24 だんだんと生まれる気持ち
あの日からルカ様とはベッドの中で色々話をした。
ベッドの中でっていうと、エッチな感じがするけれど健全な関係だからね?
…まあ、ルカ様が聖魔力を欲しがることがあるから、定期的に口づけはすることになった。
…ちょっと…かなり濃厚なやつだけれど。
それから抱っことかもルカ様の体温が気持ち良くて朝になるとくっついて寝ていることも増えたかな。
…気が付いたら夜着の中に手を入れて胸を揉まれていたこともあったけれど、『寝ぼけてやったことだから覚えていない』と主張されて結局不問にされた。
うぐぐ…何だかけむに巻かれた気がする…。
そんなわけで、私はルカ様の生い立ちや、国の現在の状況についてもやっと説明を受けることが出来たのだ。
先代の国王両陛下はルカ様が戴冠式を行なって直ぐに流行り病で倒れた。
流行り病の特効薬はその当時では無く、うつる危険もあるからと結局看取ることは出来なかったらしい。
「それまでも国王としての顔ばかりで、親子としての愛情なんて感じたことは無かったけれど、死んでしまった時には虚無感が凄かった」
そう言って笑うルカ様は寂し気で、今もその時の悲しみを忘れてはいないのだと判った。
人の寿命は神様にしか決められない…。そう言って諦めた目で作り笑いする、本当は寂しいこの人は、いったい誰に心を救ってもらえるんだろう…。
その人が現れて、ルカ様を愛してくれたらいいのにと本気で願った。
それから、リーチェス王国の王家は実際に精霊の末裔っておとぎ話があるそうだ。
何でも、この地に魔宝石の鉱脈を見つけたドワーフと人の娘が恋に落ちて、この国が誕生したとか。魔宝石の鉱脈には王家の魔力と繋がる魔鉱脈っていうものが魔宝石の産出量の増減に関わっているとかなんとか。
「だから、王位継承者の魔力だけでは維持できなくて、現国王陛下の魔力量と同じだけの聖魔力を持つ女性を異世界から召喚するのだ。聖女は…互いの魔力を交わらせ、鉱脈の活力とすることも重要だが、王家の子孫を残すという意味でも重要な存在だからな」
王家にとっては国の存亡をかけた大切な女性なんだね。
「でもさ、もし聖女様に選ばれた人が国王様の好みじゃなかったら…それでも結婚するの?」
私の疑問にも彼は迷わず『する』と答えた。
「聖女に選ばれるのは、魔鉱脈が自分にとって必要な聖魔力を保持していると全身全霊で欲している者だからな。国の為にも娶るのは必然だ。…それに…」
それに?
「魔鉱脈と国王とはやはり波長と言うか、好みが同じでな。大概は問題も無く国王は聖女に溺れてしまう」
「凄いね!聖女って国王様にとっては魅力的なんだ‼じゃあ、今回も安心して選定を待てるんだ」
私の言葉に「いや…今回は…」と言葉を濁す。
「魔鉱脈も国王も聖女には溺れるが、聖女はその法則に縛られている訳ではないからな。やはり聖女側にも愛してもらわねば婚姻は難しくなる」
「うーん…それはそうだよね…。でもルカ様だったらきっと大丈夫だよ!まなかちゃんもシホちゃんも既に国王様にメロメロっぽいから‼私が保証するよ」
思いっきり太鼓判を押してニコニコする私にルカ様は複雑そうな顔をして「そうか…」とだけ答えたのだった。
少しずつだけれどルカ様との距離が縮まっている気がする今日この頃…。
3回目の聖女様選定の儀式が行われた。
いつもの順番で順当に水晶玉に手を当てていく。
まなかちゃん、シホちゃんの時は前回同様に水晶玉が光ったりキラキラしたりするのに、私の時にだけうんともすんともいわないのはどうしてなんだろう?
せっかく異世界に呼ばれたんだから、聖女様じゃなくたって少しくらいは国王様のお手伝いが出来れば良かったのに。
水晶玉にすら拒否されている私じゃ、ルカ様のペットが関の山なのかもしれない。
そしてお決まりのペンダントの宝石確認もされる。
まなかちゃんの宝石は真っ赤なルビーに、シホちゃんの宝石はシトロン…?かな。黄金色の宝石になっていた。
私はと言えば、前回よりも鮮やかなブルーに色を変えていて3人揃えば信号機かよ⁈と突っ込みを入れるぐらいにはカラフルになっていた。
…なんで、元々は同じ宝石だったのに全員の色が違うのかは判らないけれど、最初から今回の選定までに濃淡が変わっただけで色は最初から固定だったことに気が付いた。
もしかしたら、私達聖女様候補以外は全員、既に誰が聖女様なのかを知っているのかもしれない。 聞いても教えてはくれないだろうけれど。
「あと1週間で最後の選定が終わるのか…」
このリーチェス王国に勝手に召喚されてから既に3週間が経過したことになる。
あと1週間もすれば私たちのうちの誰かが聖女様に選ばれて、国王様と結婚する。
そうしたら、こんな監禁まがいの生活も終わりを迎えるのだ。
「あと1週間でルカ様の傍でゴロゴロできるのも終わる…」
ルカ様の膝枕も、なでなでも当初は戸惑ったけれど気持ちが良いし楽だしで慣れてしまった自分がいる。
すでにベッドで添い寝をするのすら何も問題を感じない自分に改めて驚くけれど、あれ以降エッチなこともされないし、同性の友人とごろ寝感覚なのかもしれない。
いや…ルカ様に至ってはペットを可愛がる感覚に近いのかも。
最近は執務室で膝枕されていても誰も気にしないし、変な目で見られることは無くなった。すっかり空気の存在感…。
きっと王宮中の人が『国王陛下の愛玩動物』として私を見ているのだろう。
知らない警備隊の人からも挨拶されたり、メイドさんからお菓子を貰ったりすることを考えると、もしかしたら王宮のペット感覚なのか?…一応人権はあるんだけどな…。
毎日がこんな風に過ぎていたから、きっと最後の選定まではルカ様の傍に居られる。
離れても、この想い出を胸に、元気に市井で暮らそう…。そう思っていた私に国王様が告げた。
「妹姫エンネルの婚約が決まった。明日からはオールヴァンズ王家の二人の王子がこの王宮に滞在するから、しばらくはお前とは会えなくなる」
…えええ…?




