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27 シホちゃんが聖女様だったんだ…

  翌朝、夜更かしのせいで昼近くまで寝てしまった私は心を決めた。

 …オールヴァンズ王国へ亡命して人の為に働こう…と。

 これ以上悩んでいても、行くか、ここに残るかの答えは二つに一つなんだから。

 だったらルカ様が聖女様と幸せになることを祈りながら、異国の地で再出発するのも有りだなと思えた。

 傍に居たら、きっともっとルカ様を好きになっちゃうから…。その時後悔しても、亡命も出来ず、王宮のお荷物兼ペットとして生きていくのでは遅いのだから。


「幸運の女神さまは前髪しか無いって言うもんね」


 “チャンスは早く掴まないと逃げてしまうよ”と、優柔不断な私はよく家族にも言われていた。

 だから、この決断を後悔することが無いように生きていくしか…道は無いのだ。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 そして、あっという間にダンスパーティーの日がやってきた。

 おかげ様でワルツも踊れるようになり、講師の先生からは「基本はバッチリです。後はリードする側の男性を振り回す勢いだけは出来るだけ抑えましょう」と太鼓判を貰えて得意になる。

 頑張ったもん、私‼確かに先生の事を軽く振り回しちゃった感はあるけれど、講師の先生はおじいちゃんだったから、きっと足腰が弱っていて振り回されただけだよ!

 今日踊るのは若い人だろうから、ちょっとくらい私に勢いがあっても、吹っ飛ばないよ…多分。


 お風呂に入って香油マッサージを受けてコルセットでギチギチに固められて…といつもの行程を受けた私は、準備が出来た所で控室へと連れて行かれた。

 そこには久しぶりに会うまなかちゃんとシホちゃんが勢ぞろいして談笑していた。


「久しぶりだね~!二人とも元気だった?」


 ウキウキしながら話しかけると二人とも相変わらずだった。


「あら?リンさんはまだ王宮にいたのね。てっきり聖女様選定でも水晶玉にすら相手にされていないから恥ずかしくて逃げ出したと思ったわ」


 まなかちゃんが高らかに笑う。…安定の嫌味ぶりにホッとするわ~。


「本当に久しぶりね、お元気そうで良かったわ。今回はいきなりダンスパーティーだからワルツを覚えろなんて言われて大変だったものね」


 シホちゃんも優しく微笑んでくれる。

 ああ、本当に変わらないな…二人とも。


「今日は隣国のオールヴァンズ王国の王子様が二人、来ているからダンスパーティーをするらしいよ」


「でも、どっちも既に婚約者がいるらしいじゃない。それじゃあ、媚売っても仕方ないし、私は国王様がいるからどうでもいいわ」


「そうね…、そう言えば今日は国王様の弟の第2王子様がダンスパーティーに参列なさると聞いたわ」


 シホちゃんの言葉に私もまなかちゃんも驚く。


「え…?そうなの?」


「ええ、第2王子様はまだ婚約者がいないみたいで、今回のダンスパーティーでお相手を見つける可能性もあるかもしれないって国王様から直接伺ったのよ」


 ニコニコして教えてくれるシホちゃんには悪いけれど、私はショックを隠せなかった。


「いつ…聞いたの?」


「昨日よ。わざわざ私の部屋へ来られてね『貴女の美しさでパーティーに華を添えて欲しい』って髪飾りを頂いたのよ」


 確かに彼女の髪には大ぶりのシトロンの髪飾りが輝いている。

 嬉しそうに話すシホちゃんに相槌を打ちながら、私は既に話しを聞いてはいなかった。


 昨日…国王様は自室へは帰ってこなかったのに、シホちゃんの部屋へは行ったんだ。

 …判っていたことだし、所詮ペットの扱いしかされない私が望んではいけないことだとは知っている。それでも特別扱いされていると思い込んでいた自分の浅はかさに涙が出た。

 忙しい合間を縫ってまでシホちゃんの部屋へ行ったのは、ルカ様が彼女の顔を見たかったからだろうし、自分の髪色を髪飾りにして纏わせたのも多方面への牽制だろう。

 きっとシホちゃんはこの国に…そしてルカ様に選ばれた聖女だったんだ…。


 ショックは大きいが、これで踏ん切りがついた。

 もう、ここにいることは出来ない。今夜、セオドア様に亡命をお願いしよう。

 心の中はボロボロだったけれど、今は立ち止まっている暇は無いから…すべてが終わった時に泣けばいい…。

 私は涙を堪えながら作り笑いを浮かべたのだった。



 夕闇の中で始まったダンスパーティーは思ったよりも大規模なものだった。

 大広間にあふれかえる人の波がうねりの様に押し寄せては反している。

 私達、聖女様候補は王族では無いので、少し離れた場所に席を設けられ、そこから談笑する人たちを見ていた。


「これが全部貴族なのかしら…ものすごい数ね」


「本当…人ごみに酔いそうだわ」


 ヒソヒソと三人で話しながら辺りを見回すとふいにこちらを見ていたルカ様と目が合った。

 久しぶりに顔を見れて嬉しい反面、もしかしたら私では無くてシホちゃんを見ていたのかと思うと心がモヤモヤと真っ黒に染まっていく。

 ヤキモチ焼いてる場合じゃないのに…胸が苦しい…。これ以上ルカ様の顔を見ることが出来ず、私はそのまま俯いた。


 それからどれだけの時間が経ったのか、気づくと音楽が変わっていた。

 最後のワルツが流れている。

 これさえ踊れば、この場所から解放されるのだ…ホッとした時、私の前にスッと手が差し出された。


「リン、返事を貰いに来たよ。さあ、踊ろうか」


 セオドア様の手を取ると、既にシホちゃんやまなかちゃんも踊っていたことに気が付いた。

 シホちゃんのお相手は見たことの無い金髪の男性で、まなかちゃんはルカ様と踊っている。


 私がダンスホールへ進み出ると、ルカ様が一瞬こちらを凝視したのが判った。

 音楽に乗せ、ゆっくりと体をセオドア王子様の方へ傾けると上手にリードされる。

 さすがは王子様だけあって、私のぎこちないダンスでもブレることなくスムーズに踊れている。

 流れるような足取りで中央へステップを勧めた時、セオドア様から囁かれた。


「それで…この間の返事は?」


「はい。私は貴方の所へ参ります。亡命をお願いします」


 この瞬間、私の運命は決定したのだった。


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