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31 最後の聖女様選定の儀式

エイダは張り切って私を磨いてくれた。勿論あの『エッチな夜着』も着せられた。


「良いですか?先ずは相手が油断している隙に懐に飛び込むのです。そのまま首に手を回して口づけでもしてやれば、後はこちらの言いなりですから」


…エイダ、それって閨の作法じゃなくて、暗殺者の手順じゃないの?


「でも、最初にそんなことしたら話なんかできないよね…?」


「何を言っているのですか!先ずは相手の出鼻を挫く!そして相手が最高の気分になったところでおねだりをすれば殆どの我が儘は通るものですよ!」


…だから、そんな閨のテクニシャンみたいな講座をされても、私は経験が無いから手に余るって言うか…。


「初めての恥じらいがあれば、益々男は燃えるものですよ!下手な手管を使うより、恥じらいつつも積極的に攻めましょう」


…やっぱりエイダは騎士なんだなって心から思う。

アドバイスが切り込み隊長のソレだし、寝込みを襲うみたいな話になっているもん。


「頑張って下さいね!」


エイダのアドバイスを胸に私はルカ様のベッドでドキドキしながら、彼の帰りを待ち続けた。


…結論から申し上げると、彼は私室に帰ってこなかったのだ。その日も、翌日も‼

よだれを垂らしながら大の字になって朝日を浴びた乙女の気持ちが判りますか⁈





「あああ、どうしよう…」


私は心底困っていた。

だって今日は聖女様選定の最終日だというのに、ダンスパーティーの日以来、ルカ様が一度も私室へ帰って来てくれないのだ。これは本気で怒っているやつだ…。


「あんなに張り切ってご準備されていたのに無駄になって残念でしたね」


エイダ…その言い方は私がルカ様とイチャイチャエッチをしたくて待っていたみたいだから止めてください。


「別に…それは構わないけれど、シホちゃんとトーマ王子様の関係とか、私が借金を返す話とか何にも出来ていないことが問題なんだよ!」


 後、ルカ様を待っているうちに寝冷えしてお腹壊したことも…。


「国王陛下は執務室にお泊りだったみたいですね。もう済んだことは忘れて、今日こそは実践してみましょう」


「…エイダの好きな様にしていいよ」


 私の言葉にキラリと彼女の目が光った気がする。…気のせいだよね?


「それでは、今夜のお支度は私に一任していただけると言うことで宜しいですね?私の閨知識を総動員してルカ様を落としましょう!」


「今日も帰ってこないかもしれないし、別に張り切らなくても…」


「…では、私は新しい夜着の準備がございますので、これで失礼いたします。早速、町で流行の“マンネリでも大丈夫!旦那も大・満・足・夜着”を購入してまいりますわ」


 言うが早いか、エイダは私の世話を別の侍女に任せると風の様に去って行った。

 え…“マンネリでも大丈夫!旦那も大・満・足・夜着”ってナニ?正式名称なの…?



 結局ルカ様とは顔を併せないままで、最後の聖女様選定の儀式が始まった。


「マナカ・ヒナタ前に出なさい」


 宰相様に促されてまなかちゃんが水晶玉に手を触れると今まで見た中で一番の輝きを見せて水晶玉が輝いた。

 でも、まなかちゃんの掌から出る光はどんどん薄くなっていて、そのまま水晶玉の中へ吸い込まれるように消えてしまう。

 輝きが消えると同時にまなかちゃんの体が崩れ落ちるように倒れると、王宮警備隊の人たちが当然の様に彼女を運んでいった。


「え…?まなかちゃんは大丈夫なんですか?」


 狼狽える私を宰相様は無言で見つめると『…問題はない』とだけ言って儀式を続けるよう促した。


「次はシホ・オノダ、前に出なさい」


 先ほどのまなかちゃんを見たことで恐ろしくなったのか、シホちゃんはためらいながら、そおっと水晶玉に触れた。

 先ほど見た強い刺すような光では無く、黄金の輝きが水晶玉の中で踊る様に揺れている。

 それはいつか見たスノードームのようで、中で黄金の雪がいつまでも舞っている様はやはり彼女が聖女様だと水晶玉に認められた様に思われた。


「最後にリン・イチノセ、前に出なさい」


 今迄、何ひとつ変化の無かった水晶玉だけれど、もしかしたら最後に私を認めてくれるかもしれない。私がルカ様を幸せにしてあげたいの…お願い!

 そう必死で願いながらヒヤリと冷たい水晶玉に触れる。

 …でも結局、今回も変化は無いままに水晶玉は冷たく光っていた。

 結局、そんなに上手い話はやっぱり無いのだ。


「これから最終の確認をする。ペンダントを国王陛下にお見せしなさい」


 言われて国王様の待つ玉座に進むと、そこにはルカ様が威厳を持って座っていた。

 …久しぶりにお顔を見れたな…。久しぶりに見ると何という顔面偏差値!好きだから5割増しぐらいカッコよく見える…変態なのにカッコいいとか何なの⁈


 たった数日の事なのに、抱き着きたくなるのをグッと堪えた。

 私の大好きな金色の髪と碧眼を持つリーチェス王国の国王様…。


 シホちゃんのシトリン色に輝くペンダントを確認すると彼は微笑んで頷いた。

 それなのに、私を見る目は冷たい。

 やっぱりこの間のことを怒っているんだ…。でも私が謝罪の言葉を口に出す前に彼から促され、思わず黙る。


「リン、ペンダントを見せなさい」


 そっと胸元からペンダントを出すと、それはいつの間にか鮮やかな青色に輝いていた。

 輝くコバルトブルーのその石を国王様は見つめると、その宝石から目を逸らす。

 それが私から目を逸らしている様に感じると胸が抉られるように痛んだ。


「…これによりリーチェス王国の聖女は選ばれた。聖女様には個別で話をさせてもらおう。今までご苦労であった」


 国王様に宣言され、ここに聖女候補の選定儀式は終わりを迎えたのだった。




「…何だか、あっけなく終わっちゃった気がするわ」


 最初にこのリーチェス王国に召喚されてから既に1か月が経ったことになる。

 でも怒涛の月日に、感傷に浸る暇もないまま今日を迎えてしまったのだ。

 結局、シホちゃんにはトーマ様とのことを国王様に伝えられなかったことを謝った。


「リンさんに伝えてもらおうなんて、私も卑怯だったよね。自分の気持ちは直接話さないと伝わらないから、国王様には逃げないで話してみるわ」


 私の事を怒らずシホちゃんは微笑む。…シホちゃんは強いな…心からそう思う。

 異世界に召喚されて国王様に環境依存していても、自分の本質は見失わないままで生きる強かさを持っている。だからこそ、本当に好きな人が出来た時に臆さず恋に飛び込めるのだろう。


 それに比べて、私は弱虫だ。

 ルカ様のことを好きなのに、聖女様との関係を壊して欲しくないから離れたいなんて綺麗ごとを言って誤魔化してきたのだから。

 結局は自分が拒絶されるのが怖くて言い訳していただけなのに。


「今日でルカ様とのこんな生活も終わるんだから、最後ぐらいはしっかり想いを伝えないと。こんな惨めなままでお別れできないよ…」


 明日からは借金を返済する雇い主と使用人として関係を変えないといけないのだから。


後数話で本編が終了します。蛇足ではありますが、国王視点の話を続けて投稿しますので宜しければお読みください。

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