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28 セオドア王子の陰謀

「うん、リンならきっと正しい選択をしてくれると思っていたよ」


セオドア様はニコニコしながら、私をクルリとターンさせる。


「それではこのダンスが終わった後、廊下で落ち合おうか。今なら、ルカ国王にも気が付かれずに亡命の契約を結べそうだからね」


「…亡命の契約…ですか?」


「そうだよ。亡命の後で私がリンを利用して、その後に価値が無くなれば捨てることだってできるんだ。自分の身を守るためにも契約は必要でしょう?」


…そうか…。確かに私から情報だけ引き出せば、用無しになった私を放り出すことも簡単にできる。そうしたら私は異国の地で一人ぼっちで…。


「だからね、私と踊ったら直ぐに廊下においで?私が部屋まで連れて行くから。その場で契約しよう」


セオドア様の言葉に頷く。


「きっと、リンは幸せになれるからね」


耳元で囁くセオドア様は心から嬉しそうだった。



ダンスが終わると、席へ戻るフリをして私はそのままセオドア様の待つ廊下へと飛び出した。


「待っていたよ。今、ルカ国王は弟のリアムに相手させているけれど、長くは持たなそうだから少し急いでくれるかい?」


そう言うと、彼は私の手を掴んで走り出した。

先ほどまで踊っていた私は息が上がっているのに、セオドア様はまったく疲れを感じさせず、物凄い力で引っ張っていく。


「ごめんね、無理させちゃったみたいで」


滞在する部屋へ着くと、シレッと謝るけれど私は既にヘロヘロだった。

ヒールの高い靴も途中で脱げ、どこかへいってしまった。

今は裸足だし、多分化粧も汗でボロボロだろう。


「この契約書にサインしてくれるかな?オールヴァンズ王国に亡命して、力を尽くしますって書いてあるのだけれど」


スッと羽ペンと羊皮紙が差し出される。


「あと、これは隷属の指輪…隷属って言っても奴隷じゃなくて、契約を守るって言う証みたいな物だから」


そう言って左足の薬指に勝手に付けられてしまった。


「じっくり契約書を読みたい君の気持ちは判るんだけれど、時間が無いんだ。もしこのタイミングを逃したらきっと君は一生逃げ出すチャンスを失う…どうする?」


セオドア様の言葉は私を不安にさせる。

…亡命するなんてこれが最後のチャンスに決まっていることは事実なのだから。


「リーチェス王国の国王はあのシホとか言う女性と恋仲みたいだしね。ここにいるのはリンにとっても辛いんじゃないかな?」


セオドア様の言葉にツンと鼻の奥が痛くなる。辛い…ここにいるのは…。

急かされる言葉に促されるように、私は無言で契約書に自分の名前を書き込んだ。

サインを終えた瞬間、足に付けた指輪が締まって抜くことが出来なくなったことに気づいた。


「これで、契約完了だね!…これで君は私のモノになったんだ。私が帰国する際には一緒にこの国を出ることが出来るよ、おめでとう」


何故だか、先ほどとは違うセオドア様に少しだけ違和感を覚えて、私は先ほどの契約書を見せて欲しいと頼んでみる。


「うん、本物は渡せないけれど、写しなら良いよ」


そう言って渡された内容に私は戦慄することになった。

私がサインした契約書はオールヴァンズ王国に亡命し、国の為に働くという内容では無く、セオドア様本人に永遠に忠誠を誓うといった内容だったから。


「私に忠誠を誓ってくれれば亡命できるし、嘘は言っていないよ。それにリンは可愛いけれど、私には最愛の婚約者がいるから。だから君を女性として愛することは絶対に無いし無体な真似もしないから、安心してね」


「…オールヴァンズ王国で私が民の為に働くと言うのも嘘ですか…?」


「それは本当だよ。やってもらう業務内容は君に説明したとおりだ。…でも私を裏切れないように、他の良い条件に靡かないよう隷属契約してもらっただけだからね」


…騙された…。私は自分の愚かさを激しく呪った。

いくら時間が無いと言われたからといって、契約書を良く読みもしないでサインするなど問題外だったのに…。

この世界にはクーリングオフ制度もなさそうだし、私はあまりのことに絶望していた。


「君なら私の婚約者もきっと気に入るだろうな。天使のような女の子だから友達になれるかもしれないよ」


力が抜けて床へ座り込む私の頭を撫でるとセオドア様は『そろそろ、君の最愛の人が助けに来る頃かな…』と訳の分からないことを呟く。

 程なくして、廊下に足音が鳴り響くと、王宮の警備兵やエイダ、そしてルカ様が扉を蹴破る勢いでなだれ込んできました。


「セオドア王子、ここに私の国の客人が紛れ込んでいると報告がありました。ご迷惑をお掛けして申し訳ないが、こちらでしかるべき処遇をするゆえお目こぼし願いたい」


 ルカ様は私を見るとホッとしたように手を伸ばしてくれる。

 でも、その手を遮る様にセオドア様は私を背に隠すとルカ様に微笑みました。


「リン様は私の国へ亡命を希望されています。既に彼女とは契約も済み、隷属の強制力も働いています。ここからは私が彼女の世話を請け負いますからリーチェス国王におかれましては気遣い無用ですよ」


「…隷属の契約…?まさか⁈」


「ええ、既に契約は完了していますから。無理に取り戻そうとすれば国家間の問題になりますよ?どうされますか?」


 あくまでも穏やかな顔をしているけれど、セオドア様の行為は明らかな挑発だ。

 それは、ルカ様から有益な交渉を引き出そうと狙っている肉食獣のような恐ろしさを感じさせた。


「何が望みなのだ…」


 根負けしたようにルカ様がため息を吐くとセオドア様の目が嬉し気に細められた。


「…そうですね。では引き換えに魔宝石の有望な鉱脈の一部を頂く…というのは如何ですか?」


 彼の要求はまだ始まったばかりだった。


アメリアが【閨教育】を受けていた裏で、セオドアが他国訪問しながらこんなことをやっていたよってお話しです。←前作をお読み頂いていない方…雑談ですので気にしないで下さい。

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