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20 砕け散った淡い恋心

夜通しの鬼ごっこはエイダに見つかって終了となりました。

私は今、またも国王様のお部屋で床に正座しております。


しかも私の前には国王様、宰相様と騎士姿のエイダがずらりと並んで威圧感を放っているのです。…圧迫面接でもこれほど酷くなかったのに…。


「何処へ行っていたのだ?」


国王様の目が物凄く怒っている。

これはどうやっても怒られる流れだ…。結局、洗いざらい吐かされた。


「…つまり、お前は王妃の部屋に鉄格子が嵌っているのを見て、他の二人の聖女候補も監禁され、私に強姦されていると思った訳だ」


はい、思いました。


「そこで二人の様子を確かめようと部屋を出たら、大事になってしまい一晩中廊下の隅で震えていた」


その通りです。…結局何ひとつ目的は達成できませんでしたが。


「…お前が考えていたことは分かった。しかし、王妃の部屋に鉄格子が付いているのはそもそも暴漢や賊が中に侵入するのを防ぐためだ」


 …国王様から逃げられないようにするためじゃないの?…そっか、考え方が逆なんだ。

 賊が侵入して来れば、真っ先に弱い王妃様を狙うもんね、成程…。


「それから、二人の聖女候補についてはお前と違って逃亡を図る意思は無いため、通常の客間で過ごしている。当然警備の者はいるが、窓に鉄格子は嵌っていない。…ついでに言えば、私は監禁も強姦もする趣味は無いからな」


 …そっか、良かった。

 …あれ?国王様…私が王宮から逃亡しようと計画を立てていたこと…何で知っているんだろう…?

 考えが顔に出ていたのか、ルカ様の顔に少しだけ笑みが戻った。


「お前は考えていることが直ぐ顔に出るな。お前が私の元から逃げようと画策していることは最初から判っていた。だから侍女としてエイダを付けたであろう?」


「エイダって、普通の侍女じゃないんですか…?」


 確かに身のこなしとか、普通の女性じゃないなとは思ったけれど、王宮の侍女さんだから、全員がこんなもんかと思っていたのに。


「当り前だ。王宮の侍女は下級貴族の令嬢がほとんどで、このような働きは出来ない。彼女は“王宮警備隊2番隊”の陣頭指揮を執るエイダ隊長なのだからな」


 ひええ…確かに強いとは思っていたけれど、そんな人がどうしてメイドのフリなんかしている訳?


「私達のような仕事をしていますと、他国王室への潜入捜査もございます。その際に必要なスキルですから侍女としての業務も完璧に行うよう仰せつかっております」


 エイダが口を挟んで補足してくれるが、私はショックを隠せなかった。


「じゃあ、ルカ様は最初からエイダの名前を知っていて、知らないふりをしていたんだ…」


 それに、私が逃亡するって判っていたからエイダも付けたし、王宮に閉じ込められたんだ…。

 最初からそんな風に見られていたんじゃ逃げ出せる訳もなかった。


「あの二人には宝石とかドレスを沢山プレゼントしたって聞きました。…なのに、何で私にはいやらしい夜着なんですか⁈」


 今聞きたいのはそこじゃない…。それは判っていたけれど、一晩中追われる恐怖と寒さに震えていた私は精神的にかなりキテいたのだ。


「…お前に宝石やドレスを与えれば逃亡の資金としようなどと企てるかもしれないと考えたからだ。夜着は…まあ、私の趣味だな」


 お前の趣味かよ⁈…いや、そんなことより、宝石を売り払って逃亡資金に充てる計画まで織り込み済みとか…やりようがないじゃん。ハイ!詰んだ!

 ショックと絶望に襲われて、床に突っ伏してベソベソ泣いていると優しい声で国王様が私をそっと抱き起してくれた。


「そんなに涙を零すのはもったいないだろう?私が舐め取ってやろう」


 そして私の顔をチロチロと舌で舐めまわす…。零すのはもったいないって…。

 塩不足の国か‼それとも犬なの?ルカ様ってお犬様だったの?

 なおも顔じゅうを舐められながら唖然としていると、宰相様が少し困った顔で説明してくれる。


「…国王陛下はリン様にお話しされていないようだが、異世界から来た聖女候補様の体液にはこの国が欲している聖魔力が含まれているのだよ。国王陛下は魔宝石の鉱脈と繋がっているため、聖魔力を無駄にしたくないとこんな行動をされているのだ。判ってやってくれないか?」


 いやいや、おかしいでしょう?確かに涙も体液だけれど、皆が見ている前で顔を舐めまわされて理解できる女性っているの?


 …そう言えば、以前もよだれを舐められたり、胸元を舐められたりしたけれど…汗もよだれも体液扱いなの⁈怖い!…このままじゃ変態に全部の体液を吸い取られる!


「もうヤダ!こんなことを聖女様候補全員にやる国王様なんて大っ嫌い!」


 私は大泣きしながら、奥の部屋へ入るとそのままベッドで泣き続けた。

 彼に執着されていたのはやっぱり愛されていたからじゃなかった。

 国王様にとっては聖魔力さえあれば誰でも良かったのだと判ったのだから。


 結局、聖女様候補なんて言われているけれど、全員を囲ってルカ様は平等に愛を囁くつもりだったのだと知ってしまえば、私に迷いは無くなった。

 絶対に王宮を出る。ルカ様に飼い殺しにされて傷つくくらいならば王宮の外で殺されたとしてもかまわない。


 私は自分の尊厳を守るために、そして少しだけ芽生えていたルカ様への想いを断ち切ろうと大声で泣き続けたのだった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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