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第19話「決意と旅立ち」【Iパート 起動する意思】

 【8】


『艦長さん! 応援をよこしてください!』

「どうした、何があった!」

『華世が……敵の武器にトラウマを刺激されてしまったっ! 守りながら戦ってるけど……これじゃたない!』


 艦橋に入ってきたウィルからのSOS。

 けれどもその要請に、艦長・遠坂深雪はすぐに応えることはできなかった。


「……敵艦からのキャリーフレームと我が方の戦力は互角。ひとつでも回せば均衡が崩れてしまう」

「敵はレッド・ジャケットの精鋭と見えるね。艦からの砲撃は当たらないだろうし、ウィルくんに当たる危険性もある」

「やむを得ん。ウィル、悪いが余剰戦力が出せない! ザンドール隊が優勢を確保するまで、時間稼ぎはできるか!」

『や、やってみます!』


 言葉では強がっているが、その語気から長くは続かないことは容易に読み取れた。

 けれども打つ手が思いつかない。

 深雪は早くも訪れたクライアントの危機に、打開策を探していた。



 ※ ※ ※



「華世が危ないっていうのに、私は……!」


 暗い〈オルタナティブ〉の中で、聞こえてきた通信の会話に苛立つホノカ。

 目の前で戦ってくれている人がいるのに、何もできない。

 この無力感は、あの時以来だった。


せんせいを守れなかったから得た力なのに……! また、私は守れない……!」


 頭の中に浮かぶのは雪の中に眠る、血まみれの恩師の姿。

 目の前でホノカを守るために倒れた最愛の人。

 機械篭手ガントレットを授け、永遠の眠りについた心の中の父親。


 肝心な時に、役に立たない。

 自分の不甲斐なさに、ホノカは拳を真っ黒なコンソールに叩きつけた。


「ねえ、エルフィスオルタナティブ……あなただってキャリーフレームなんでしょ、エルフィスなんでしょ!?」


 ひとり閉じられたコックピットの中で、涙を目に浮かべながら叫ぶ。


「華世が危険なのに、何もできない! 私は嫌だ、もう目の前で誰かが死ぬのは!」


 操縦レバーを握りしめ、カチャガチャとデタラメに倒しながら、ホノカは叫び続ける。

 

「お願い、力を貸してよ……エルフィスゥゥゥゥ!!」


 指先に感じだ刺激と同時にガクン、とコックピットが揺れた。

 闇を映していたコンソールに火が灯り、周囲のモニターが光を宿していく。


「う、動いた……!?」


 ホノカの目の前に表示されたのは、OSの起動画面。

 画面の中のプロセスバーが満ちた時、コンソールは機械音声を発した。


『おはようございます、マスター。私は当機の支援AI、フェアリィと申します』

「フェアリィ、艦橋に通信を繋げて! それから、出撃の準備を!!」

『イエス・マスター。カタパルトへの自動移動を開始。通信を繋げます』



 ※ ※ ※



『艦長さん……私です、ホノカです!』

「ホノカ……? 君はどこから通信している!」

『エルフィスオルタナティブからです! 今すぐ華世を助けに行かせてください!』


 突如入った通信回線から、まくし立てるように要求するホノカの声。

 深雪は起動不能だった〈オルタナティブ〉が動いていることに驚きつつも、それが唯一この状況を打破できる存在だということを理解していた。


「君はキャリーフレームの操縦は不慣れだと聞く。やれるのか?」

『わかりません……けど、このまま華世を見捨てることもできません!』


 健気に叫ぶ少女の声に、深雪はすぐに判断を下した。


「わかった。オルタナティブ、出撃せよ!」

『……はい!!』


 元気な返事に、深雪は思い出す。

 自分が初めて艦長席に座った時のことを。


「十年前を思い出したのかい?」

「ああ。カドラ、あのときあなたは漂流者だった」

「そして……君は無力な子供だった」

「けれども私が今ここにいるのは、あの時のネメシスの人たちが、私を信じてくれたから。そして、あなたが背中を押してくれたから」

「見守ろう、子供たちの力を。信じよう、彼女たちの起こす奇跡を」

「それが大人の、私達ができることだから……」




    ───Jパートへ続く

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