第7話「灰被りの魔女」【Dパート 対策会議】
【4】
アーミィ支部の中で最も広い作戦会議室。
そこには大勢のコロニー・アーミィ隊員が集まり、椅子という椅子を埋め尽くしていた。
華世と繋いだ通信機を片手に、最前列に座る内宮。
両隣に咲良と楓真が座る中、壇上に登っているウルク・ラーゼ支部長がマイクを握るのを待った。
「では諸君────うごっ!?」
支部長が声を発した途端に部屋中にキーンと響き渡るハウリング音。
隊員たちが一斉に耳輪を塞ぎ、後ろにつんのめる。
ウルク・ラーゼが仮面越しに部屋の隅の音響担当へとにらみを飛ばし、音量の調整を行わせた。
「あーあー、アー……ふむ。私の成功を妬む者による、悪辣な陰謀かと思ったぞ。それでは、これよりツクモロズに対する説明会を行う」
壇上のウルク・ラーゼが、スクリーンに写真を幾つか映し出す。
ひとつは華世が最初に戦ったというハサミ男のツクモロズ、ひとつは先日リンの屋敷で華世が交戦した鎧甲冑。
他にはいくつかのキャリーフレームと、怪獣の姿。
「これは、ここ1ヶ月ほどの期間にコロニーに出現した敵性存在である。一見すると無秩序な群体に見えるが、実は共通点が存在するのだ」
「それが、先ほど言ったツクモロズだと?」
中腹の席に座る隊員の発言に、ウルク・ラーゼは深く頷いた。
「現在まで、内宮少尉率いるハガル小隊が数度交戦しており、戦果を上げている。しかし、性質上この敵に打撃を与えるとは言い難い。……ミイナと言ったか、例の者をここへ」
「はいはいっ!」
会議室の扉を開け、待ってましたとばかりに現れるミイナ。
流石に公的な場に出るためメイド服姿ではなく私服を着込み、その手にはハムスターケージの取っ手が握られていた。
そのケージを壇上の机に起いたミイナが、格子の側へとマイクを配置する。
「これで良しです、ウルクさん!」
「ご苦労。ここに連れてきてもらったのは、ツクモロズなる勢力に侵略を受けた世界からの逃亡者、ミュウという人物だ。姿は小動物だが」
「お呼びに預かりました、ミュウだミュ」
格子の奥の青いハムスターから発せられた甲高い人語に、ざわざわと隊員たちがざわめき出した。
これまでの常識を覆しかねない存在ゆえ、無理のない話だろう。
けれどもウルク・ラーゼが足で床を鳴らすと、すぐに静まり返るのは訓練された者たちでこの場が埋まっていることの証明でもある。
「ツクモロズは、僕らの故郷を滅茶苦茶にしたんだミュ。この世界を、僕らの世界の二の舞にしないためにも協力をお願いするミュ!」
「彼の話によれば、ツクモロズとは我々が普段使っている道具を依り代に現れる存在らしい。例として先の写真に写っていたこの怪人は、枝切りハサミから誕生したらしい」
「普通は意思疎通ができないだけで、モノには魂と意思があるんだミュ。それらが耐えられないほどの……人でいうとストレスのようなものを感じたとき、ツクモロズとなって人を襲うんだミュ」
「と、いうことは先の暴走キャリーフレームも?」
「左様、ツクモロズ化したキャリーフレームということになる」
「ですが、それならアーミィで運用されている軍用機も次々と暴走する可能性が?」
「それに関しては大丈夫だミュ」
マイク越しに発されるミュウの声に、隊員たちは耳を傾ける。
下手をすれば大惨事になるような敵の情報に、緊張感が走っていた。
「モノによるストレスの大半は荒い扱いとか、意図されない使い方によるものだミュ」
「事実、キャリーフレームを例に取ると暴走した機体はどれも戦闘能力を持ちながら警備用にとホコリを被っていたものばかりなのだよ。つまりは、戦うためのものでありながら戦いに使われなかった、それがストレスになったものだと考えられる」
「……ということは、万全の整備をし、適度に出撃・交戦を行っているアーミィの機体は、その……ツクモロズにはなり得ないと?」
「仮設ではあるが、その確率は高い」
ひとまず安心だと、安堵の声が内宮の後方から漏れ聞こえる。
軍用機の暴走などあれば、惨事は免れないし民衆から反感を買うのは必至だ。
そうなっては防衛どころではない。
「では、次にツクモロズ出現の傾向と、対応法となるが────」
※ ※ ※
「華世ちゃん、華世ちゃん。整列だよ」
「……ああ、ありがと」
ちょうど聞かなくても良い場面に映ったところで結衣に背中をつつかれ、華世は髪飾りから指を離し立ち上がった。
ここから解散、着替えと来て自由時間のちに次の授業。
急がなくてもいいだろうが、気にはなるので早めに戻りたい。
退屈な学校の授業を適当にこなしながら、周りに合わせて華世は静かに行動した。
───Eパートへ続く




