3 部屋に国王陛下がやってきた←迷惑…
「リン様、起きてください!既に皆様はお支度されて大広間に揃っていらっしゃいますよ?」
エイダに起こされて、ここが異世界だってことを思い出した。
…そう言えば、腹減ったな…今は何時だろうと聞けば、既に昼に近い時間だった。
昨日のお風呂とこのふかふかベッドのせいで、爆睡をしてしまったようだ。
疲れていたし、仕方ないよね?
そう思いながら「エイダ…お腹空いた…」と甘えると、
「本日は国王陛下と謁見がございますし、大広間へお急ぎください」と着替えを勧められる。
…ぅう…面倒くさいし、私は聖女じゃないんだから国王様と会わなくても別に良いんじゃない?
そう思った私は一芝居することにした。
「エイダ…まだ体調が優れないみたい…今日はもう一日ここで休むことにするわ」
そう言うと、エイダはいきなり慌てだした。
「お熱は無いみたいですけれど…昨日お風呂でのぼせたせいですかしら?お医者様を呼ばなくちゃ…食欲はありますか?」
「お医者様はいらない。きっと疲れだから寝ていれば治ると思うんだよね。…でもお腹はすきました」
「判りました。…では、おかゆをお持ちしますね」
エイダはそう言って疑うように私を見た。いやいやいや‼それじゃ足りないから‼ガッツリ腹減っているんですよ⁈
「昨日の夜も何にも食べていないから、もう少し…しっかり食べたいな~なんて…」
私を怖い顔で見つめていたエイダがフッと表情を変えると「…仮病ですね?」と笑いだしてくれたことにホッとする。
「異世界から来られたお二方はルカ国王陛下に夢中なご様子なのに、リン様は陛下がお嫌いなのですか?」
…やっぱり、会いたくないと思っていたのがバレていたようだ。
「うーん…嫌いなんじゃないけれど、苦手…かな?」
そう曖昧に答えることしかできない。
「だって、ルカ国王っていつも笑顔だけれど、あれって作り笑いでしょ?目が笑っていないから直ぐに判ったよ。大体、金髪碧眼で自分がイケメンだから適当に相手していれば勝手に相手がなびくと思っているところも嫌いなタイプだし、昨日初めて会った時にも冷静に観察している感じで態度が悪いよね?それに…」
グチグチとベッドの上で布団に包まりながら、私はルカ国王の悪口…もとい苦手な部分を言うことに熱中していた。
だから気が付かなかったのだ…いつの間にかエイダが扉の方へ行き、誰かと会話していたことに…。
「ほう…?リン・イチノセ様は私が余程お嫌いとみえますね?」
いつの間に現れたのか、そこにはルカ国王がひきつった笑みを見せて立っていた。
エ、エイダは?エイダ助けて…。扉の前に立つ彼女に助けてと目で訴えるも彼女はそっと首を振った。…国王が来たなら教えてくれればいいのにー!
「それに、貴女は中々私のことを良く見ているご様子…。実際には私のことを気にしているのでは無いですか?」
…ここでYESと言えば正解なのだろうか…?否!こいつは私のことに微塵も興味なんか無いくせに、結局は誰が聖女でも大丈夫なようにと媚を売っているだけの腹黒国王に決まっている。
取りあえず、衣食住を確約して貰っている以上はあんまり刺激しないようにして、聖女様が決まったらさっさと出ていけるように準備しよう。
私が必死に考えているというのに、返事が無い事に焦れたのかルカ国王は私のベッドまで来ると無理やり私の顎を掴んで上を向かせる。気が短いな、爆ぜろ!
「聞こえていないのですか?本当は私のことを意識しだしているのでしょう?」
そう言われて、慌てて頷く。
「そうです。ルカ国王様って素敵だな~って思っていました。でも、御前に出ると緊張し過ぎて…私ごときが傍に寄るなんておこがましいかなって」
私が白々しい演技をしているうちに彼の微笑みがどんどん真っ黒な腹黒い笑みへと変わっていく。
「先ほどは、作り笑いだとか、適当に相手をしていれば靡くと思っているところが嫌いだとこの口は言っていたようですが?」
そう言いながら、顎を掴んだ手で両頬をムニムニされる。
ひょっとこみたいな顔になるから止めろ!そう思いつつ、私は冷たい汗が背中を流れていくのを感じていた。
ヤバい…全部バレている。このままでは私の安定の衣食住が奪われる。
言葉も通じない場所へいきなり単身放りだされたら、あとはホームレスか野垂れ死にするだけだ。
どうしよう…必死に考えるも何も打開策がないままに土下座しかないかと思った瞬間『ググ~グググ…グウ~』と私の腹の虫が盛大に鳴いたのだ。
唖然とするルカ国王…その後大爆笑されました。
…だって昨日の夜から何にも食べていないんだもん、腹ぐらい鳴るわ。
あまりに可笑しかったのか、ルカ国王は涙を流して笑っている。…なんだこんな顔して笑うことが出来るんじゃんね。
「いつもみたいに嘘くさく笑っているより、そっちの方が絶対に良いですよ」
ポロリと言葉が零れると、ルカ国王は「え…?」といきなり真顔に戻った。
「今、なんと申したのだ?」
そう言いながらも私の顎からは手を離してくれない。ムニムニムニ…その手つきは止めろ!いい加減ひょっとこ顔は乙女にはきついのですが…。
「いや…だから、作り笑いしないで今みたいに笑っていたほうが体にも心にも良いですよって話ですよ!私はここに来る前の世界で、はやり病で死んじゃう人をいっぱい見て本当に辛かったから、無理して笑う人はもう見たくないんです!」
そう、私がいた国では毎日大勢の人がはやり病で苦しんだり、死んでいった。
どれだけ病が広がらないように対策してもいたちごっこのようにそのウイルスは形を変えては猛威をふるい続ける。
助かる命が助けられないのも、自分がちっぽけで無力なのも判っている。
でも、少しでも助けになればと必死にもがいてもがいて毎日を生きていたのだ。
笑える時には笑えば良いし、泣きたいときには泣けばいい。立場や状況で我慢することも必用だけれど、思いっきり自分の感情を出せる場所だって必要だから。
「ルカ国王が国のために頑張るのは立派ですけれど、無理をし過ぎたら倒れますよ?時々は休息を取って、自分を労わってあげてください」
…だから私のことも労わって、ご飯と今後の安定した衣食住をお願いします。そう続けるつもりだった私の唇は何故か彼に塞がれていた。
…なんで、ルカ国王と私はキスしているのだろうか…?