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1 テンプレ通りの異世界召喚…ハァ?聖女様って人違いですよ

 煌びやかな王宮の玉座に座る一人の美しい青年と、そこに傅く初老の男性。


「国王陛下。このままでは我が国の魔宝石の産出は減少の一途を辿るのみです。これも聖なる力が減少しているためかと。やはり今こそ召喚の儀式を行う時かと思われます」


 その言葉に頷くと、若き国王は厳かに周りを取り囲む召喚士たちに命じた。


「異世界から我が国を救う聖女を召喚せよ」と…。



「あー…眠い…。もう何徹したのか判んないよ…」


 某保健所に勤務する一ノ瀬りんは重い体を引きずるように書庫へ向かった。

 世の中に蔓延する病によって、勤務形態が激化したものの、当然人員補充が直ぐに出来るわけでは無い。

 今の政治家は公務員の数を減らせとか、公務員は暇なのに給料は高いとか言うけれど、守秘義務の発生する仕事には在宅勤務などという選択肢が無い事を判って言っているのだろうか?無能な政治家こそ滅びろ!

 こちらはどれ程過酷な仕事をしていても、薄給で家に帰るのは終電の時間だと言うことも知って欲しいと思う。

 書庫から例の法律改正の書類を持ってきて、各市町村へそれを周知して…と次々にやるべきことを考えながらも疲れ切った体は思うように動かせない。


「あー…いっそ、はやりの異世界召喚とかされてくれればゆっくり寝れるのにな…」


 そんなアホなことを呟いた瞬間、りんの足元に魔法陣のようなものが現れ、金色に光り輝やいたのだ。


「ええっ⁈…そんなアホなー⁈」


 叫び声と、たった今持っていた書類だけを残して彼女は別の世界へと旅立っていった。



 ”ドーン‼” …うぇっ⁈…痛ったーいっ⁈


 気が付くとお尻から床に落っこちたようで、めちゃめちゃお尻が痛かった。


「…扱い酷くない?…普通、もっと丁寧に…」


 お尻をさすりながら辺りを見回すと、すごく豪華な宮殿の大広間で周りには兵士と思しき人の一団。

 そして、りんと同じ様に辺りを見回して唖然とする日本人女性が二人いたのだ。

 …あれ?同じような人が後二人いるってことは、三人も呼ばれたの?

 っていうかここはどこだ⁈…マジで異世界召喚とか言ったら笑うしかないよ?

 明らかに外国人にしか見えない兵士たちと、宮殿の作りに戸惑いつつも、好奇心が疼く。


 キョロキョロと物珍しそうに眺めていると、突然周りの兵士が一斉に姿勢を正した。


「リーチェス王国の国王陛下がお見えになられる。全員その場で控えられよ」


 ポカーンと口を開けたままで、見ていると、一段高い玉座に男性が登場した。


 うお⁈サラサラの金髪に碧眼で見るからに王子様って風情じゃない…?しかも凄い美形…。 王冠を冠り豪奢な衣装を身に纏った男性は無表情でその場に現れた。

 狼狽える私をよそに、玉座に鎮座すると彼は物珍しい物を見るように私たちを眺めまわす。


「そなた達が我が国リーチェスを救ってくれる聖女様なのか…?」


 うん?今聖女様って言いましたか?…はい!完全に人違いで呼ばれたことが確定しました。こんな平坦で凡庸な容姿なのに聖女って…と逆に落ち着く。


「貴女がた、三人はわが国を救うために選ばれた聖女様候補なのだ。全員非常に多くの聖魔力をお持ちのため、どなたが聖女か異世界では見分けがつかず、全員をこちらへとお呼びしてしまったことを先ずはお詫びしよう」


 お詫びって言っているくせに全然申し訳なさそうじゃないところが国王たる所以なのか…かなりムカつきます。

 それじゃあ、人違いなので帰っても良いですか?仕事もあるし。


「これから1か月間の間、貴女がた全員に聖女かどうかの試練を受けていただく。聖女様に選ばれた女性は私と婚姻を結び、私の世継ぎを生んでいただくこととなる。異議は認めない」


 ぐっふお⁈この金髪碧眼の王子様、いきなりとんでもない事を言いだしました。ほぼ初対面にも関わらず、公開プロポーズかよ?


「聖女様では無かった者は…残念だが、元の世界へ帰る方法は無いので諦めてもらう」


 おい⁈帰る方法無いのかよ…?それなら気やすく呼ぶな異世界なんかに。


「ただし、こちらの落ち度の為なので、聖女様ではなかった場合でも王家で保護し、今後はそなたらの要望を出来るだけ聞き入れながら市井で暮らしていただくこととなる。そのための屋敷や資金についても私が保証しよう」


 おおお⁈今、素晴らしい提案を聞いた気がします。衣食住を保証してもらえるんだったら、聖女様じゃなければ王様と結婚もしなくていいし、最高の環境じゃない?


「先ずは自己紹介をしようか。私の名前はルカ・アーロ・リーチェス。リーチェス王国の国王であり、貴女方を召喚した全責任者だ…そなたたちの名は何と言う?」


 偉そう…って本当に偉いのかもしれないけれど、上から目線で命令されると、ちょっとイラっと来る。

 指さされて、一番奥にいた栗色ロングヘアの美少女がおずおずと立ち上がった。


「日向まなかです…。20歳で日本人です…あの、私が聖女様になったら…」


 言いかける彼女に甘い視線を向けると「後でゆっくりと聞かせて欲しい。話はあとで…ね?」と微笑みました。

 マジか?日向まなかちゃん即落ちですよ?目がハートになっているもん。金髪碧眼のイケメン最強だな。


 次に指さされたのは小柄で、栗色の髪をポニーテールにしている可愛い系の女子だった。


「わ、私は小野田シホ…です。22歳、日本人です…」


 ちょっと目をウルウルさせながら王子様を見つめている。ええ…彼女も国王様ラブなの?早すぎじゃない?…そんなにイケメンが好きかね君たちは。国王様はニッコリ微笑んで頷くと今度は私を指さしました。


「…一ノ瀬りん…21歳。私は間違って呼ばれたみたいです」


 それだけ言って後は黙る。私は疲れ切っているのだ。今はただ早く眠りたい…。

 ルカ国王は少し目を見開いた後、一応お愛想で笑顔を見せる。…でも私は気が付いてしまった。

 …こいつ目が笑っていない…。


「いきなりの召喚で皆さんお疲れでしょう。私から皆さんに贈り物をさせて頂いてからお部屋へとご案内します」


 そうルカ国王が言うと、奥から恭しくお盆のような物を捧げ持ったおじさんが出てきた。

 そこには大きく水晶のような宝石のネックレスが3本並んでいた。


「これはわが国で産出した魔宝石なのです。美しい聖女様方のためにご用意しましたので、ぜひお受け取り下さい」


 そう言いながら、全員に渡していく。

 まなかちゃんもシホちゃんもウットリして嬉しそうにネックレスを付けていたけれど、私は受け取ったままポケットへ突っ込んだ。寝るのに邪魔だ、こんな宝石。


「それではお部屋へご案内させます。聖女候補様がた、ぜひ今宵は私とディナーをご一緒してくださいね」


 爽やかなルカ国王の笑顔にはしゃぐ二人を尻目に、私は睡魔と戦いながら早く部屋へ案内してくれと言う事ばかり考えていたのだった。


前作は長かったので、今回はさっくり終わらせる予定です。

まさにテンプレ通りの異世界召喚、そして聖女物!…でも中身はアホの娘…。


※本日中にもう1本投稿します。

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