自分を欲していると微塵も思っていないからこそ、こんなことが言えるのだ。戯れでなどあるものか。

ふと、彼女の首元を見ると、魔宝石のペンダントが付いていない。

まさか…と夜着を引っ張るとリンは真っ赤になって胸が見えると大騒ぎした。


「そんな微かな胸に興味ないわ、馬鹿め」


いつもの調子でうっかり嫌味を言ってしまったが、もちろん興味は大ありだ。

だが、今はそんなことよりも魔宝石を彼女に付けさせねば。

いつまで経っても彼女を対外的に聖女と認めさせられない方が私にとっても問題なのだ。


何処にあるのかを確認し、強制的に付けさせる。

ついでに魔宝石の力も発動させて彼女が勝手にペンダントを外せないようにしておいた。

なにがなんでも聖女の選定期間中に私の色を纏わせ、その後は彼女を手に入れるのだ。


「お前には首輪が必要だからな」


苛立ちのあまり、彼女にそう告げて私は公務へと戻ったのだった。




「国王陛下、少々お時間は宜しいでしょうか」


執務室にエイダがコッソリと尋ねてきた。


「先ほど、国王陛下がお帰りになられた後で、二人の聖女候補様がリン様を訪ねてこられました」


「…ああ、あくまで候補の二人だな。…それで?」


「はい。お二人の仰るには自分たちは聖女として国王陛下の元へ嫁ぐ意思があるとリン様に表明なさったのですが…」


「勝手なことだな。第一それを決めるのは私だと言うのに」


「リン様は“ご自分は聖女では無く、巻き込まれただけだから二人のライバルにはならない。絶対に大丈夫だ”と笑顔で答えていらっしゃいました…どうされますか?」


どうされますかと言われても…そこまで興味を持たれていないとは正直思っていなかった。


「口づけもしたし、先ほどは少し本音で話も出来た。…少しは私に関心を持ってくれたと思っていたのだが」


「…先ほどの口づけは多分…リン様の中ではノーカウントだと思われます。全く照れていらっしゃいませんでしたから。それに、リン様は好戦的といいますか、じゃじゃ馬ですから。国王陛下が歩み寄らない限り、距離は縮まらないかと存じます」


「エイダ…もう少し優しく言ってくれないか…。私の心が折れそうだ…」


「…事実ですから…」


私はすっかり頭を抱えた。本当にこの調子でリンの心を掴むことは出来るのだろうかと。

しかし、午後になってリンが我が国の言葉を覚えたいと言い出したと聞かされた。


…これは二人の聖女候補に触発されて、自分も正妃となる気持ちが芽生えてきたのかも知れない。

文官であり、エイダの夫でもあるシャール・ヴィ・モルツを講師として派遣する手続きをすぐに行ったのも彼女の喜ぶ顔が見たい一心だった。

後で、確認したところリンは公用語の発音も美しく、また一生懸命に学ぶ姿勢が素晴らしいと高評価を得ていた。…さすがは私の正妃だ。


 直接労ってやるべきか、それとも贈り物の方が良いかとソワソワした挙句、顔が見たくなったので直接部屋へ行くことにした。

 ディナーの少し前だったら、リンをエスコートしながら向かうこともできるし、彼女も流石に断らないだろうと判断したからだ。


「国王陛下…大変申し訳ございません。リン様は現在お休み中なのですが…」


「まさか具合でも悪いのか?医者が必要なら直ぐに手配するが」


「いいえ。お風呂に入られて寝落ちされただけですから…」


「今日は勉学にも励んだし疲れたのだろう。食事は後で部屋に運んでやりなさい。…ただ、少々顔が見たいのだが…」


「…リン様は、マッサージの後で寝落ちされてしまい、一糸まとわぬ姿でお休みです。陛下と言えど不埒な真似をなさるのは…」


 …裸で寝ている…想像すると…いや、直接見たい。

 だが、ここで手を出せばリンは私を拒絶するだろうし…。

 …しばし考えたが、やはり見たいものは見たいのだ。

 絶対に不埒な真似はしないからとエイダに誓ってベッドの傍に行くとうつ伏せになって安らかな寝息をたてる彼女がいた。

 シミ一つない真っ白い肌も、腰から柔らかな曲線を描くふくらみも私を堪らなく魅了したが、グッと堪える。…だが、このままでは風邪を引くのではないか。

 そう思い、毛布で包んでやろうとした瞬間、リンが両手を伸ばし、私の首筋に抱き着いてきた。


「ううん…むにゃ…温かい…ふ…」


 その時無理やり襲わなかった自分の理性を褒めてやりたい。

 愛する女性からベッドの上で裸で抱き付かれたのに、我慢できるだけの理性を持ち合わせていたのだから。


「…国王陛下…どうされますか?」


 エイダは困った顔で私を見下ろすが、彼女の感触を存分に味わえる好機をあえて逃す必要は無いだろう。


「エイダ、私はこのままリンの抱き枕になる。決して不埒な真似はしないから安心して待機してくれ」


「…リン様に嫌われないように程々でお願いします」


 エイダに頷くと出来る彼女は私が何も言わなくても天蓋を下ろして出て行った。

 先ほどまで少し冷たかった彼女の躰は、抱きしめているうちにじんわりと温かくなり、堪らなく柔らかい。彼女が起きないようにそっと抱きしめて、感触を堪能した。


 しばらくそうやっていると、彼女が寝ぼけた様子でうにゃうにゃと寝言を言いだした。

 すごく可愛い…“フフっ”と思わず笑みを漏らしたら起きたのか、私の体を弄り始めた。

 …どうも毛布と間違えているようだが、そんな風に煽られたら我慢する方もキツイだろう⁈


「お前は、私が嫌いだと言ったり、裸で抱き着いて誘惑してきたりと随分と気を持たせるのが上手いな。…どこでこんな手管を覚えたのだ?」


 囁くようにリンに告げると、徐々に覚醒してきたのか手の動きが止まった。ふう、危なかった…。


「私もそろそろ聖女候補である二人の元へと行かねばならぬ。このままお前を抱いてやる時間も無いが…お前は一体どうしたいのだ?」


 彼女は今、自分が置かれている状況にやっと気が付いたらしく、慌てて私から距離を取ろうと暴れた。…ベッドの上で暴れたらお前が落ちるだろう…馬鹿で可愛いやつだ。


「まったく…。お前ほど直接的に行為を迫る女は見たことが無いな。お前には慎みというものは無いのか?」


 そう言いながらつい彼女の腰を撫でてしまう。もう離さなくてはいけないと思うと名残惜しい。

 離れろと騒ぐ彼女を抱きしめたまま、首筋を舐めあげると『あ…』と喘ぎ声が聞こえて、これはいよいよ我慢できなくなりそうだと渋々ベッドから起き上がった。


「お前は本当に面白いな。では私は先に広間で待っているから、準備ができたら来い」


 そう言い背を向けたが、内心は愛する女性に触れた興奮からおかしくなりそうだった。


 リン…早く私を好きになれ、そして私の処へ堕ちて来い…ひたすらにそう願っていたのだから。


ただのムッツリ国王…

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