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書簡2(後編):ああっ錬金術師様

そうしていたら女のヒトが


「召喚士様、脅かすのはそれぐらいにいたしましょう」


 とおっしゃって、状態異常消去の全体魔法を詠唱なさいました。私達は虹色の回復光に包まれて恐怖感や緊張感がたちどころに消え去りました。

 女のヒト ―― 錬金術師のファナ様は吐いたり失禁したりした者達を見つけて、次々に浄化の魔法をおかけになりました。


 そして片腕のマタギさんに目をお止めになると、その腕はどうなさったのですか、とお聞きになりました。マタギさんが


「蟲さ喰われだんだ」


と答えると、錬金術師様は


「この腕を、元に戻してもかまいませんか」


とおたずねになりました。


マタギさんが驚いて


「やめでげれ、対価さ払えねぇ」


と答えると、錬金術師様はこうおっしゃいました。


「対価はいただきません。領民の方が怪我けがや病気をなさった時は私が無償で治療いたします。ご領主様からお許しがいただければ、ですけれど……ご領主様、この者の腕を治してもよろしいでしょうか?」


 錬金術師様にそう問われた新しい領主様は、あわてた様子でこくこくと顔を上下に動かしました。それを確認すると錬金術師様は、なにやら難しい魔法をとなえはじめました。そしてマタギさんの腕の傷口が白く輝くとそこから腕がニョキニョキと生えてきて、見ていた私は思わず体中の毛が逆立ちました。


マタギさんは呆然ぼうぜんとした顔で


「俺の……腕えぇ」


と言って、右手の指を握ったり開いたりしたあと、そのまま自分の手を見つめてしばらく固まっていました。

 すげえ、あれが上級治癒呪文か、初めて見た、などと周りから驚く声が聞こえました。


「……どうやっで……礼すればええんだ」


マタギさんがそう言うと、錬金術師様はお答えになられました。


「ご領主様は、この村を皆が健康で、笑って暮らせる場所にしたいとお考えです。でも、それはご領主お一人でできる事ではありません。私共を手伝っていただけないでしょうか。村をより良い場所にするために、村のかたがたの幸せを守るために、あなたのお力をお貸しください」


 そう言われたマタギさんは少し考えたあと、黙って地面に横たわると領主様のほうに腹を向け、服従の姿勢を取りました。


 あのマタギさんが、と皆ざわついて、つられるように次々に服従の姿勢をとりはじめました。それを見て青い服の女の子は満足そうな顔になり、領主様はとまどった表情で


「あ、すいません、よろしくお願いします」


と言いながら何度も頭を下げていました。領主様は皆よりも上のほうに座っているので、その様子は見ていて妙な感じでした。


 やがて領主様は龍の背中から降りてきて、エンガワさんと何か話をしていました。しばらくするとエンガワさんが私を呼ぶ仕草をします。何だろう、と思って行ってみると、


「私はこれから説明用の領地経営帳簿を用意する。準備ができたら呼びに行くから、お前はそれまでご領主様達に領主館の中を一通りご案内しておくように」


と言いつけられました。


領主室にも入れてよろしいのですか、あそこは、と私が口ごもると、


「ご領主様に領主室を使わせないわけにもいかないだろう。今の状態なら見ても何も判りはしない。それにお前は部屋の掃除をしただけだ、心配しなくて良い」


と言われました。


 あーまいったな、嬉しくないお役目だ、と思いながら私は領主様達3人を、領主館の中へとご案内いたしました。


領主様は井戸や風力発電塔、蓄電魔石などの生活基盤に強い興味を見せて、


「この村は魔力に頼らない生活をしているのですね」


と言いました。


私が、この村に住む者は魔法が使えないフシャーシュばかりですから、と答えたら、錬金術師様から


「それは女の子が使う言葉ではありません。魔力が不自由な方、と言いかえたほうが良いですね」


とたしなめられてしまいました。


 それから食堂にご案内して、ここで使用人が皆で食事をとります、と説明したところ錬金術師様は


「ここの方々は、みんな食事をなさるのですか」


と驚いておられました。


 私が、この村の者は自分の魔力だけでは生きていけません、毎日何か食べなければ死んでしまいます、と説明したら領主様は微妙な表情をしていました。生きるために1日2回も食事をしなければならない生活など、王都の方々は想像した事も無いと思います。


 食堂にあった電磁波加熱箱や電磁調理板を見て、召喚士様は


「こんな骨董品が現役で頑張っておるのか、時間が止まっておるような村だのう」


とおっしゃいながら、なぜかとても嬉しそうにしておられました。


 下の階から順番に回って、最上階の領主室にご案内した時には、何かを悟られないかと内心では耳を伏せておりました。

 でも部屋をごらんになられたお三方とも特に何か気付いた様子はなく、召喚士様は


「まあまあの部屋じゃの。執務部屋につながっている連れ込み部屋にヒト用の良い寝台があるゆえ、ここをわしの部屋にしよう」


とおっしゃいました。領主様は、


「自分の部屋は?」


 と尋ねて、


「おぬしは地下牢でも竜小屋でも好きな場所で寝るがよい」


と言われて困った顔をしていました。


 そして錬金術師様は、


「では、私はこの部屋に呪いや罠が隠されていないか調べておきましょう。お二人は他にも良いお部屋が無いか、もう一度館内を回って見てはいかがでしょう」


とおっしゃいました。


 この部屋を調べるって! 私は思わず息が止まりそうになりました。エンガワさん、早く戻ってきてぇえええ~~、と、もう泣きそうな気分でした。


この続きはまた明日に。


追伸:

 領主様が郷土料理について聞き書き調査をしています。お母様の得意料理、デンジャラス煮込みの詳しい作り方を教えてください。


     ふわふわ尻尾の娘 ミヤゲより

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