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15 ドレスと宝石と膝枕

「今朝は国王陛下とご一緒にお休みだったのですね」


エイダが上機嫌で微笑むが、私はそれどころではなかった。

ルカ様にペロペロと舐めまわされた胸をバスルームで赤くなるほど必死に洗い、着替えをする。

 そのまま一人でダイニングルームへ向かおうとしたのに、何故かルカ様と手を繋いで一緒に行くことになった。

 …これって恋人つなぎですよね?指まで絡めているし。

 手を振りほどこうにもガッチリ繋がれていてブンブン振ったくらいじゃ離れない。

 どうしてこんなことになっているのだろう…。解せぬ…。


 ダイニングルームではまなかちゃんもシホちゃんもルカ様の来るのを心待ちにしていた様だ。

 国王様の顔を見た時のバラ色の頬と私と手を繋ぐのを見た時の冷たい視線の落差よ…。

 これって、彼女たちにとっては私だけが悪者になるんじゃないの?


 そう思っていたら、案の定メチャクチャ嫌味を言われたし、何ならわざとドレスに水まで掛けられた。やり口が陰険だけど…まあ水だから乾くだろう。


「口では国王様に興味ないなんて言っておきながら、陰でコソコソと取り入るなんて浅ましい泥棒猫ですこと」


「ええ、国王陛下がお優しいのを勘違いしてしつこく媚を売るなんて嫌らしい女だわ。まあ、私たちは国王陛下から沢山の宝飾品やドレスの贈り物を頂いているからそれが彼の愛情だと判っていますけれど」


 二人とも目つきが変わっちゃって、初めてこの世界に来た時とは別人みたいにキツくなっている。

 まなかちゃんはともかく、優しかったシホちゃんまで意地悪だなんて少しだけ悲しい。

 やっぱり、国王陛下が意地悪だからいつもお傍に侍っている二人も感化されて性格が悪くなってしまったのかもしれないな。付き合う人は選びなさいって教訓だね。


「あなたは国王様からどんな贈り物を頂いたの?」


 まなかちゃんに聞かれたけれど、彼からは別に物を貰った記憶はない。


「強いて言うなら…このペンダントくらいかな…」


 一番初めに貰ったペンダントを見せたら大爆笑された。


「そんなもの、私達と一緒に頂いただけのおこぼれでしょう?私たちはそれ以外にも沢山の宝飾品を頂いたわ」


「ええ、『美しいあなた方、聖女候補様に相応しい宝石を贈りましょう』と仰られて、それからは毎日頂いているわ」


 毎日宝石をくれるの?…それは少しだけ羨ましい。

 別に宝石自体に興味は無いけれど、王宮を逃げ出したらそれを換金して資金にできるじゃない?

 生きていくのにお金は絶対に必要だもんね。


 ルカ様はそれだけ聖女様候補の二人にお金を掛けているのに、同じ立場のはずの私には何にもくれない。

 あげくに性のはけ口呼ばわりされ、恐怖と不安の日々を過ごしているのに…と思うと非常にムカついてきた。

 私は絶対に王宮を逃げ出す!足取りも掴ませずに他国へ亡命して、自分の知識を元に生活していけるだけの基盤を作ってみせるんだ‼

 私に取り敢えず出来ることは勉強と情報収集!そして活力を養うためにもご飯をお腹いっぱい食べるんだと心に誓った。

 

「ぅう…ぅちょっと食べ過ぎたかもしれない…」


 頑張るぞと心に誓った私は朝食を食べ過ぎ、しかも食べたら眠くなってきた。

 きっと昨夜もルカ様との攻防が激しかったせいでよく眠れなかったせいだと思うけれど。


 食事の後は、ルカ様にまた恋人つなぎされて、部屋まで引っ張って行かれたけれど頭がボーっとして何も考えることが出来ない。

 部屋には入ったものの、エイダに文句を言われようが眠いものは眠いのだ。

 ベッドまで歩くのもだるくなってフカフカの床に倒れ込むとそのまま寝てしまったのだ。



 …目が覚めて、最初に感じたのは優しく私の髪を撫でる手だった。

 すごく優しい手つきで撫でられていると気持ち良くて猫にでもなったみたい。

 …ずっとこのまま撫でていて欲しい。枕に頭をスリスリすると微かな笑い声が頭の上で聞こえた。


「リンは本当にペットのようだな。こちらが寄って行けば逃げ出すし、噛みつく。それなのに気分が向いたらすり寄って来るのだから」


 へ…?あれ…この枕はいつもの羽毛フワフワ枕じゃない。


「起きたのか?もう少し寝ていても大丈夫だぞ」


 いつもの国王様とは思えない優しい声で言われて飛び起きると、エイダと宰相様に呆れたように見つめられた。

 ここは執務室…私は国王様の膝枕で爆睡していたということで間違いないのでしょうか…?


「あの…ごめんなさい…。お仕事の邪魔をしてしまったようで…」


 慌てて長椅子から下りようとしたけれど、ルカ様にもう一度膝枕されて頭を撫でられた。


「まだ大丈夫だと言っただろう?それにお前を撫でているのは私も癒される。仕事が捗るからここにいなさい」


 こんなことを言われたら動くことなどできません。

 でも目が覚めてしまった以上は宰相様や近衛兵の皆さんの視線が辛くていたたまれない…。


「私は確か部屋で寝ていたはずですが…」


 最後の記憶が部屋に着いたところだったから、その後ベッドに入ったと思ったんだけれど…。


「リンが床で寝ているとエイダに言われたから私がここまで連れてきた。私の膝なら床と違って痛くは無いだろう?」


 うん、確かに気持ちはいいです。…でも問題はそこじゃない!何で私が国王様の執務室まで連れてこられて、膝枕をされているのかってことが問題なんですよ⁈貴方は仕事中でしょう⁈


「あんまり長い事膝枕をしていると足が痺れちゃいますから…そろそろ起きますね」


 そおっと起き上がろうとしたけれど、また頭を押さえつけられて膝に戻される。


「私はそんなことぐらいで足を痺れさせるほど鍛錬を怠っているつもりはない。証明してやるからこのままでいなさい。…それとも起き上がって、私の膝の上に座るか?」


 そう言われて大人しくこのままでいることを選んだ。

 膝の上に座らせて仕事をするって、どんな羞恥プレイ⁈

 しかも宰相様とか文官とか出入りしている場所で…。

 ルカ様はペットを可愛がっている感覚でも、私は人間なの!羞恥心があるのよ。そこのところを判って欲しい!


 その日、私は途方にくれながら昼過ぎまでルカ様の膝枕で頭を撫でられ続けたのだった。





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