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第11話「結成! 魔法少女隊 前編」【Aパート 辻褄合わせ】

 昨日の敵は今日の友なんて言葉があるやん?


 けど、敵が味方なるなんて、大変なことを乗り越えた先にしかあらへんのやで?

 うちかて、そういうのを見たことがないっちゅう訳やないけどな?


 ま、苦労するのは若いもんやから、うちが手を出せるもんちゃうんやけどな……。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


      鉄腕魔法少女マジ・カヨ


    第11話「結成! 魔法少女隊 前編」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■



 【1】


 怪しげな装飾が光る、薄暗いドクター・マッドの研究室。

 華世は魔法少女姿のまま横になり、壊された義手義足を新しいものに差し替えてもらっていた。


「……伯父さん、悪かったわね」


 華世はベッドに横たわったまま、正面に座るアーダルベルトへと呟くように謝罪する。

 謝罪の理由は、半日前の戦場での出来事。

 妙な気分に乗せられたまま、華世は伯父でありコロニー・アーミィの大元帥であるアーダルベルトへと刃を向けてしまった。

 これは、アーミィという組織そのものへの反逆行為にほかならない。

 そのため、厳罰を覚悟で華世は謝罪の言葉を絞り出したのだった。


「よい。先の行為は“敵の妙術によって操られていた”ことによって発生したものだろう?」

「え、ええ……そうよね」


 これは、アーダルベルトなりの優しさだろう。

 敵の策略で心神喪失状態にあった、という“辻褄合わせ(カバーストーリー)”で華世の過失をなくそうとしてくれているのだ。

 願っても無い提案なのでありがたく受け入れるのだが、本当にそれでいいのかと思う部分もある。

 表情から華世の感情を読み取ったのか、アーダルベルトがうんと頷いた。


「……良い。ツクモロズとの戦いにはお前が不可欠だからな」

「アー君は素直じゃないな。姪っ子がかわいいからとでも言えば喜ぶだろうに」

「そんな言葉でほだされるほど、あたしは甘くないわよ」

「だ、そうだ」


 血の繋がりの薄い親子のやり取りに、ドクター・マッドが華世の義足を留め具に差し込みながらほくそ笑む。

 装着された人工皮膚のない黒鉄色の足を、華世は横になったまま上げ下げして動作を確認する。


「……うん、問題ないわ。ドクター、次よろしく」

「ああ。……そうだ、アー君。件のツクモロズ魔法少女の検査結果はでたのか?」

「うむ」


 頷き、脇に挟んでいたタブレットを取り出す大元帥。

 戦いの後、華世そっくりの少女は気を失ったままアーミィに確保された。

 その後の経緯は不明だが、話を聞く限りだと色々な身体検査を受けていたようだ。


 あの少女についてはわからないことがたくさんある。

 なぜ華世に瓜二つの姿をしているのか。

 なぜ魔法少女に変身できるのか。

 なぜ、ツクモロズなのか。


 その数々の謎を解く鍵を聞き逃さないためにも、華世は集中して話に耳を傾けた。


「隣の病院で、あの娘の身体をくまなく検査したそうだ。と言っても機械検査が主だがな。見たまえ」


 アーダルベルトから手渡されたタブレットを、ドクターが華世に見えるように傾ける。


「これは……」

「体内構造は人間と同じ……心臓以外はな」


 大元帥の言う通り、画面に映されたレントゲン写真には、左胸の部分にツクモロズのコアたる特徴的な正八面体が映っていた。

 けれどもその部分以外は血管も内臓も人間と変わらず、だからこそ心臓の代わりに存在する核が異質だった。


「これが、くだんのツクモロズと呼ばれる存在の構造だ。とはいえ、あくまで人間型のな」


 ひとつツクモロズと言っても、その姿は千差万別である。

 人間のような姿を取るもの、まるで特撮の怪人めいた姿を取るもの。

 あるいは、人のような四肢を持つ別生物、そもそも肉体を持たない鎧甲冑そのもの。


 それらをツクモロズたらしめるのは、正八面体のコア

 その発生を止められない限りは、ツクモロズは出現し続けるであろう。


 だが華世が知りたかったのは、そんな些細な情報ではない。

 とくに利のある情報は得られそうにないと察し、手足が付き四肢が揃った華世は体を跳ね起きさせた。


「ドクター、ありがと。それじゃ……」

 

 今日中に、つけておきたい話がある。

 そのためにも早くここを出なくては。


「なあ、華世よ」


 部屋を立ち去ろうとする華世を、アーダルベルトが呼び止めた。

 彼の低い声が耳に入り、華世は静かに顔だけ振り返る。


「……伯父さん?」

「お前は、まだ水が怖いか?」


 唐突な問いに、ぽかんとする華世。

 一方のアーダルベルトは真剣な眼差しで、ただまっすぐに目線を華世から逸らさずにいた。


 実は華世は、カナヅチである。

 コロニーにおいては泳げないことは特に苦でもなく、街には川も少ないため生活に支障はないのだが。


「ええ……。プールの授業は、あたしだけ見逃してもらってるくらい」

「どうしてお前が泳げなくなったか、覚えているか?」

「ううん、忘れちゃったわ。どうして?」


 華世の問い返しに、アーダルベルトは口を閉ざした。

 数秒か、あるいは数十秒かの沈黙。

 時が止まったような感覚が、部屋の中を満たしていた。


「……お前のことを、少し知りたかっただけだ。気をつけて帰れよ」

「言われなくても、じゃあね」


 血の繋がらない家族の会話で、時間が再び動き出す。

 そのまま華世は、薄暗い廊下へと飛び出した。




    ───Bパートへ続く

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