プロローグ
初めての物書きです!
ご指導ご鞭撻よろしくお願いします!
倒壊した家々を飲み込む炎に包まれるこの世界も、
喚き、叫び、必死に生にしがみつこうとする人々の足掻きも、眼前で繰り広げられる光景の前ではバックグラウンドの一つに過ぎない。
動脈血のように赤黒い炎を全身に纏いながら、そのトカゲは食事を行なっていた。
右手に持った女の頭蓋を砕くと、そのまま上に持ち上げ垂れ流れる脳髄を口に流し込む。
左手には既に頭部を無くした男と思われる人間が握られており、男の足元からは糞尿に混ざった血が滴り落ちている。
吐き気を催す程に残虐な光景。
しかし、トカゲからすれば単なる食事に過ぎなった。
人が家畜の首を刎ね、臓物を取り除き、肉塊を切り分け、ナイフとフォークで口に運ぶように。
そんな爬虫類の食事の光景に、村端南は視線を奪われていた。
骨の折れる音、血を啜り上げる音を聞きながら、徐々に無くなっていく両親の姿から目を離す事ができなかった。
最後に聞いた母の「逃げなさい!!」という必死の想いも、全身を鎖のように縛り上げる恐怖心の前には意味を成さず、地べたに座り込みその最期を見届けた。
怖い。怖い。怖いーー
悲しみなんてものはとうに吹き飛んでいる。
南の心に満ちているのは純粋な恐怖。
次は自分の番だと現実が受け止められない。
トカゲは全てを食べ尽くすと、おもむろに指先を口に突っ込んで残った衣服を引っ張り出す。
『服は食べられないからね』
落ち着きのある、聞き心地の良い声でそう言うと、指先を器用に動かして衣服を畳み始める。
『とても美味しかったよ、君のご両親。理解してくれとは言わないけれど、悪意はないよ? ただ、君達人間だって生きていくために命を奪うだろう。私だって、生きるために食事を取らないといけない。人間は大きくて過食部も多いから、効率的なんだ』
血に汚れた服を畳み終わり、南の背丈はあろうかという大きな赤い蛇目を彼女に向ける。
もう出し尽くしたはずなのに、また股がじわりと湿っていくのを感じた。
『怖いかい? 私だって、目の前で家族が何者かに食べられたら恐怖で催してしまうよ』
まぁ、家族なんていないのだけどね、とトカゲは愉しげに喉を鳴らして嗤った。
『もう沢山食べたからこれで100年は何も食べなくても生きていける。安心しなさい、空腹であっても君のように小さくて骨と筋ばかりの人間なんてそもそも食事の対象ではないからーー』
遠方から消防車と思われるサイレンの音が聞こえて来る。
遅いのか、早いのか、そんな時間の感覚は南には残っていない。
考えようでは、"事が終わったことを見越してやってきた"とも取れるが、やはり今の彼女にはそんなことを考える思考力は残ってはいなかった。
そして、トカゲに瞳に呑まれるように南の意識は暗転を迎える。
その後、あの炎に包まれたトカゲはどこに行ったのか。
焼け野原となった住宅街は、住民はどうなったのか。
どうようにして自分が病院のベッドまで運ばれたのか。
南は何も知らない。
ただ、分かったことといえばーー
あのトカゲが"悪魔"と呼ばれる存在であることぐらいだろうか。