第19話「決意と旅立ち」【Aパート 戦乱の口火】
『や、やられた! 脱出する!』
『もうダメだ! 持たない!』
『ここまでか……無念ッ!』
守りについていた〈ザンドールA〉が、次々と撃墜されていく。
通信越しの阿鼻叫喚の声が、アーミィ部隊の劣勢を訴え続けていた。
「モニア・センフォー支部長、もうこの支部はダメです!」
「なんてこと……反乱軍にレッド・ジャケットが味方するなんて……!」
窓の外に飛び交い、次々とアーミィ機を潰すキャリーフレーム群。
そのどれもがコートやマントを思わせるプレート状の赤い装甲を上着のように身に纏い、放たれるビーム受け止め弾き消していた。
「くっ……総員撤退! サンライトを放棄し……」
『逃しはしないんだな、これがぁっ!』
窓の直ぐ側に、レッド・ジャケットの機体が地ならしと共に降り立つ。
そのままその機体はビーム兵器の銃口を向け、暗い砲身の奥のエネルギーチャージを見せつける。
『命は大事だよなぁ、支部長サンよ! 降伏の宣言をしな! さもなけりゃ全員ここで人間ステーキだ!』
「わ、わかりました……降伏します……」
膝をついて頭を下げるモニア支部長。
このとき、第12番コロニー・サンライトはV.O.軍に制圧されたのだった。
アフター・フューチャー171年。
平穏を破る幕開けには派手すぎる、それでいて戦乱の口火を切るには静かすぎる、金星宙域を巻き込んだ戦いの始まりだった。
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鉄腕魔法少女マジ・カヨ
第19話「決意と旅立ち」
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【1】
『コロニー・アーミィはこれを受けて、宇宙航路の封鎖を決定。各コロニー政府の元、渡航制限を開始しました……』
華世は右のこめかみをトントンと突き、壁にニュース映像を投影していた義眼のプロジェクター機能をオフにした。
終業式が終わった直後に魔法少女支援部の面々が集まった教室内に、ため息の声が漏れる。
「夏休みになったのに、大変なことになっちゃったね……」
「わたくしのお父様とお母様……ふたりとも別のコロニーに会談に行ってましたから、しばらく帰ってこられませんね……」
「この場にいなければ、私はアーミィの敗北を喜んでいたかも」
「ホノカは大丈夫ッスか? サンライトから来たって聞いてたッスけど……」
心配そうに尋ねるカズ。
けれどもホノカは至って冷静に、質問への返答をした。
「私のところは反アーミィ勢力だから大丈夫。V.O.軍の母体は近世初期開拓民……つまりは女神聖教の信徒。彼らが教義にそってアーミィに対して殲滅ではなく降伏を迫っているなら……同志を喰い物にするようなマネはしないから」
そう言いつつも、じんわりと額に浮かべる汗。
口では強がっていても、やはり自分が育ち仕送りしていた修道院のことが気がかりなのだろう。
「だけど、アーミィが守っていたコロニーの1つが陥落したのは事実ですわ。いつこのコロニーが攻撃対象となっても、不思議ではありませんわよ」
「大丈夫だよ! 私も変身できるようになったし、魔法少女隊が一丸になって戦えば……」
「姉さんはまだ戦闘のライセンス持っていないでしょ……」
「拓馬の言うとおりッスよ。それに相手はツクモロズじゃなくて武装勢力。アーミィの人たちが前線に出るのは許さないッスよ、きっと」
カズの言うことは至極当然である。
この場で戦うのが許されている魔法少女は人間兵器である華世と、華世に雇われているホノカの二人。
と言ってもホノカに関してはあくまでも対ツクモロズの戦闘のみという契約である。
もしもこのコロニーが戦火に包まれたとしても、表立ってアーミィの戦力として戦えるのは華世と、アーミィ特別隊員のウィルだけなのだ。
「それじゃあ……私達、何もできないのかな……」
「……いえ、そうでもありませんわ。わたくしにだけ、できることがあります」
いつになく真剣な面持ちで教壇に立つリン。
彼女は電子チョークを大型モニターに滑らせ、簡易的な金星宙域の地図を書いた。
そしてコロニーを表す長方形に1つずつ数字を書き、その中の2、5、8、11を丸で囲む。
「ビィナス・リングにはウィンター、スプリング、サマー、オータムという四季の名を持つ、季節を固定したコロニーがありますわよね?」
「そうなんですね! 知りませんでした!」
杏の無邪気な返答に、一瞬言葉を詰まらせるリン。
まあ一度もクーロンから出ていない彼女にとって、他のコロニーの存在は覚えてなくてもしかたない。
「……とにかく、ありますのよ! それらを……」
「なるほど、巡礼に行くということ」
「……ホノカさん、話の腰を折らないでくださいます!?」
「ごめん……」
「んもう! 本職であるあなたのほうが詳しいでしょう! バトンタッチですわ!」
いちいち説明を止められたのが不服だったのか、強引にホノカへと電子チョークを押し付けるリン・クーロン。
渋々といったふうにホノカがリンと入れ替わりに壇上にあがり、ひとつ咳払いをした。
───Bパートへ続く