表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/321

第1話「女神の居る街」【Cパート 聖堂】

 【3】


 街を見下ろす小高い丘の上。

 リリアンに連れられて長い自動階段を昇った先にあったのは、大きな屋敷に併設された礼拝堂。

 白く輝く石灰岩が天の光を反射し、まばゆく輝くその建物に、思わず華世は目の上に手のひらを乗せる。


 リリアンに案内されるまま巨大な扉から中へ入ると、まず目を奪われるのは最奥の壁の見事なステンドグラス。

 女神像の美貌をガラス芸術でこれほどまでに再現できるのかと、無意識に息を呑む美しさである。

 礼拝をする人々を照らすのは、これまた美しく綺羅びやかなシャンデリア群。

 厳かな礼拝堂に合わせた淡く白い光を、無数のガラス装飾が拡散させることで広い屋内を照らし出していた。


「────では本日も、皆様に女神様の加護がありますように」


 最奥の壇上に立っている坊主頭の神父がそう言って頭を下げると、礼拝堂で祈りを捧げていた人々が一斉に立ち上がり、頭を下げ返す。

 出口へ向かう人達の列をかき分け、リリアンが華世の手を握ったまま父のもとへと引っ張って行った。


「パパ!」

「おや、リリアン。礼拝の時間に遅れるなんて、らしくありませんね。……その方は?」

「華世お姉ちゃんだよ! 新しい私の友達!」


 紹介されつつも(友達になった覚えはないけどね)と脳内で毒づく華世。

 しかしその感情を表に出さず、神父へと「初めまして」と形式張った挨拶を交わす。


「娘がお世話になったようですね。私はクランシー・ノルン、この街で領主の傍らで神父の真似事をさせて頂いております」

「パパは真似事じゃなくて、本当の神父さんだよ! あれ、ママは?」


「あらまぁ、リリアン。新しいお友達ができたの?」


 屋敷へと通じていると思われる廊下の方から、透き通るような声が通った。

 姿を表したのは、修道女衣装に身を包んだひとりの女性。

 その顔立ちを見て、華世は目を鋭くする。


「華世さん、こちらは私の家内のマリア・ノルンです。家内を見た者は、皆一度驚くんですよ」

「ええ、そうよね。だってそっくりだもの」


 リリアンの母で神父クランシーの妻、マリア・ノルン。

 その風貌は、まさに女神像の意匠そのものであった。


「世間では、私の妻をモデルに女神様の像を作られたともよく言われます。けれどもあくまで偶然……いや、女神様の生まれ変わりという説を私は推しています」

「ふふふ、あなたったらお上手なんですから」


 微笑ましく笑い合う夫婦の姿に、毒気を抜かれる華世。

 まったりとした空気に飲まれる前にと、華世は本題を切り出した。


「ええと、ノルン夫妻。突然だけれど……あなた達は、この街で起こっている子供の行方不明事件について、なにか知ってるかしら?」


 華世が訪ねた瞬間、和やかだった空気に緊張が走った。

 それはあまりにも短く、一瞬の緊張感であった。

 しかし華世の鋭い感性は、その違和感をしっかりと感じ取っていた。


「……恐ろしい事件ですわ。リリアンの友達も、何人か居なくなったとか」

「領主としても街の治安のために是非解決をと思っているのですが、警察の捜査も難航し、なんともうまく行かず……」


「……そう、ありがとう」


 礼を言う華世の腹が、不意にグゥと音を鳴らす。

 ポケットから取り出した携帯電話を見ると、時刻はすでに正午を回っていた。


「あらまあ、お腹が空いたのね」

「リリアン、せっかくですからこの街の料理店を紹介してあげてはどうかな?」

「うん! わかった!」


「ちょっと、あたしはまだ何も──」

「華世お姉ちゃん、行こっ!」


 リリアンに手を引っ張られる形で、華世は礼拝堂を後にした。




    ───Dパートへ続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 神父さんとその奥さんの何か裏がありそうな感じが出ていていい感じですね…! この夫婦が事件にどう関わっているのか、華世ちゃんがどう踏み込んでいくのか…楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ