第19話「決意と旅立ち」【Cパート 宇宙港と傭兵団】
【3】
テルナ先生が車を走らせ始めてから、高速道路を経由して一時間。
車の後ろをウィルのバイクで追っていた華世たちの前に、コロニーの端……宇宙港への入り口が見えてきた。
スペース・コロニーは円筒形をしている都合上、無限に地続きとはいかず筒の前後の端にはどうしても壁が生まれてしまう。
多くのコロニーはその壁の一つを宇宙港とし、宇宙と中を繋ぐ玄関口とする構造を取っている。
壁にポッカリと空いた駐車場への入り口を通り、暗いスペースの中に車を止めるテルナ。
ウィルもその近くの駐輪場へもバイクを止め、華世は後部座席から降りてヘルメットを外した。
「宇宙港に来るのも久しぶりねぇ」
「そうだっけ?」
「最近はずっと、このコロニーにばかりツクモロズが湧いてたから……なんでこのコロニーばかりなのかしら」
テルナ先生と一緒に歩くホノカたちに合流しつつ、ふと浮かんだ疑問に首を傾げる華世。
華世とウィルが出会った事件の時など、ツクモロズがクーロン以外で発生した事例は無くはない。
しかし、なぜか出現場所はクーロンに集中しているのは、華世たち魔法少女が一箇所に集まっているからだろうか。
「ナイン! 華世たちゾロゾロつれて、どないしたんや?」
浮かんだ疑問を投げかける前に、宇宙港のロビーで内宮と出会ったことで自然と話題を飲み込んでしまった。
ここに来た経緯を、一礼してから話し始めるリン。
こういうところの礼儀正しさは、いかにもお嬢様といったところだ。
「なるほど、巡礼なぁ……」
「行くな、とは言わないでよね」
「そないな事情聞いたら言えるわけ無いやろ。それに、華世やったらいくら言うても止まらへんやろうしな」
「ご理解どうも。それより秋姉が宇宙港にいるってことは……もしかして出張?」
「ちゃうちゃう、アーミィ宛の貨物届けにきた艦の臨検の手伝いや」
「えっ、そういうのって秋姉の管轄外じゃないの?」
「来た艦が艦やから、特別に回してもろたんや」
内宮の言うことが、ひとつも理解できない華世。
百聞は一見にしかず、と言いながら内宮はテルナ先生たちと一緒に華世を関係者用通路へと案内。
停泊場の見える廊下で窓越しにひとつの戦艦を指差した。
白い装甲板に包まれた巨大な宇宙艦。
その格納庫と見られる空間から、キャリーフレームが同じくらいの大きさのコンテナを運び出している姿が見られる。
「あのコンテナ、もしかしてキャリーフレームかな?」
「せやで。修理頼んでた咲良のジエルとか、補充用の新型機とかな」
「木星クレッセント社から押し付けられたアレコレもある」
「でも、わかりませんわ。あの輸送艦と内宮さんとの繋がりってなんですの?」
リンが内宮へと向けた質問。
けれども答えたのはテルナ先生の方だった。
「私と内宮千秋は、十年前にあの艦のクルーとともに黄金戦役を戦ったのだ」
「「「黄金戦役!?」」」
一斉に驚きの声を上げるホノカたち。
黄金戦役といえば人気ドキュメンタリーアニメの元となった、人類存続をかけた十年前の戦いである。
惑星を喰らおうとする不定形の宇宙生物から、地球を守ったという大きな戦い。
誰もが知るその戦役に、内宮が関わっていたという話は華世も初耳だった。
つい最近ドキュメンタリーアニメを見終えたばかりのホノカが、少し興奮しながら内宮を質問攻めにする。
「えっえっ、ということは内宮さんってもしかしてヒロインの真銅エミリアのモデルだったりするんですか? それともライバルのエイユー君と心通わせた喫茶店の早弓純子さん!?」
「……ちゃうちゃう」
「ホノカちゃん、きっとあれだよ! 序盤に擬態魔獣に応戦してた警察キャリーフレームに乗ってたお姉さん!」
「十年前はうち学生やで? というかあん人までキャラ化しとるんかいな。……せやからあのアニメ好かんねん」
「もしかして秋姉があのアニメを嫌ってる理由って……」
「せや。うちの存在ハブられとんねん、あのアニメ」
哀愁漂う背中で語る内宮。
てっきり華世は、ヒーロー然とした外見のロボットが活躍する荒唐無稽さから、現実味の無さを嘆いているのだと思っていた。
曰く、あのアニメは当事者たちから見れば半分以上が脚色なのだという。
テルナ……もといナインも劇中から存在を消されていることから、物語展開の都合や様々な人間の思惑があのアニメの裏には渦巻いているのだろう。
「あーもう、ホンマやったらうちも歴史の人扱いされてもええっちゅうのに! 何があかんねん! 顔か、この糸目がアカンのか!」
「まあまあ秋姉、落ち着いて……。ってことは、あの艦ってネメシス傭兵団のものってこと?」
「せやで華世。黄金戦役で多大な貢献を果たした戦艦を運用していた傭兵団が、あの艦の中におるんやで」
ドキュメンタリーアニメの中でも、ネメシス傭兵団の活躍については描かれている。
最初は月から帰路を失った主人公たちを地球へと送り届ける役として。
中盤以降は地球圏全土へと広がった敵との戦いを助けるための組織として。
最終決戦ではアーミィと協力し、地球を救うために激戦を戦い抜いた英雄たち。
そのような偉人があの中にいると考えると、華世でも自然と気持ちが高揚した。
───Dパートへ続く