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第21話「白銀の野に立つ巨影」【Eパート ウィルと支部長】

 【5】


「ちぇっ。支部長にウィルきゅん取られちゃった。せっかくギューッて抱きしめて癒やされたかったのに。まさか支部長、今ごろウィルきゅんとホッコリしてるんじゃ……」

「少なくとも支部長はお前のようにショタコンの趣味はねぇよ」

「ショタコンじゃないです~! カワイイものが好きなだけです~~!」

「どっちも変わんねぇだろうが!」

「あーあ、V.O.軍のせいで毎年来ていた見学の子たちも来ないし。欲求ふまん~~!!」


 支部長室の外。

 華世の前でプンプンと不満を訴えるクリスと、ツッコミを入れるレオンの漫才。

 ウィンターのアーミィには変な連中が多いな……と思っていた矢先に、二人の会話に聞き捨てならない単語が聞こえた。


「しかしよぉ……あの少年には悪いことしちまったな」

「本当にマヌケ。そんなことじゃ、レオン少尉の永遠のライバルの“ウチミヤ”に永遠に勝てないわよーだ」

「そ、そりゃあ言いっこ無しだぜ……お前もあの糸目の悪魔はトラウマになってるくせに」


「ウチミヤ?」


 突然飛び出た、家族同然の育ての親の名前。

 その苗字自体は珍しくもないだろうが、アーミィ関連でかつ、糸目ともなれば特定個人を指す言葉になる。


「もしかしてウチミヤって……クーロンの内宮千秋のこと?」

「知ってるのか嬢ちゃん。俺ぁ学生ん時、負け知らずで無敗の獅子王とも呼ばれてたんだ。だが……太陽系大会の準決勝で、俺は奴に瞬殺された」

「それからレオンったら負け猫って呼ばれるようになっちゃったんだって。カワイソ~」

「お前だって何年か前の模擬戦大会でギタギタにされてトラウマなってるって言ってただろ」

「ひどいんだよ内宮ってば! 私達は必死で戦ってるってのに、向こうは連れ子の運動会見に行きたいからって理由で全戦秒殺! 大会が午前で終わったのってあれが最初で最後よね?」

「……秋姉あきねえってそんなに強かったんだ」


 華世の記憶に思い起こされる、小学校最後の運動会。

 日付がアーミィの模擬戦大会と被って見に来れないかもと言っておきながら、内宮は午後に弁当持参でミイナに合流した。

 その裏でアーミィの猛者たちを全員叩きのめしていたとは、その時の華世はつゆ知らず。

 二人の話す身内の戦績に、華世はなぜだか自分のことのように少し嬉しくなった。


「俺はリベンジするために徹底的に奴の情報を集め、奴を追ってアーミィに入り、奴と同じ金星赴任まで勝ち取った。だが……未だに内宮との再戦は叶わねぇ」

「そこまで来ますと、もはやストーカーですわね……」

「お兄ちゃん、熱心だなって思ってたけどそんな裏が……」

「まあレオン少尉、〈ミョルニール〉攻略戦を超えないことにはリベンジも何も無いよ?」

「おうよ! そのためにも、さっさとベロス隊の連中を集めねぇとな!」


 支部長に言い渡された命令のために、二人のアーミィ隊員は廊下を駆け出した。



 ※ ※ ※



「……俺だけを残して、作戦の説明ですか?」


 支部長と二人きりになった部屋の中で、正面に座るキリシャは黙って端末を操作する。

 再び見せられたのは、レオンがウィルと交戦したときの映像。

 空中に逃れた〈エルフィスニルファ〉が、レオン機の攻撃を回避し反撃したその瞬間で、彼女は映像を止めた。


「私が聞きたいのはこの戦闘機動のことだ。変形しながらの加速と急制動……こいつはそんじょそこらの若者が思いつきでできるような代物じゃない」 


 危惧していた事が現実となり、頬に冷や汗を垂らす。


「お前さん、この技術テクニックを誰に習った?」

「……言わなくては、なりませんか?」

「いい。その態度で確信したよ。お前さん……レッド・ジャケットだな?」


 確信をついた一言に、両拳を力いっぱい握りしめるウィル。

 今まで隠していた事実。

 華世にすら知られていない、ウィルの生まれ。


「お前の父親には心当たりがある。奴からこの技能を叩き込まれたな?」

「…………」

「お前の母親は?」

「……いません」

「なるほど、な」


 立ち上がり、ウィルに背を向け窓の方へと歩くキリシャ。

 彼女は踏み台に登り、じっと雪の叩きつける外を眺める。


「あのっ……!!」

「安心しろ、他言はしない。作戦の中核を担うお前さんを、これ以上動揺させる意味はないからな」

「じゃあ、どうして……」


 ウィルの言葉に、帰ってきたのは沈黙だった。

 時計の秒針が時を刻む音と、電子カマドの燃える音だけが部屋に響き渡る数十秒。

 永遠にも思える静寂の時間は、振り返ったキリシャの、あまりにも優しすぎる微笑みに破られた。


「17年前の約束の果て。その答え合わせがしたかっただけだよ」

「約束……?」

「これ以上は、お前のダンマリと引き換えだ……ウィリアム・エストック」

「……!!」

「秘密同士のおあいこだ。行け、ブリーフィングは一時間後だ」

「……はい」


 言われるがままに、キリシャへと一礼し支部長室のドアノブに手をかける。

 扉が閉まったあとに、キリシャ・カーマンという女がつぶやいた言葉は、ウィルの耳には届かなかった。


「バカ野郎が、ハルバート。知らぬ間に私を母親にすんじゃないよ……!」




    ───Fパートへ続く

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