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10 セクハラは撃退する主義なもので…詰んだ

シャール先生が帰った後、私はどっと疲れが出てしまい、ベッドでゴロゴロしていた。

私がこの国だけではなく近隣諸国のことも知りたがったのは、先生の言うとおり亡命も視野に入れていたからだ。

この国にいる限りは確かに衣食住に困ることは無いだろう。

あの意地悪な国王様でも異世界から呼んでおいて、聖女様以外は放り出すような非道な真似はしないと思いたい。

この国が魔宝石の産出で豊潤な利益を上げているのも、私たちが守ってもらえる証のように感じられる。

…でも、この国に滞在を続ける限り、私は一生お客様のままなのだ。誰かに頼り、その庇護下でしか生きることの出来ない存在になるのは私には出来ない。

貧しくても、自分自身の力で生きていくことが目標なのだ。


この国に居て、聖女様では無いと判ったとき、まとまった資産が与えられるのならば、それを元手に商売を起こすことも可能かもしれない。

でも只々王宮の庇護下に置かれ続けて、聖女様のスペア扱いをされる可能性だってある。

下手をすれば側妃とか愛妾のように体だけ使われることだって無いとは言えない。

あの国王様を見る限りは自分の好みよりも国の利益を優先しそうな感じがするし、私が亡命を考えていることがバレたら、厳しい監視を置かれる危険性もある。


…もう少し慎重に情報を集めないといけない…。

そんなことをつらつらと考えていると、こちらを覗うような視線を感じた。


「エイダ?今日も、蔵書庫で本を読み過ぎて疲れちゃったから、お夕食は部屋で食べたいな~。わざわざディナー用のドレスに着替えるのも面倒だし」


怒られるかもしれないけれど、とりあえずは我が儘を言ってみる。


「今日は選定もしたし、疲れちゃったんだもん。お願い~!国王様と気詰まりなご飯をするのは嫌なんだもん」


「ほう…。そんなに気詰まりなのか。私と食べることか?それとも着替えることがか?」


…その声は…

ギギギっとオイル切れのゼンマイ仕掛けのように恐々振り向くと、そこにはまたも国王様が立っていた。


「ど、どうしていつもいきなり来るんですか⁈それに音もなく横に立つのは止めてください⁈」


動揺しながら、慌てて起き上がる。ベッドでダラダラしていたから膝上までめくれてドレスはぐちゃぐちゃだ。


「それにあの二人はどうしたんですか?毎日公務にも侍らしているって聞きましたよ。今も国王様のことを待っているんじゃないですか?早く行った方が…」


 慌て過ぎて、若干言葉選びがおかしいかもしれない。だって本当に焦っていたのだ。

 この間のこともあるし、ベッドで彼とご対面は避けたかったのに。


「…さっきの質問の答えはまだか?」


 聞かれて『ハテナ?』状態になる。何か聞かれていたっけ?

 私のバカ面にムッとしたのかまた顎を掴まれる。ムニムニすんな!止めろ!


「私と食べるのが気詰まりなのか、着替えをするのが気詰まりなのかを答えろと言ったのだが?」


 …ああ、それね!何の話かと思ったわ。うーん…どう答えるのが正解なのだろう。

 どっちも面倒くさいし、どっちも気詰まりだから。でも素直に答えたら今度はエイダの怒りも買いそうだしな。


「そんなの着替えることに決まっているじゃないですか!私も今日は蔵書庫で汗をかきましたし、埃まみれなので国王様の御前に出られる状態じゃないんですよ」


 …今、目の前にいるけれど、それは気にしないでおこう。


「ですから、お風呂に入ってマッサージされて着替えると1時間はかかるので、今日の夕食は一人で部屋で頂こうかな~と思っていた所なんです!」


 とっさに思いついた割に上手い言い訳じゃない?エイダの怒りも気詰まりな夕食もこれなら回避できるじゃーん‼

 顔をムニムニされながらも、私は上手く言い訳できたと悦に入っていた。


「ご用件が無いようでしたら、そろそろ離していただけませんか?あんまり顎をムニムニされるとよだれが出ますよ」


 もう、取り繕うのも面倒になってきて思いっきり唇を突き出して文句を言ってやった。

 さっさと帰れと目で訴えたけれど、国王様の顎フニフニは止まらない。

 …コイツしつこい。いい加減止めないとその掌にわざとよだれを零してやろうか?


 そう思っていたら突然唇を舌で舐めあげられた。

 ついでのように何回もキスしておいて得意げに言ったセリフに、温厚な私もぶち切れた。


「よだれを零すと言っていたから舐めてやっただけだ。私は親切だろう?」


 こんなこと言う国王様っています?…何なの?セクハラ大魔王かよ…?

 聖女候補全員にこんなことしてるって、どれだけ飢えているの?イケメンでもただの痴漢だよね?


 思わずカッとなって、後ろ手に枕を取り上げると顔めがけて投げつけてやった。よし!顔面ヒットしたぜ!

 ついでに蹴り飛ばして国王様が床に倒れ込むのを見た瞬間…我に返った。


 あああ…つい手が出てしまった。

 以前、職場でセクハラされたり、電車での痴漢行為をされた時みたいに正当防衛対応を国王様相手にやってしまうとは。

 後ろに吹っ飛んだ国王陛下が目を剥いて私を見る。うん、詰んだ。

 ものすごい形相だから、これは殺されるかもしれないな…。


 そう判断した私は、我ながら素早い動きでベッドから逃げ出した。

 逃げ出す際にも国王様に毛布を被せて彼に逃げ道を塞がせないようにした、我ながら見事な手腕だったことも併せてお伝えしたい。


 …結局扉を出た所でエイダに取っ掴まりましたけれど。



本能のままに生きるヒロイン!国王陛下のセクハラにも毅然と対応するよ(・∀・)ニヤニヤ

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