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第4話「パーティ・ブレイク」【Eパート ディナータイム】

 【6】


「……コホン。そ、それでは。わわ、わたくしの誕生日を祝うパーティを、ここ、ここで開催いたし……いたしますわっ!!」


 主催者による噛み噛みの挨拶によって、生徒たちが一斉にワーッと歓声をあげた。

 壇上のお嬢様が顔を真っ赤にしているのは、先程会場に華世に抱きかかえられる形で登場させられたせいであろう。


「……隊長はいひょう~。警備へいひ私達わはひはひが、パーティ(はーひぃ)楽しんでて(はほひんへへ)……ゴクン、本当に良いんですかね~?」


 子どもたちが会場の中央で賑わっている中、咲良は口周りに食べかすをくっつけたまま、隣にいる内宮に問いかけた。


「食いながら話すなや。ちゃんとした警備は別におるし、うちらはキャリーフレーム持ち出す事件が起こった時用の特別枠や」

「そうなんですか~。はふっ、もぐもぐ……」


 今まで経験してきたアーミィの仕事とはかけ離れた状況に、料理を堪能しながらも困惑する咲良。

 一方、内宮はこの状況に慣れているのか手に持った皿に盛られたフライドポテトを口に放り込んだ。


「そう固くならず、一緒に楽しめばいいではないか?」

「おっ、この声はまどっち……? って、げぇっ!? なんやその格好は!」


 ふたりの死角から姿を表したドクターマッド、こと訓馬くんば円佳まどか

 内宮が驚愕した彼女の格好、それは頭には高く伸びるふたつの黒耳、首には蝶ネクタイ、腕にはカフス。

 そして、体のラインをぴっちり浮き出す黒いビスチェのようなボディスーツと尻には白く丸い尻尾、両足を包むのはセクシーな網タイツ。

 俗にバニースーツと呼ばれる服装に白衣の上着だけを羽織った格好を、ドクターマッドはしていた。


「はて、アー君からパーティに潜入するならこれがピッタリだと支給されたのだが」


 不自然なところが無いかと探すように、腰を捻るドクターマッド。

 普段は白衣の裏に隠されていたナイスバディがいかんなく表に出ているその格好は、目の深い隈さえなければ完璧な美しさだろう。

 咲良は負けじと自分もその格好になってみようかとも考えたが、中学生が楽しむパーティには合わない格好だろうと思い返し、その案はすぐに投げ捨てた。


「あのオヤジ……まどっちの無垢さにつけこんでなんちゅうものを」

「内宮隊長、アー君と呼ばれる人物って……どちら様ですか~?」

「……アーダルベルト・キルンベルガー大元帥閣下やで」

「ええっ!?」


 驚愕の事実に、咲良は思わず絶句した。

 華世の伯父にして金星アーミィのトップであるアーダルベルト大元帥。

 彼がまさか、若い女にコスプレ衣装を贈るような人間だったとは。


「千秋、私は気にしては居ないぞ? それに私も女だ、容姿を褒められれば嬉しくも感じる。ほら、見てみろ」


 ドクターが指差した先では、鼻の下を伸ばした男子生徒たちが携帯電話を向けて写真を撮っていた。

 そのうちの一人が直接ツーショットを依頼してきたので、内宮が生徒から受け取った携帯電話で代わりにパシャリ。

 一礼して去っていく男の子にマッドは無表情なまま手を振ってわかれた。

 一連の流れをネタに、ゲラゲラと笑う内宮。


「えっと~、隊長とドクターって仲がいいんですね?」

「まあな。アーミィ養成学校からの馴染みやねん。まどっちの爺さんから友達になってくれって紹介されて知り合ったクチや」

「へぇ~、長い付き合いなんですね。いいなぁ~……私もそういう友達がいたら、仕事の辛さも和らぎそうなんですが」

「ほーう? せやったら葵はんと同期のアイツでも呼んだろか?」


 内宮にそう言われ、フッと咲良の頭の中に一人の男の姿が浮かぶ。

 首と手をブンブンと振り、全力イメージを追い払う。


「いやいや、いや! どうしてアイツのことが出てくるんですか~! 結構です! けっこ~!」

「ハハハ、うちは誰とは名指ししてへんで?」

「あ~っ! もう! 隊長の意地悪~! 私もう一回料理取ってきます!」


 頭を抱えながら、咲良は料理の盛られたテーブルへと一直線に向かった。


「葵はん、歳はうちのひとつ下やのに反応が若いなぁ」

「千秋の方が老け込んでいるだけでは?」

「……せやろか?」


 咲良は背後から聞こえる会話を、聞こえないふりをしてトングを取った。



 ※ ※ ※



 誰も居なくなった屋敷の玄関。

 扉の下の隙間をくぐって、黒い影が中へと入り込んだ。

 そのまま床を音もなく滑らかに滑り移動し、盛り上がるようにして人の形へと形状を変化させる。


「大きな家にはモノが沢山。これだけあれば、依代にも困らないね」


 黒い影から現れた少年、レスはニヤリと口端を上げて鎧甲冑を白い手で撫でる。

 もう片方の手のひらを上に向けると、手の中に黒い粒子があつまり、やがて八面体の塊へとその姿を変える。

 その塊を甲冑へと押し当てると、吸い込まれるように中に入り込み、兜の内側に赤い光が灯った。


「さて、このツクモ獣だけだと心もとないね。そうだな、お仲間をいっぱい用意してやるか」


 レスはそうつぶやくと再び身体を影に沈め、その場から立ち去った。

 





    ───Fパートへ続く

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― 新着の感想 ―
[良い点] 内宮さんとドクターマッドの組み合わせが面白かったです!微笑ましい。 でも、何より今回衝撃的だったのは、ドクターマッドと大元帥の関係ですね…。 コスプレを年下の若い女にプレゼントする大元帥……
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