12 戦闘力1の攻防
私は大人しく、バスルーム内でお風呂に湯が溜まるのを待つことにした。
…だって、外に出たらルカ様がいるかもしれないもん。…さっきの様子を見る限り怒っていたし、今は顔を見たくない。
お風呂につかりながら、私は今後のことを考えることにする。
先ず考えなくちゃいけないのは、これで王宮を脱出するのは難しくなってしまったってことだ。
国王の私室ともなれば、今までのような緩い警備体制では無いだろうし、私の動向はすぐにルカ様に報告される。そうなれば、こっそり町へ出かけて物価や流通品を調べ、私が出来そうな仕事を探すのも困難だろう。
…聖女様に選ばれれば王宮に留め置かれるのは判る。これは選ばれた女性が不幸だったと諦めて国王と子作りするしか今のところ道は無い。
…まあ、相思相愛だったら何の問題も無いし。逆に考えれば玉の輿で幸せなエンドかもしれない。
でも、聖女様に選ばれなかった残りの二人の処遇については、本人が希望すれば王宮で保護するか、市井で暮らすことが出来るって言ってなかった?
それなのに、聖女様候補二人の機嫌を取っておけばそれでいいって言うのはどういう事だろう?
ただ単にどちらが聖女様か判らないから両方に良い顔をして、いざ聖女様に決まった方と不仲にならないようにしているってだけの意味なのか…。
それとも、まさかとは思うが、聖女様のスペアとして全員を囲い込もうとしているのか…。
最初に呼ばれた3人は、全員が同じくらいの魔力量を持っていると言っていた。
その中で勝手に選び出される聖女様も、本当に国にとって必要性があるのかもこうなると疑わしい。あくまでも異世界から来た私達には与えられた情報しか無いのだから。
そこまで考えていると、『ピチャン』と髪から雫が垂れて我に返った。
随分と長風呂をしてしまったようで、お湯がぬるくなっていた。
…これ以上は今考えても判らない。また、情報を集めていくしかないと勢いよく風呂から出た。
「…しまった。…着替えが無い…」
まさか、部屋を移動して即お風呂となると思っていなかった私はバスルームを隅から隅まで探したけれど見つからない。
いつもはエイダに準備して貰っていたから気にしていなかったけど、もしかしたら部屋の方にあるのかな…?
脱いだドレスは確かにそこにある。でも汗まみれ&埃まみれで二度と着たくない程に汚れてぐちゃぐちゃだ。
…それに脱ぐことは出来ても着るのは一人じゃ出来ない仕様なんだよね、本当に不便だ。
パンツに至っては、考え事をしながら入っていたせいで、ついうっかり前の世界の頃の習慣で洗って干しちゃったのだ。…今は水が滴っています。
このままではタオル一枚で部屋をうろつく痴女になってしまう。それか変態。
そーっと部屋をのぞいてみたら、ルカ様はいなくなっていた。…良かった、これで痴女だけは回避できた。
バスタオルを体に巻き付けて、足音を立てないように部屋の中を探すことにした。
備え付けのアンティークな家具の中をゴソゴソと漁ってみても、ゴージャスなドレスしか見つからない。…これだけでも無理やり着た方が良いか?
でも、下着なしで着たら、ゴワゴワして素肌に痛そうだし…。
うーんうーんとその場で蹲っていると、後ろから急に抱き込まれて、咄嗟に悲鳴を飲み込んだ。
「お前は、本当に何をやっているのだ?まったく理解できん」
だ・か・らー‼音もなく部屋に入って来るのは止めてって言ったでしょうが‼
それに私は今、バスタオル1枚しか身に着けていない状態…戦闘力は1だ。
その上、後ろから抱きしめられていると、蹴ることも殴ることも出来ない!これはヤバいのでは…。
慌ててもがくも、ルカ国王は「この状態だと、お前に殴られたり蹴られたりする心配が無くていいな」なんて言いながら、首筋を舐める。ひいい⁈
その上、やわやわと体を撫でまわす痴漢行為までされて、泣きそうになる。
変態が…ここに痴漢の国王様がいます。誰か…エイダ助けて…。
「ちょっと…離してください!」
身を捩っても暴れても一向に緩まない腕に噛みついてやりたくなる。彼はどうしてこんなに抵抗できない相手に好き勝手したいのだろう。
ルカ様ぐらいイケメンなら、女なんて選び放題でしょう?私のことは放っておいて欲しいのに…。
彼の唇が首から、肩、背中へとゆっくり下りてくる。腰に回された腕が緩んだ隙をついて、力いっぱいその腕に嚙みついた。
「ウワッ⁈」
ルカ国王が呻いて私から離れた瞬間、回し蹴りして彼を倒そうとした。…けれど、空振りして、そのまま片足を持ち上げられてしまう。
「こんなじゃじゃ馬では調教に時間が掛かりそうだな。…あれ程優しくしてやったというのに反抗するとは。お前のご主人さまは誰なのか一度判らせてやった方が良いか」
ギャーっ‼馬鹿馬鹿―っ‼片足を持ち上げられたら乙女の大事なところが見えちゃうでしょうがっ‼
離せーっ‼キーキーしながら足を動かすけれど、そのまま引き倒された。痛…くは無い。床はふかふかの絨毯だ。
国王様は私の上にのしかかると、怒り狂った目で宣言される。
「お前…私に攻撃を一度ならず二度までも仕掛けるとはいい度胸だな…。その度胸に免じて今、ここで無理やり抱くことに決めた」
床の上で、馬乗りになられた私は恐怖に打ち震えた。
これは、完全に怒り狂っている。こんな乙女の些細な抵抗くらいで怒るなんて心が狭いよ?
大体レディの部屋に無断で入って来たのはそっちでしょうが、私は悪くない。
このままでは初体験が床の上でしかも強姦とかとんでもない黒歴史になってしまう。
この状況をどうにか回避する方法は無いモノか…?
私は今、思いつく限りのことを必死にやってみた。とりあえずは聖女様候補の処女を奪っちゃ国王様の立場上も良くないだろうし、情に訴えてみるのはどうだろうか?
「私…いきなりここに連れてこられて不安で一杯だったんです。それに、後ろから羽交い絞めにされたから顔も見えないし、暴漢かと思って怖くて…」
少しウルウルしながらルカ国王の顔を見上げる。少しだけ彼の表情が緩んだ気がするし、ここで畳み掛けられれば…。
「私は聖女様候補だから、元々国王様のモノでしょう?だから、暴漢に襲われたらルカ様に顔向けできないと思って必死で抵抗したんです…さっきは噛んだりしてごめんなさい…」
ウルウルキラキラ…。
ええ、嘘です。そんなこと全然思っていませんよ?
でも、しゅんとした顔で国王を見上げたら、ルカ国王の顔が何故か赤く染まっている。
「ああ…そうか…。私の…、まあ、今回はいきなりだったからな。お前も驚いたから攻撃してしまったのならば仕方がない」
そう言うと、私の上から下り、いそいそと私をお姫様抱っこしてベッドまで運んでくれた。
何かエッチなことをされるのか…?と警戒したけれど、毛布で優しく包んでくれた。
「寒くは無いか?すぐに着替えとエイダを呼んでやろう」
そう言って微笑まれると逆に怖い。
いきなりどうしちゃったんだろう…。何が彼をあそこまで変えたのか…?
それは聖女さまのみが知っているのかもしれない。
アハハ。まだ全年齢で行けますかね?運営様見逃して下さいね(笑)




