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第19話「決意と旅立ち」【Fパート ネメシス】

 【5】


「リン・クーロンさん、葉月華世さん、ホノカ・クレイアさん、ウィルさん。ようこそ、ネメシス傭兵団へ。私はネメシス級4番艦アルテミス艦長、遠坂とおさか深雪みゆきと申します」


 丁寧に頭を下げ、華世たちへと挨拶する艦長帽をかぶった若い女性。

 本来なら他の人間に任せそうな客の出迎えを艦長本人が行うのは、彼女なりの誠意の表し方なのだろう。

 華世たちも形式張った挨拶と自己紹介を交わし、その誠意へと応える。


「これから艦内を案内しますね。荷物はそこの者に預けてください」


 言われたとおりに、側にいるクルーの台車へと各々の荷物を乗せる。

 荷物が乗った押し車は、そのまま白い扉の先のエレベーターへと消えた。

 華世たちはその反対方向へ進む遠坂艦長の背中を追って、青白い床の上をゆっくりと進んでいく。


「艦長……と言う割には、随分と若いのね」

「よく言われます。けれども、あなた達だって若くして頑張っていると、ナインから聞いてますよ」


 優しく、穏やかな声で返答する艦長。

 その物腰の柔らかさは、百戦錬磨のネメシス傭兵団を束ねる人間とはとても思えない。

 華世は試されているのかと、心の中で疑っていた。


「その……テルナ先生、いやナインさんは来なくても良かったんでしょうか?」

「お気になさらず。彼女は彼女で別の大事な仕事をこなしていますから。ひとり抜けて回らなくなるほど、ネメシスは人手不足じゃありませんよ」


 ウィルの投げかけた質問にキッパリと答える遠坂艦長。

 テルナ先生は、傭兵団への仲介こそすれこの巡礼の旅には加わらなかった。

 内宮から受けたももを見守るという仕事と、妹たちを探す方を優先しているのだろう。


「ここが艦橋ブリッジです。私は普段ここにいるので、用があるときは内線で繋いでもらえれば応答しますよ」


 扉脇のパネルに遠坂艦長が手をかざすと、大きなスライドドアが音もなく開く。

 その先に広がっていたのは、広々とした空間の中にいくつものコンソールと椅子が並べられた大きな部屋。

 それぞれの席にはインカムをつけた男性や女性が座り、艦を動かすための色々をやっている。

 ここが戦艦の頭脳を司る、一番重要な場所なのだ。


 艦長が艦橋に入ったのを確認したのか、いかにも艦長席といった椅子の隣に立っていた男が、こちらへと歩み寄ってくる。

 大きなサングラスで目を隠したその男は、華世たちへと口元だけで微笑みを送った。


「君たちが巡礼の旅に出るという子どもたちだね。私はカドラ、副艦長をやらせてもらっている」

「わたくしはリン・クーロンと申します。この度の旅路の中、お世話になります。ですが……」

「ですが?」

「わたくしたちはお金を払いこそすれ、客人という身分に預かるつもりはありません。あくまでもテルナ様からの提案により、協力してもらった者だと考えておりますの」


 前を見据え、はっきりとした口調で喋るリン。

 あくまでも対等でありたいという意気込みは、ここに来るまでの間に華世たち皆で考えた総意。

 わざわざ一人の少女のために、人員を割いてくれる傭兵団への誠意である。


「……ですから、過度な歓迎や機嫌取りに注力して頂かなくても構いません。どうか、よろしくおねがしいますわ」

「ほう……よろしく。そうだな、ユウナ!」

「はーい!」


 副艦長カドラが、奥の方へと座る少女へと声を張り上げた。

 返事をしながら駆け寄ってきたその少女──と言っても、華世たちよりひと周り年上だが──は来るやいなや、ニッコリとしたスマイルで、ウィルの顔を覗き込んだ。


「……えっと、俺の顔になにか付いてる?」

「イマイチ、かな」

「えーっ!?」


 初対面の女の子に顔面を否定され、涙目になるウィル。

 一方で艦長がユウナと呼ばれたツインテールの少女の頭に、「こらっ」と言いながら軽いチョップをした。


「失礼ですよ。ユウナさん、私達は発進準備に取り掛かるので、この子たちを部屋に案内してあげてください」

「わっかりまっしったー! それじゃあ付いてきて! 案内してあげるから!」

「ちょ、ちょっと……」


 強引に華世とホノカの腕を引っ張りながら、艦橋を後にするユウナ。

 廊下をゆっくりと歩きながら、彼女は後ろを振り向いて「あーあ」とぼやいた。


「……何よ?」

「ううん。素敵な恋に出会えるって聞いたから通信士のバイトを始めたのに、なかなか難しいなって」

「悪かったね、俺の顔がイマイチで」

「ゴメンごめん。それにしてもあなた達、艦長に何か感じなかった?」


 何か、と問いかけられても特にとしか返せない華世。

 少し悩んだホノカが、ポツリと疑問を投げかける。


「あの艦長さん、やけに若いけど……」

「だよねー! やっぱり怪しいよね!」

「怪しい?」

「ああ見えて艦長と副長ってただならぬ関係なんだって! 副長の年齢知らないけどたぶん三十代くらいよね。十歳差のカップルなんて、危ない雰囲気! あー私にも春が来ないかなー!」


 明らかにホノカの危惧とは別方向に話を持っていきつつボヤくユウナ。

 華世は他人の恋愛に熱心な案内人の姿に、結衣の姿を思い出していた。

 一方でリンは、軽薄な態度の相手に対しても丁寧な自己紹介をする。


「わたくし、リン・クーロンと申しますの。短い間ですがよろしくお願いしますわね」

「私はユウナ・マリーローズ。勤め始めて一ヶ月の新人通信士よ! よろしくね!」


 いくつもの扉の横を通り、広い階段を登る。

 そうして到着した4つ並んだ部屋の扉。

 その側にはここにいる4人の名前が書かれた、プラスチックのネームプレートがフレームにはめ込まれていた。


「ここがあなた達のお部屋。もうすぐ発進するから、椅子に座ってシートベルトをしておいてね。それじゃ!」


 言うだけ言って、艦橋の方へと走り去るユウナ。

 華世たちは互いの顔を見合わせてから、それぞれの部屋の扉をくぐった。




    ───Gパートへ続く

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