22 こ、このクズ国王め…
部屋へ戻ったルカ様はものすごく嬉しそうな顔でこちらを見ている。
…ナニ?褒められ待ちのお犬様かよ?…でも私の要求した外じゃないし、散々二人とイチャイチャしていたんだから私から褒められる必要は無いんじゃないの?
「…リン様、国王陛下に今日のお礼を仰ってください‼楽しかったと一言申し上げれば良いんですよ」
エイダにヒソヒソと入れ知恵されても言いたくない。…別に楽しくなかったし。
「…今日はお前の要求を叶えてやることが出来たと考えても良いな?」
私が何にも言わないことに焦れたのか、ルカ様の方から口火を切った。
「…私は『外に出たい』と申し上げたのです。…王宮の中庭は外じゃありません」
ムスッくれてソッポを向くとルカ様に顎を押さえつけられて、無理やり前を向かされる。
「話しているときは相手の顔を見なさい。…王宮の庭だって外には違いないだろう?雨も風も外と同じように届くのだから」
うぐぐ…言葉遊びで言いくるめようとしても、そうはいくものか‼
「私は雨でも風でも無いので外壁がある場所は外とは認めません。だから、お礼も言いません」
フンと目を逸らすと、ルカ様の顔が怒りに赤くなるのを感じる。
怒って、おもちゃの私を諦めればいい。こんな我が儘で手に負えない女は要らないと。
そうしてくれれば私も自分では持て余している感情は捨て去って、貴方のいない場所で幸せに生きていけるのだから。
「…どうしてそんなに反抗的なのだ?あの二人は私に奉仕することを心から望んでいたのを見ただろう?…もしかしてヤキモチを焼いているのか?」
「全っ然‼二人とイチャイチャしていて、デレデレする国王様を見るのは楽しかったですよ?でも、私は奉仕なんてしたくないし、外に出たいだけだって話ですよ‼」
国王様に思いきり感情をぶちまけると、少しだけスッキリした。
「デレデレなどしておらぬ。お前が行きたいと言うから忙しい公務の合間をぬってピクニックをしてやったというのに。…やはりお前には仕置きが必要なようだな」
いきなり今までとは違う怒りを含んだ声が聞こえた気がした。
これは本格的に拙いかもしれない…。慌てて踵を返そうとするも顔を掴まれているから動けない。
「お前が素直に私を求め、自分から私の腕に飛び込んでくるように躾けてやろう」
その声には艶っぽさも愛おしさも欠片さえ含まれていない。
ただひたすらに怒りだけが込められていた。
…どうしていつもこうなってしまうのか?私はただ自由になりたいだけなのに。
その時、恐怖に慄きつつも動けない私に、まさかの外から助けが入った。
〝ドンドンッ″と激しくドアがノックされ、廊下では怒号が聞こえる。
外で待機していた執事さんが慌てた様子で駆け込んで来た。
「大変です。王宮の庭に賊が入り込みました‼警備隊の者が向かっていますが、聖女候補様の身柄が危険に晒されていると報告がありました!如何いたしましょう」
国王様は“チッ”と舌打ちすると「エイダに陣頭指揮を執らせる。私はまだやることがあるからここを動けない」と執事さんに指示した。
「はっ!了解しました。聖女候補様の身柄の確保を最優先事項とします。賊の尋問は如何いたしましょうか」
「捕らえられればする。抵抗するなら…構わん、殺せ」
国王様の命令を聞いた執事さんはエイダと一緒に外へ出るとそのまま警備隊に伝えたようで、ざわついていた廊下からは音が消えた。
あれ?…助かったと思ったけれど、国王様がここでやることって…ヤルこと?
まさか、私とナニするために二人を助けに行かないクズとか言わないよね?
頼みの綱のエイダまでいなくなっちゃったし、私が大ピンチなんじゃないの?
「あの…私、お花を摘みに行きたかったことを思いだしたのですが」
恥ずかしいが、トイレに行きたいと思いっきり主張してみる。
でも、国王様は冷たい目で「嘘を吐くな、馬鹿者め」と取り合ってくれない…。
まあ、バレてるよね…。トイレに行きたいのを思い出さないわ普通…。
距離感を掴みかねたので、あえてルカ様の方に一歩歩み寄ると、警戒したのかルカ様が一歩離れた。…ダンスじゃないんだから。警戒するなら顎のムニムニは止めろ。
更に一歩前に出るとまた離れる…。こんなやり取りがしばらく続く。
…あんな躾ける宣言をした割に、手を出されないってことは、ルカ様も少しは迷ってくれているのかも。これは怒りを鎮めるチャンスか?さっきは売り言葉に買い言葉で思わず言っちゃったけれど聖女様じゃなければ出られると信じて我慢しよう。
じりじりと距離を図ってから、思い切ってルカ様の胸に飛びこんでみた。
「ぅっ⁈」
さすがに、体を鍛えているだけの事はある。私の強襲にも彼は倒れず、私を受け止めたのだから。
ルカ様の驚いた顔が予想外に可愛くて、私はそのまま彼に口づけた。
…素直に胸に飛び込めば良いって言っていたもんね?怒りを鎮めて貰ってから後の事は考えよう…そう思った私は本当にバカ者でした。
軽い口づけのつもりが、いつの間にかルカ様に舌まで絡められてドンドン深い口づけに変わっていく…。何度も口内を蹂躙されて、私は息も絶え絶えにルカ様に倒れ込んだ。
…く…口づけが上手い…。こんなことされていたら、腰にクる…。
ハァハァと荒い呼吸を繰り返していたら、先ほどとは打って変わって上機嫌のルカ様に囁かれた。
「やっと素直になったな。私のベッドかお前のベッドか…どちらが良い?」
どちらも嫌ですーっ‼こんな昼間からは絶対に無理!
私は全然覚悟が決まらないまま、ルカ様に食べられそうな危機が訪れました。




