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21 イチャイチャを見せられても…(困惑)

翌日から私は何も話さなくなった。


泣き腫らした目を見て心配するエイダにお世話をされていても、国王様に食事に引っ張って行かれてもずっと無言を貫き続けたのだ。

国王様は私のご機嫌を取ろうと宝石やドレスも贈ってくれたけれど、どれも箱のまま手つかずだからどんなものが送られているのかも判らない。今は部屋の隅に積んである。

あの日から全ての感情が抜け落ちた様に、私の中には空洞が出来ていた。


こんな騒ぎがあっても2回目の聖女様選定の儀式はやってきて、前回と同様に私の時にだけ水晶玉は反応しなかった。

儀式の最後に全員のペンダントも確認されたけれど、まなかちゃんの宝石はルビーのように真っ赤に色が変化していて、シホちゃんの宝石は黄金色の光を放っていた。

私の宝石は前回より少しだけ青みが増したけれど、ほとんど変わらないままだった。


「ねえ、私はこんなにきれいなルビーに変化したけれどリンさんは変わらないままね」


 まなかちゃんが得意げに胸に下げたペンダントを見せてきた。


「リンさん…最近、元気が無いようだけれど大丈夫?…体調のせいで宝石の色が変わらないとかも関係あるかもしれないし、一度国王様にお話ししたら?」


 シホちゃんに心配されて、私は涙が止まらなくなった。

 …異世界に来てから、私自身を心配してくれたのは彼女が初めてだったから…。


「どんな結果になろうと、全員ここで一生暮らして行くしかないのだから仲良くしましょうよ。困ったことがあったら相談にのるわよ」


 少し前まではピリピリしていたのに、すっかり元の優しいカノジョに戻っている。

 聖女様の微笑みってきっとこんなことを言うんだろう。ああ、癒される…。

ルカ様によって開けられた空洞は埋まらないけれど、シホちゃんの優しさに私は少しだけ満たされたような気がしていた。




「…いい加減に口をきかないか」


 あれから数日が経って、例によって無理やり連れて来られた執務室で私はルカ様から嫌味を言われていた。

 …私はルカ様の膝枕でゴロゴロしながら本を読んでいるのだが。


「まったく、強情だな。お前が欲しいと言ったから宝石もドレスもくれてやっただろう」


 別に欲しいなんて言っていない。二人は貰っていたのに私だけエッチな夜着だったことに抗議しただけだ。


「…あれから無理やりお前を抱こうともしていないし、夜も部屋には行かないだろう」


 …当たり前だ。そもそもの前提がおかしいし、こんなに人が出入りする場所で話す内容じゃない。


「どうしたらお前は機嫌を直すのだ?…なんでも叶えてやるから口をききなさい」


 …何でも…?思わずガバリと体を起こしてルカ様を凝視した。


「外へ出たい…」


 それだけ言うとルカ様をジッと見つめる。


「…外ならどこでも良いな?後で文句は言わぬと約束するなら出してやろう」


 首が取れる勢いで頷く。外に出られるのなら何でもいい。


「私と、聖女候補の二人と一緒にピクニックはどうだ?それならば直ぐに手配してやろう」


 …ピクニック‼久しぶりにお外で走り回れて、その上、逃げるチャンスまで頂けるのですか?夢のようです…。


「ピクニック…したいです」


 私の返事に、やっとルカ様はホッとしたように笑顔を見せてくれた。

 笑った顔…久しぶりに見たな…。少しだけ嬉しいような、でも切ないような自分の感情に驚く。


「では、直ぐに手配する。一緒に出掛けるとするか」


 そう言いながら仕事に戻ったルカ様は私の頭を撫でると、先ほどとは打って変わって上機嫌で公務を始める。…もしかしたら、少しは悪いと思っていたのか?いや、ここで絆されたらまた監禁されるかもしれない。

 私はちょろい女では無いのだから!想いを胸に秘めたまま、私は怒られないのをいいことにその日は一日中ルカ様の膝枕で過ごしたのだった。


♦♦♦♦♦♦


「いいお天気で良かったですわね、国王様」


「本当、いいお天気だわ。王宮の花も見頃で最高のピクニックになりそうですわね」


 まなかちゃんもシホちゃんもご機嫌で国王様の両腕に侍っている。


「日差しの中で見るそなたたちは殊の外美しいな。だが、強い日差しは肌を痛める。無理はするでないぞ」


「まあ…国王様に美しいなんて言っていただけるのは光栄ですわ」


「私たちは国王様の為にこの世界に来たのですから、存分に愛でて頂きたいですわ」


「愛いやつだ…。どれ、手ずから食べさせてやろう」


「あーん…ああん、美味しいですわ。国王様もどうぞ召し上がれ?」


「ふふ…それでは頂こうか?」


 …あの…一体、私は何を見せられているのでしょうか?

 二人がベッタリと国王様に侍って、イチャイチャと日差しの中でお互いにクッキーを食べさせ合ったり見つめ合っているのを見ているのは構わない…いや、かなり途方にはくれるけれど。

 …それでも問題はない。ちょっと白目にはなるけれど。

 でも、私は『外に出たい』と彼に要求をしたはずだ。

 …決して、王宮の中庭に出たいと言った訳では無い。


「リン様…ここも外でございますよ。そんなに不満そうな顔をなさらないで下さい」


 ヒソヒソとエイダに耳打ちされたけれど、厳密にいえば外じゃないよね?

 だって高い外壁に囲まれていて、外の世界には出られないんだから…。


 それにここは確かに素敵なガゼボだけれど、中庭でお茶を飲んでも、部屋でお茶を飲んでも環境はあまり変わっていない気がする。

 まなかちゃんとシホちゃんが国王様とイチャイチャしているのを初めて見たけれど、いつもこんな感じなんだ…。フーン…私に対する無理やり対応とは随分と違いますね?

 あんなに甘い顔で互いに食べさせ合って、エッチなこともしているならそりゃ宝石ぐらい贈るだろうさ!…なんか本当にムカついてきた。


 私は無言でお茶を飲むと、そそくさと立ち上がる。


「私はここで失礼します…ちょっとお花を摘みに…」


 さりげなくトイレに行くから席外すね?と伝えたのに国王様まで立ち上がる。


「私も公務があるゆえ、一緒に戻ろう。二人はこのままゆっくりとお茶を楽しんでくれ」


 いそいそと手を恋人つなぎされて部屋へ引っ張って行かれる。

 え?国王様もトイレ行きたいの?どういう事…?唖然としながらもグイグイと部屋へ連行される。


 …国王様は本当に何を考えているのか…理解できないリンだった。


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