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36 ルカ国王の初恋①

※ここから国王陛下視点でのお話しになります。

リーチェス王国の国王として即位してから、個人の感情は捨て去りただひたすらに国民の為に人生を捧げてきた。

国王であった両親がはやり病でこの世を去ってからは、宰相に教えを請いながら職務を全うしてきたつもりだ。


国を治める者に愛や恋などは不要で、政略結婚が当たり前だと言われてきたが、他国の王族であれば政略結婚の相手は正妃に、愛する者は側妃にするなどの抜け道もあるだろう。

だが、我が国の国庫を支える魔宝石を生み出す鉱脈は、現国王と正妃となる聖女の聖魔力を交わらせたときにのみ反応する。

つまり、魔宝石の産出量を上げたければ聖女と交わる必要がある訳だ。…それも何度も…。

我ながらそこまで性欲の強い方では無いし、正妃を一人置けば事足りるだろうと思えば、積極的に閨ごとを学ぶ意欲も薄れる。

…まあ、そのおかげで貴族から娘を側妃になどと言い出されることも無く平穏な日々なのだが。


「国王陛下。このままでは我が国の魔宝石の産出は減少の一途を辿るのみです。これも聖なる力が減少しているためかと。やはり今こそ召喚の儀式を行う時かと思われます」


宰相からついに恐れていたことを告げられた。

国王の責務とはいえ、異世界から呼ぶ女性ごときに夢中になれる自信も、ましてや期待さえ無い。


…両親が生きていれば、正妃である聖女との出会いや、その相手をいきなり愛せたのかなども聞けただろうが、今となってはそれも無理な話だ。

どうやっても抗えない運命なのだから、もし興味の持てない女性だったとしても媚薬でも何でも使って交わればいいか…。

諦めにも似た気持ちで私は召喚士たちに命じた。


「異世界から我が国を救う聖女を召喚せよ」と…。




召喚の儀式に使う魔法陣には私の魔力を流し込んである。

これは魔宝石の鉱脈と私自身が連動しているため、魔宝石が求める魔力を有する女性をリーチェス王国に寄越すためなのだ。

聖魔力だけはふんだんに持っていても、聖女に選ばれるのは一人。

もし大勢の女性が来てしまった場合は王宮で儀式を行い、余分な聖魔力を奪ってしまわねばならない。

過剰な聖魔力を持っていては市井で暮らすのも、貴族との婚姻にしても魔力のつり合いが取れず不幸の連鎖が起きてしまうためだ。

…もし授かった子供が母親よりも多くの魔力を持ってしまった場合、母体が耐え切れず母子ともに死亡した例もあると聞く。

こちらの都合で召喚する以上は、責任をもってこの国で暮らして貰うための基盤を作りたい。

…まあ、聖魔力を奪われても本人は気づかぬうちに失うので大事になることは無いだろう。

願わくば、面倒を起こさず大人しい女性を妻として迎えたいものだ。



王宮の大広間横の小部屋に据えた玉座に座り、召喚の儀式を無感情で見つめていた。

どんな人物が召喚されるか判らないので、大広間自体に入るのは安全が確保されてからと宰相からきつく止められていた。

 しかし、どうしてもその瞬間を見て見たかった私は、小部屋の大窓からその様子を見ることにしたのだ。…まあ、大広間からはガラス張りの窓にしか見えないから、私がここで見ていることには気づかないだろうと宰相から許可が出たから実現したのだが。


 聖女に選ばれる女性であれば好意など無くても抱かねばならぬし、心底どうでもいい。

 それでも、異世界からどうやって召喚されるのかの興味が勝って、今回は見物している次第だ。


 光り輝く魔法陣を見つめていると、ぼんやりと人の姿が形作られ、床に座るのが見えた。

…今回召喚されたのは二人か…?しかし、次の瞬間いきなりもう一人の女性が空中へと投げ出され、床に叩きつけられたのを見た時は驚いた。

 怪我はないかと慌てたが、本人は痛いだの、扱いが酷いだの騒いでいるし大丈夫だと判断する。

 先の二人の女性は怯えた目で俯いているのに、最後に現れた女性は物珍しそうな顔で辺りを見回していた。


「リーチェス王国の国王陛下が只今よりお越しになる。全員その場で留まられよ」


 宰相の言葉を受けて、私は聖女候補達の前に姿を現した。


「そなた達が我が国リーチェスを救ってくれる聖女様なのか…?」


 私の問いかけに全員が唖然とした表情でこちらを見上げる。

 だが、私にはこの時点で一人だけに目を逸らすことの出来ない感情が生まれてしまった。

 彼女を見ていると、胸が痛む…おまけに動悸が激しい。…何かの病気だろうか…?


「これから1か月間の間、貴女がた全員に聖女かどうかの試練を受けていただく。聖女様に選ばれた女性は私と婚姻を結び、私の世継ぎを生んでいただくこととなる。異議は認めない」


 そう告げて反応を見るも、どうでも良い二人は既に私の魅了に掛かっているのかボーっと私を熱い視線で見つめてくる。…しかし彼女だけは冷たい視線を崩さない。

 その目に見られていると思うだけで、気分が高揚するのも初めての気持ちだ。


「聖女様ではなかった場合でも王家で保護し、今後はそなたらの要望を出来るだけ聞き入れながら市井で暮らしていただくこととなる。そのための屋敷や資金についても私が保証しよう」


 そのくせ、この提案にだけは目を輝かせる。

 もっと…私だけを見て欲しいと感じてしまう。本当にこの感情は何なのだ?


「先ずは自己紹介をしようか。私の名前はルカ・アーロ・リーチェス。リーチェス王国の国王であり、貴女方を召喚した全責任者だ…そなたたちの名は何と言う?」


 全員を見つめながらも私は既に彼女の事しか考えられなくなっていた。

 …早く名前を…その声を聴きたい…。


 マナカにシホ…この二人は多分聖魔力を奪うことになるだろう。

 最後に彼女を見つめるとハキハキとした声で答えた。


「…一ノ瀬りん…21歳」


 リン…そうか、リンと言うのだな。媚びることのない声音にも私の魅了に掛からないその様子にも好感が持てる。…どうやって彼女の関心を得たらいいのだろう…。


「これはわが国で産出した魔宝石なのです。美しい聖女様方のためにご用意しましたので、ぜひお受け取り下さい」


 全員に魔宝石の結晶を手渡す。これは時間を経て聖魔力を感知して宝石自体の色が変化する物で、対外的に聖女として周りに知らしめるための物なのだ。

 でも今はそんなことよりも、リンが私の色を纏うのを早く見たい一心だった。


 まさか、彼女があそこまで私に興味を示さず、頑なに面会すら拒むとはこの時の私は予想すらできなかったのだから。


お読みいただき、ありがとうございます。

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