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26 いきなりの亡命チャンス到来

「あの…私、そろそろ部屋へ戻らないと…」


ルカ様には聖女のことは王家の秘匿だと聞いていたのに、よりによって拙い人に会ってしまった…。踵を返そうとした私をあっさりと本棚の隅に捕獲してセオドア様は笑う。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。私は愛する人以外に不埒な真似はしないし、彼女以外の女性は目に入らないから」


…いや、あなたがその人を好きなことは理解しましたが知らない女性について熱く語られても困ります。それに問題はそこでは無いのです。


「あの…異世界って何のことですか?私は王宮で働く下働きです。何のお話しか分かりかねますが…」


これで誤魔化せないかな…そうすれば逃げられるかも…そう思った私は甘かった…。

セオドア様はコテンと首を横に傾げると『そんな適当な作り話で騙せると思うなんて、私は舐められているのかな?』と不穏なことを言いだした。

この王子様、見た目はキラキラで無害なイケメンに見えるけれど、中身はとんでもない腹黒かもしれない。


思えばルカ様も見た目は金髪碧眼の完璧な美形だったのに中身は結構アレだったしな。

…王族は国を守護する立場だからチョロくちゃ侵略される危険もあるし腹黒なのは仕方ないのかもしれない。

でもさ、そもそもどうしてこんなところにオールヴァンズ王家の王子様がいるわけ?ルカ様がお相手しているんじゃないの⁈

 私の考えを読んだようにセオドア様が目を細めた。


「異世界から来た少女が機密まで含まれる王宮の蔵書庫の利用を許可される…普通に考えても好待遇だよね?それに先ほどから貴女が読んでいた本は近隣諸国の産業について書かれた物ばかりだった。…もしかしてだけれど、貴女が亡命を希望するのなら私が力になってあげられるかもしれないよ?」


 とっさに顔を上げてセオドア様を見つめてしまう。

 …まさかこんな簡単に亡命の力になってくれる存在が現れるとは考えもしなかった。

 でも、美味い話には裏があるものだ。


「セオドア様が私を亡命させても何の得も無いかと思いますが?…私を騙そうとしていらっしゃるのでは?」


 ジト目で見ると彼が面白そうに笑い出したのには驚いた。


「ああ、面白いねキミ。リン…だったかな?別に騙そうとしたわけじゃない。リンを亡命させれば私にもメリットがあるから話を持ち掛けたことは間違いないけれど」


 …オールヴァンズ王国のメリット…?


「私は現在民のための政策を行なっている途中なんだ。だから異世界でどのような取り組みをしているのかを教えて欲しい。君の知識を得ることが出来れば国にとっても大きなメリットになるだろう?」


 そう言われれば頷くしかできません。確かに私を亡命させればその知識はオールヴァンズ王国の物になることは間違いない。


「フフ…もう異世界から来たことは否定しないんだね。それに、君は王宮に閉じ込められて、ただ日々を過ごすよりは、自分自身の力を役立て、人の為になる方が幸せじゃないかな?」


 …確かにその通りです。私は人の役に立つ仕事がしたいのですから…。


「急な話で、直ぐに結論を出すのは難しいだろうから返事は待つよ。私たちがここを発つ日のダンスパーティーで返事を聞かせて?」


 そう言うと妖艶に微笑みました。


「どちらが本当にリンにとっての幸せなのかをよく考えてから返事をしてね。待っているよ」


 それだけ伝えると、彼はもう振り向くこともせず、蔵書庫から出て行く。

 私は急に与えられた亡命というチャンスに只々戸惑い、暗くなるまでその場から動くことは出来なかった…。



 部屋へ戻ると、既に夕食の時間が過ぎていたようで、慌ただしく準備される。

 でも、何を食べていても、先ほどのセオドア王子様との会話が頭から離れてくれない。


 …王宮に閉じ込められることと、仕事を得て人の為に働くこと…『どちらが本当にリンにとって幸せなのかをよく考えてね』…今ルカ様も、エイダもここにいなくて良かったと心から思えた。

 だって、すぐに顔に出てしまう私の考えなどあの二人には気が付かれないはず無いのだから。



 ベッドで横になっていても考えは纏まらず、同じことばかり考えてしまう。

 もし、オールヴァンズ王国へ亡命すれば、異世界の知恵を使って民の為の政策を充実させたいって言っていたっけ。

 たしか、蔵書庫で読んだ本にも最近のオールヴァンズ王国は民の為の病院や医療制度まで確立させたって書いてあった。

 だからセオドア様が言っていたことは全てが嘘では無いのだろう。

 もっと自国民が幸せになるために私の知恵を使ってもらえるのなら、それはきっとやりがいも、幸せもあるに違いない…。


 このまま王宮にいて、聖女様じゃなかった場合…私は恐らく聖女さまでは無いけれど…王宮でルカ様のペットのように扱われて、飽きたら捨てられるのか。それとも市井で暮らすようになるのか…。

 どちらにしてもルカ様の傍には居られない。


 それに、もし傍に居ても良いよと甘やかされても、聖女様と愛し合うルカ様が私を可愛がることは聖女様にとっても気分のいい事では無いだろうし、喧嘩の火種になりたくない。

 私自身も、ルカ様が蕩けそうな笑顔を聖女様に向けるのを傍で見ていることなんて絶対に耐えられないと思う。…今だって独占欲で傍に居ないことが哀しくて堪らないのに。


 この居心地のいい牢獄で傷つき続けるぐらいだったら、亡命して人の役に立ちたいと思うのは間違っているのだろうか…?彼から逃げ出して…。

 真っ暗闇の中で、私は只ひたすらにそれだけを考え続けてしまったのだった。


前作のセオドア王子がこの国に滞在中に何をしていたのかを書くためだけに始めたスピンオフ…気が付けば26話まで来てしまいました。作者の技量が無いため、無駄に長くてすみません。

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