33 私の知らなかったコト
「まずは、シホの件だが、トーマと彼女を引き合わせたのは私だ」
はあ?…え…聖女様と第2王子様を引き合わせてどうするつもりだったの…?
「あの…ルカ様はもしかして寝取られ趣味があるんですか?」
思わず心の声が漏れた私にルカ様はイラっとしたような顔でデコピンした…ぅう…ひどい。
「違うわ!この馬鹿者め‼聖女候補の選定中に、シホがトーマのつがいであることが発覚したから引き合わせたまでよ」
「そんなことが…あるんですか?」
「まあ、稀だろうな。選定の儀式で彼女の纏う色がトーマのシトリンだったから発覚しただけで、通常はつがいであっても異世界の者だと本来は出会える確率が低いからな」
…それはそうだろうけど…。
「そう言えば、儀式中にまなかちゃんが倒れましたけど、彼女は大丈夫なんですか?」
「ああ。元々聖女選定の儀式は異世界から来た聖女以外の者の魔力を水晶玉に吸収させることを目的としている。全ての魔力を吸収され、一時的に気を失っただけで今は元気だと報告を受けた」
「…聖女以外の人の魔力を吸収してどうするんですか?」
「聖女の聖魔力は国王に捧げられ、鉱脈の養分になるが、それ以外の者がこちらの世界で高魔力を持っていると、通常の婚姻すら難しくなる。今後の生活の為にも、全ての聖魔力を取り上げてから市井で暮らす方が本人にとっても幸せだろう」
…そう言えば、魔力量に差があり過ぎると子供が出来た時に母体も出産で危険だって言っていた。
だから高い魔力であるほど危機回避の為に取り上げちゃうんだ…。成程…。
「王家の者はカリスマ性と言われるように、見ただけで相手を魅了する能力を持っている。
だからトーマのつがいであるシホも私の魅了に掛かっていただろう?」
…まなかちゃんもシホちゃんも最初からルカ様にメロメロでしたね。
「トーマのつがいであるシホに髪飾りを渡したのも、私の魅了を解きトーマのつがいだと彼女に気づかせるためだ。決して私はシホを口説いてはいない」
ダンスパーティーで二人を出会わせるためだけに、忙しい中でも髪飾りを渡しに行っていたんだ…。国王様が寝取られ趣味の変態じゃなくて本当に良かった…。
「つまり、シホとトーマが婚姻するのも何の問題も無い。他に聞きたいことはあるか?」
シホちゃんはトーマ第2王子様と結婚できるし、まなかちゃんは聖女じゃないから魔力を奪われた。…あれ?なんかおかしくない…?
「ルカ様…。大変ですよ?ルカ様のお嫁さんがいません‼…ってことはもう1回異世界から聖女様を呼ぶんですか⁈」
狼狽える私を呆れたように見るルカ様は小さく『こいつ…本当にバカなのか?』と呟きました。
…聞こえていますよ!失礼な!
「…とりあえず、お前にはこれから一生王宮で働いてもらうことになる」
ルカ様は私を見つめながら話を続けた。
「最初の1か月は無休で当然外出も禁じられる。王宮での仕事を覚える方が大事だからな。さらに、体力的にもかなりきつい仕事になる」
「できるだけ…頑張ります…」
無休か…まあ、その後は念願の王宮の外に出られるんだから我慢して働こう。
「その代わりと言っては何だが、お前には一生、三食昼寝付きで衣装と住居も与えよう」
…え?破格の条件ですね。それならお給料を全額借金の返済に充てられても生活していけそう…。
でも体力的にきつい仕事か…荷物運びとか、厨房の下働きとかかな…?
「それで良ければお前の気が変わらないうちに契約を結びたいのだが」
「その条件でお願いします」
そんな破格の条件なら、ルカ様の気が変わらないうちにこちらから契約をお願いしたい!
私の言葉にニヤリと笑うと、ルカ様はどこからともなく契約書を出してきた。
「先ほどの条件が明記してあるだけだ。私はこの後、非常に重要な公務がある。さっさとサインしてこちらへ寄越せ」
…こんな夜遅くからも仕事があるんだ。
じゃあ、エイダ渾身のエッチな夜着を見せる必要も無いですね。私はホッとしたような、残念なような複雑な気持ちでサインをする。
その直後、突然契約書と隷属の指輪が連動するように光り輝いた。
「これで契約完了だな。…まったく、お前は騙されやすすぎる。少しは警戒することを覚えないと良い様にあしらわれてしまうぞ?」
クククっと喉で笑いを堪えるルカ様に血の気が引く。
…まさか、私はまた騙されたのでしょうか…?
「これは私と婚姻を結ぶ、婚姻証明書だ。これから一生私の傍で可愛がってやろう」
ええっ⁈婚姻証明書って…。
「あの…私がルカ様と結婚するんですか?あれ?聖女様は…?」
狼狽える私の頬を撫でるとそのまま深く口づけられました。
「お前が聖女だからに決まっているだろう。…本気で気が付いていなかったのか?」
「だって…水晶玉も反応しないし、ルカ様だって私の事を好きだなんて一言も言わなかったじゃないですか⁈それに、ルカ様の魅了?の力も私には効いていませんよ?」
だって魅了されていれば私だって最初から国王様を好きになったはず!
でもそんな兆候は一度も無かったし…。
「国王の魅了の力は聖女には効かないのだ。だから、国王はこの選定の期間中に聖女と愛を育むため心の準備をする。水晶玉も、聖女以外の不要な高魔力を奪うための道具だから、お前の聖魔力を奪う訳が無い。…リンの聖魔力は全て私のモノとなるのだから」
…愛を育む…?あの痴漢行為や、顔を舐められて無理やり部屋に連れ込まれたあの行動が…?
犯罪行為を受けた覚えはありますが、求愛された覚えは無いのですが…?
「確かにお前に無理強いしたことは認めよう。だが、婚姻証明がある以上、私たちは夫婦なのだ。
もう我慢したくない…」
「いやいやいや‼さっきこの後で重要な公務があるって言っていましたよね⁈我慢して公務に行ってくださいよ‼」
「…聖女と交わり、この国に聖魔力を満ちさせることこそ重要な公務であろう?お前の場合、心を堕とすよりも躰から堕とした方が早そうだからな…」
ひーっ⁈このままでは強姦される未来しか見えません。
私だってルカ様を好きなのに、無理やりされるなんてどんなSMプレイなのよ⁈
…彼の誤解を解かないと、それこそエッチの後は拉致&監禁コース確定しちゃう…。
「あ、あの私が聖女だから…ルカ様…ルカは私を抱きたいの?」
私の言葉に一瞬だけ戸惑った様子で彼は私を見つめました。
「…判らない。始めてこのリーチェス王国にお前が現れた瞬間から、私にはリンのことしか目に入らなかったから」
「え…?でも、全然そんな風に見えなかった。全員に平等に接していたし…」
「国王たるもの、直ぐに顔に出す訳が無かろう。最初から私のモノにしたくておかしくなりそうだったのにお前ときたら…」
「…えへへ…最初の日は死ぬほど疲れていたから…ね?」
「まったく私を見もせず、避けるわ、嫌うわ、悪口を言うわで…あげくに逃亡まで図ろうとするとは思わなかった。歴代で一番困った聖女だったな」
…そう言われると、ちょっとだけ申し訳ないな~なんて思うけれど…。
「でも、自分は聖女じゃないと思っていたし。…最初は意地悪で変態な国王様だと思っていたから逃げ出さないと聖女様のスペアにされちゃうと思ったんだもん」
「…変態…そうか。では、今のお前の気持ちはどうなんだ?…私に抱かれるのは嫌なのか?」
…今の私の気持ち…?
後2話、連続で投稿しますね。




