表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/40

書簡1:メイドさんはオオアリクイ

親愛なるお母様へ


 まず最初にご報告です。 新しい領主様から、前の領主様の時と同じように領主館で小間使いとして働き続けるよう申しつけられました。実家に戻る事になるかと思っていましたが、再雇用が決まったのでこの村に留まります。家令かれい(訳者注:貴族の家で働く事務長的な人)のエンガワさんや、使用人食堂のタニタさんの仕事も今まで通りで、皆で体毛をなでおろしています。


 新しい領主様は、私の労働報酬として年に魔石2個、今までの2倍くださるそうです。

でも前の領主様の時は、使用人達の給与がいきなり減らされたり遅配になったりする事が何度もありました。今度の領主様も信用はできません。もしかしたら帳簿上はお給料をくださるけれど、部屋代とか食費とか何か理由をつけて取り上げられて、実際にもらえる分はほとんど無い仕組みになっているかもしれません。


 本当にヒト並みの報酬がいただけて、「巣穴帰り」の時期には行商人さんからお土産を買って戻れるようになれば素晴らしいのですけれど、魔法が使えない私の身分ではそんな夢のようなことは今までも、これからも無いと思っています。


 けれど、今度の領主様は前の領主様より気前が良い事は間違いありません。


「連絡用に使いなさい」


 と言って私専用の使い魔を与えてくれたので、ものすごくびっくりしました。

白い羽根が生えたモフモフの小さな子が手に乗せられた時に思わず、可愛い! と叫んで領主様に笑われてしまいました。


 この子の名前は「メール」にしました。今日から毎日、お母様にメールを送ります。ちなみにこの手紙の用紙は獣皮紙ではなく、領主様が王都からお連れになられた錬金術師様が「繊維素」というものを使って錬成なさったものだそうです。


「簡単に作れるそうなので、いくらでも自由に使って良いですよ」


 と領主様に言われたのでとても驚きました。真っ白な紙に好きなだけ爪痕を刻む贅沢が許されるだけで、ああ領主様! 一生ついていきます! という気分になってしまいました。あ、もちろん本気でついていくつもりはないです。


 仕事用の装備も「むらびとのふく」から「ロングメイドふく」に代わりました。今度の服はすそが長いので、これを着ていると尻尾が全部隠れて遠目にはヒトと区別がつかないと思います。


 縫製も布地も上等なので、これを着て汚れ仕事をするのはなんだか不安です。家令のエンガワさんは、


「自動浄化と自動修復の術式が付与してあるから、多少なら返り血を浴びても問題ない。それに安物を着ていると風俗コスプレにしか見えないので、ご領主様がそれでは萌えないとおっしゃっておられる」


 と言っていましたが、こんな高そうな服を使用人に着せて財政は大丈夫なのでしょうか。


 新しい領主様はヤマダ・タイチローという名前で、見た目には30歳くらいのあまりイケてない男の方です。初代勇者様と同郷の転生者で、実際の人生経験は50年近いそうです。この村に来る前は王都で働いていたそうです。でもこんな辺境の貧乏村に左遷されてくるのですから、それほど有能な貴族だとは思えません。今度もまた領地経営が破綻して、この村から姿を消す事になるかもしれません。


 領主様がこの村にお連れになられた錬金術師、ファナ・コサン様は20歳くらいのヒト族女性で、王都では宮廷錬金術師をなさっておられたそうです。

 錬成魔法だけでなく上級治癒魔法も使いこなす凄いお方です。村に来た初日に、猟師のマタギさんが5年前に蟲に食べられてしまった右腕を魔法で元通りに治してしまいました。村の皆は初代聖女様の再来だと言って大騒ぎしています。


 こんな辺境まで領主様についてこられた女性ですから、領主様の奥様か愛人だと思ったのですが、お二人は上司と部下の関係で恋仲ではないそうです。

 ならば領主様がいなくなった時にも錬金術師様だけはここに留まっていただけるように、村の男とくっつけてしまおうという話も持ち上がっています。でも、まともな男のヒトは全員この村を捨てて出ていってしまっているので、それはどう考えても無理な話だと思います。


 もう一人、10歳くらいのヒト族の女の子に見える「召喚士様」と呼ばれている方が王都から一緒にいらしておられます。お名前は判りません。最初は領主様のお嬢様か、「幼な妻」の方かと思ったのですが、領主様がその女の子にへりくだる様子で敬語を使っているので、どうやら領主様よりもずっとご身分が上の方のようです。エンガワさんは、


「お忍びで辺境研究においでになられた王族か大貴族のお嬢様、あるいは正体を隠すため変化へんげの術で子供の姿になっておられる大魔法使い様だろう」


 と言っていましたが、巨大な龍をび出して「お手」をさせるような方なので、私は大魔法使い様のほうだと確信しています。


 その三人の方々がこの村においでになった時の騒動は、この村で長く語られるでしょう。えっと、今日はもう時間が無いので、その話はまた明日書く事にします。


 一緒に送った白い紙は返信用です。それと、お父様の頭の話をしたら錬金術師様が「塗った場所の毛がフサフサになる魔法薬」を調合してくださいました。お父様の頭皮に塗ってさしあげてください。ではまた。


    あなたの娘 ミヤゲより


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ