第1話「女神の居る街」【Fパート マジカル・カヨ】
【6】
「魔法少女だと? フザケたことを! お前達、撃て、撃てぇっ!!」
クランシーの命令を受け、警備員の男たちが一斉に自動小銃を華世たちへと向ける。
けれども華世は冷静に、鋼鉄の右腕を前に突き出し、手のひらをいっぱいに広げた。
手の甲の放熱板が展開し、同時に前方の空気が渦巻き、うねり始める。
直後にズダダダ、と激しい銃声とともに発射される無数の鉛玉。
華世へと向けられ放たれたその弾丸たちであったが、ひとつとして彼女へと到達することはなかった。
「な、に……!?」
宙に浮くように、華世の手のひらで動きを止める鉛玉。
そのまま渦巻く空気の流れ乗るように、それらがくるくると回転し始める。
華世は呆気にとられた男たちの方へと意識を集中させ、右腕を勢いよく突き出した。
「弾丸くれてありがとう。お返しするわ……ねッ!!」
鉛玉の先端が、撃った人間の方向へと向き、放たれる。
警備員たちは肩に次々と弾丸を受け、うめき声とともに倒れていった。
残った一人の警備員が再び銃を向けるが、華世は義手の二の腕あたりを抑えながら素早く男へと右腕を向ける。
そして華世の義手の手の甲に空いている穴から放たれる弾丸。
宙を走った弾丸は警備員の手に吸い込まれるように当たり、血しぶきを上げながら持っていた銃を弾き飛ばした。
「致命傷は避けてあげたから感謝しなさい。殺すと色々とうるさく言われるからね。……さぁて!!」
華世は背負っていた太刀へと手を伸ばし、鋼鉄の指で握り締める。
そして素早く大地を蹴り、クランシー神父へと肉薄。
凶器を持った少女に接近されたハゲ親父が、ひぃっという情けない悲鳴をあげて怯むが、華世はその目の前で跳躍した。
「あんたは後ッ! あたしの目標は……あんたよっ!」
床に着地し、華世は素早く刀剣を振るい上げる。
鋭い刃が空間を切り裂く音とともに、修道服の袖ごとマリアの片腕が宙を飛ぶ。
切り落とされた女の腕が、音を立てて床に落ちた。
「ま、マリアっ!?」
「華世お姉ちゃん、どうしてママを!?」
「その落ちた腕、よく見てみなさい」
驚く親子へと、床に転がった物体を指差す華世。
ゆっくりと視線を動かしたふたりが、驚きの声を漏らすのに時間はかからなかった。
切り下ろされたばかりだというのに、その腕からは一滴の血も流れていない。
そして肌色をしていた皮膚が、指先から徐々に白ずんでいき、やがて石のような表面を顕にする。
その白色が何の色と同じなのか、リリアンはすぐにわかったようだった。
「この色……駅前の女神様の……!?」
「そうよ、この女は女神そっくりの女なんかじゃない。女神像そのものだったのよ!!」
「ううっ……おのれぇぇっ!」
豹変したように目を吊り上げたマリアが、後方によろめきながら白い石柱にもたれかかった。
彼女の手が触れたところから、まるでえぐり取られるように石柱の表面が吸い込まれていく。
そして、袖を失った右肩から、生えるように右腕が再生された。
「おのれ、こうなったら……!!」
踵を返したマリアが、廊下の奥へと走り消えていく。
あとに残されたのは取り残されたクランシーとリリアン、そしてようやく立ち上がった咲良。
華世はクランシーへと近づき、鋼鉄の右腕で彼の胸ぐらをつかんで持ち上げた。
「うぐっ!?」
「おいハゲ神父。あんた、あの女のこと知ってて、あたしたちに銃を向けたの?」
「違う、てっきり私は脱税のことを突き止められたからと……」
「だ・つ・ぜ・い?」
「……しまったっ! うがあっ!?」
華世はクランシーを掴む手に力を込め、ギリギリと締め上げる。
宙に浮いた足をばたつかせて苦しむハゲ神父を、華世は鋭い眼差しで睨みつけた。
「脱税に関しては後! この屋敷に、まだ警備は居るの?」
「あ、ああ……! まだ何人か……待機……させてる……!」
「あ、そう」
ポイと咲良の方へとクランシーを投げ捨てる華世。
リリアンが、仰向けに床に転がった父を心配しようと駆け寄ろうとする。
しかし華世はその腕をひっつかみ、その動きを止めた。
「華世お姉ちゃん……!?」
「ちょーっと、あんたには働いてもらうわよ。咲良、その狸親父を逃げないようにふん縛ってて。それからアレの準備も一応」
「待って華世ちゃん! その子、ど~するつもりなのかな!?」
「咲良、わからない? この子はね……人質よ!」
「「えっ」」
───Gパートへ続く