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第4話「パーティ・ブレイク」【Hパート 女の覚悟】

 【9】


「さあて、雑魚は全滅させたわよ」


 首をゴキゴキ鳴らしながら、振り返る華世。

 そこに立っていたのは、突撃槍ランスを構えた西洋甲冑。


「あんた、玄関に立ってたヤツね」

「いかにも。我は15世紀に作られし鎧、プレートである。しかし銃器により防具の役目を追われ、飾りとしての地位を強いられたのだ」

「それが暴れてる理由? まあいいわ。敵だってんなら……潰すまでよ!」


 斬機刀を握りしめ、プレートと名乗った鎧へと飛びかかる。

 突進の勢いを交えた斬撃を放つも、突撃槍ランスの中腹・柄の部分で受け止められ刃が止まる。


「飾りだった割には……キャリーフレームの装甲より硬いじゃないの」

「この槍も我が肉体の一部も同然! 我が内に流る信念がその強さを決める!」


 斬機刀を受け止めたまま槍が華世へとスライド。

 刃と交差している場所から火花を散らせながら先端が迫って来たので、とっさに後方へと飛び退く。

 同時に右腕の機関砲を起動し、相手へと発射。

 しかし、対人の小型弾丸では装甲を貫けず、小気味よい音を鳴らしながら鎧の表面で跳ねるばかりだった。


「面妖な銃器を使うようだな」

「有るもん全部使ってこそ戦闘ってモンよ! 卑怯だとは言わせないわよ」

「そうだな。ではこちらも君の流儀に沿わせてもらおう」

「流儀……!?」


 華世がその発言の意図を理解しようとしたところで、後方から聞こえる謎の駆動音。

 その音に振り向いた時、眼前にあったのは巨大な弾頭だった。



 ※ ※ ※



 空を走り迫りくる鉛の弾丸。

 それを〈ザンドール(エース)〉の左腕に装備されたビーム・シールドで受け止め、その熱量で蒸発させる。

 同時にペダルを踏み込み、突撃銃を構えたままの〈ランパート〉へとビーム・アックスを投げつけた。


『ニンゲンごときガァァァっ!』


 激昂したシステムボイスと共に、焼き切られた銃で殴りかかろうとする敵機。

 その懐へと飛び込む内宮。


「その人間に、負けとるクセになぁっ!」


 土手っ腹にビームライフルの銃口を密着させ、引き金に力を込める。

 放たれた光の弾丸はコックピットを貫くようにして炸裂し、敵の急所だけを的確に抉り取った。


「葵はん、そっちはどうや?」


 キャリーフレームの残骸の山へと背を向けると、ちょうど咲良の方も最後の機体を仕留めたところだった。


「こちらも片付きましたよ、隊長。けれど、豪邸の屋上がやけに騒がしいみたいです」


 咲良が〈ジエル〉の手で指差した方向にカメラを向けると、たしかに乾いた音とともに光っているのが見えた。

 屋上で華世が戦っているのだろうが、この位置からではよく見えない。


「……うちが飛んで見てくるわ」

「お願いします。こちらはちょっとエネルギー切れで」

「へいへい……っと!」


 ペダルを力いっぱい踏み、その場でスラスターのパワー任せに垂直に飛び上がる〈ザンドール(エース)〉。

 4階建ての屋敷の窓が次々と視界の下へと通り過ぎていき、やがて屋上が視認できる高度まで上昇した。


「あれは華世と……な、何や!?」


 屋上の四隅にある筒状の何かが、内宮の方へと一斉にぐるりと方向を向ける。

 直後に発射音とともに放たれる弾丸。

 とっさにビーム・シールドで防ごうとするも防御を交わした数発が右腕へと当たり、空中でバランスを崩してしまう。


「あがあっ!!」


 背中から庭園に落下し、コックピットの中で目を回す内宮。

 咲良が心配する声が、通信越しに聞こえてきた。


「隊長、何があったんですか?」

「なんで……。何で豪邸の屋上に……対空砲があるんねやっ!?」



 【10】


「今の……秋姉あきねえッ!? でもこの隙にっ!」


 絶え間ない対空砲の砲撃を受け身動きを封じられていた華世にとって、内宮が現れたことで発生した一瞬は願ってもないことだった。

 Vフィールドの力場で受け止めたありったけの砲弾を、離れた場所に突っ立っているプレートへと投げつける。


「さしものアンタもこの攻撃なら……えっ!?」


 弾丸が敵に当たる瞬間、横切るようにして何かが割り込んで盾となった。

 その物体に弾が届いた瞬間に発生する閃光。

 一瞬の眩しさが晴れた先にあったのは、宙に浮き半透明のバリア・フィールドを纏う対空砲の姿だった。


「自律式浮遊対空砲……と人間どもは呼んでいたな」

「どんだけデタラメを乗っけてるのよ、あのお嬢サマはあっ!!」


 再び対空砲による弾幕が華世へと放たれ始める。

 Vフィールドを展開し弾丸を受け止めつつ機会を伺う彼女であったが、右腕からオーバーヒート寸前を示す警告音が響き始めていた。

 もう少し下がれば、下階へ続く階段室に飛び込める位置になる。

 そうすれば、冷却時間確保のために一時撤退することができるのだが。


「もうちょっとくらい、持ちなさいよッ……!」

「限界みたいだな、鉤爪の女」


 後少し……といったところで、警告音より一層大きくなるとともに、手のひらから発生していた力場が消失した。

 運動力を失った弾丸が、コンクリートの床に落ちて金属音を鳴らす。

 正面に立っているプレートの周りに集まった対空砲が、一斉に砲身を華世へと向けた。


「サヨナラだ、人間。……む?」


 プレートが発射指示を出すも、なぜか撃たない対空砲。

 背後から聞こえた足音に、華世は振り向く。

 そこには息を切らしたリン・クーロンが、散弾銃のようなものを背負って階段室の入り口にもたれかかりながら立っていた。


「あんた……何考えてんのよっ! 死ぬ気!?」

「違いますわ……華世。わたくしを盾になさい!」

「えっ!?」

「あの対空砲は、わたくしたち屋敷の関係者を誤射しないようにプログラムされていますの! わたくしが盾になれば、撃てないはずですわっ!」


 確かに今、対空砲の射線の先にリンがいる。

 華世を狙って砲撃したとしても、貫通した弾丸や衝撃波で彼女が傷つく恐れがある。

 だからいま、対空砲は停止しているのだろう。


「……言っておくけど、ケガしても文句は言わせないわよ」

「わたくしだって、クーロン家の女ですわ! 我がいえの不始末くらい、自分でカタをつけます!」

「上等ッ……! 背中、飛びつきなさい!」

「はいっ!」


 華世の背中へと散弾銃を背負ったまま、おぶさるようにしがみつくリン。

 子供とはいえ人ひとり分の重量がのしかかるが、魔法少女補正で力が強くなっている華世にとっては、ただの誤差だった。

 対空砲の横槍を受ける心配がなくなった華世は、鞘に入れた斬機刀を握りしめプレートへ向けて駆け出す。


「砲が撃てずとも、障壁は使える!」


 プレートを守るように移動し、壁となる浮遊対空砲。

 バリア・フィールドが淡く輝き、華世の進行を止めようとする。


「甘いわね。喰らいなさい、ボルテック・ウェーブ!」


 斬機刀を下から上へ、地面をえぐるようにして振るう華世。

 地面から巻き上がった破片が鞘の先端から放射された荷電粒子を纏い、対空砲へと稲光を放ちながら飛んでいく。

 そしてその稲妻がバリアに当たり、激しい閃光と共にエネルギーの障壁を破壊する。

 華世はすかさず斬機刀を鞘から抜き、横薙ぎに一線。

 立ちはだかる対空砲を切り捨て、プレートへと肉薄した。


「やはり、ニンゲンの作ったものは信用できないか」

「あんたもそのひとつでしょうが!」

「けれど、貴様は学習がない。刀剣のリーチでは、槍には勝てぬッ!」


 振るった華世の斬撃を、プレートの持つ槍が受け止める。

 刃が滑り火花が走る中、華世はほくそ笑んだ。


「今よ、リン!」

「なっ……!?」

「これがわたくしが果たす、責任ですわッ!」


 華世の背中に体重を預けたリンが、背負った散弾銃を手に取りプレートへと発射した。

 放たれた弾丸はその幾つかを槍で火花を散らしながらも、真っ直ぐに対象へと宙を走ってゆく。

 そして、甲高い金属音とともにプレートの頭部、兜を跳ね飛ばした。

 兜の首部分が華世の方へと向き、その内側に見えたのは光を反射して輝く八面体。


「くたばれ、金持ちの道楽品ッ!」


 見えたツクモロズ核に向け、プレートが持っていた槍を掴み、投げつける華世。

 鋭い先端が核へと突き刺さり、そのまま屋上から落下する。

 同時に、糸が切れた人形のように鎧が床へと崩れ、バラバラになった。




    ───Iパートへ続く

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