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第18話「冷たい力 熱い感情」【Fパート 廃棄場の激闘】

 【6】


 炎を纏わせた機械篭手ガントレットの拳で、ジャンクルーを一体ずつ殴り飛ばすホノカ。

 不意に感じた背後の気配に、大地に拳を叩きつけることで導火線となったガスに点火。

 ホノカを回り込むように仕掛けたガスを辿って火花が飛び、背後のジャンクルーが爆煙に散った。

 周囲が片付いて一段落……と思ったところで、前方のゴミ山から次々とジャンクルーが這い出してくる。


「……このままではらちが明かない、か」


 魔法の風を操ることに神経を集中するとともに、両腕から可燃ガスを放射。

 滞留する気体を放射状に広げていき、視界内の敵すべてを範囲内に捉えこむ。


「こいつでっ……!」


 機械篭手ガントレットに包まれた両手を組み、勢いよく振り下ろす。

 大地に叩きつけることで火打ち石の働きをする拳から放たれた火花が、ガス塊へと引火。

 燃え上がった炎は高さ数メートルはあろう熱の壁となり、敵の大群を飲み込まんばかりに走り始めた。


「「「ジャンク~~ル~~~……」」」


 熱量に飲み込まれたジャンクルーたちが、高温に耐えられなくなり次々と自壊。

 構成する廃棄物に爆発性の物が混じっていたのか、派手な爆炎を巻き上げながらジャンクの破片を散らせながら吹っ飛んでいった。


「華世、はやく結衣先輩を助け出して……!」



 ※ ※ ※



「えい、えい! えーーいっ!」


 つぼみを模したステッキの先端から光球を打ち出し、襲い来るジャンクルーを次々と打ち倒すもも

 久々に華世から戦う許可を貰ったため、数日前の失態を取り戻す勢いで張り切っていた。


「ジャンクーールーーー!!」


 続々と仲間が倒されたことに焦ったのか、目の前で複数体のジャンクルーが一箇所に集まり、融合。

 立ち上がったその姿は4メートル近い巨体。

 巨体なジャンクルーが、廃棄自動車でできた腕をももへと振り下ろした。


 とっさに天使の翼を広げ、後方へと飛び退くもも

 車のシャーシが潰れる鈍い音を聞きながら、ステッキの先端を花開かせる。


「そう来るならこうです! マジカル・セイヴァーーっ!」


 花の中心から伸びた白い光が輝く刃となって、もものスイングとともに弧を描く。

 自身の身長を遥かに超えるビームの刃が、巨大ツクモロズの胴体を一閃。

 溶断された部分から、ゴミ山の巨人は崩れ落ちた。


「お姉さま……結衣先輩を頼みますよ!」



 ※ ※ ※



(華世ちゃん……お願い。助けて……華世ちゃん……!)


 しきりに結衣から聞こえてくる、彼女の助けを求める声。

 脳内に直接響くその思念が、華世の正気を保たせ続けていた。

 気を抜けば手術後の痛みに意識を持っていかれるか、結衣を殺そうとするドス黒い殺意の塊に精神を支配される。

 ふたつの危険に挟まれながらも、結衣を助けるという真っ直ぐな感情が、華世の精神に芯を通し続けていた。


 火球の雨をかわし、反撃に足裏のナイフを射出。

 横を掠める攻撃であっても、自動防御の黒い翼が結衣を攻撃から守っていた。


(いつ翼が弱るか分からない以上、加減の効く斬機刀で攻めていかなきゃ……!)


 少しずつ、結衣の飛ぶ高さは下がってきていた。

 ゴミ山に登らずともスラスター併用の跳躍で届く高度。

 華世はここぞとばかりに、結衣へと斬撃の連打を畳み掛ける。


「あと少し……! もうちょっと!」


 斬機刀を握る手に痺れを覚えながらも、ラッシュをかける。

 これ以上長引けば、華世の体力が持たない。


「届け……届けーーっ!!」


 思いを込めた渾身のスイング。

 放たれた横薙ぎが、ついに結衣の黒い翼を叩き割った。


「結衣ーーーーっ!!」


 空中でバランスを崩し、落下しようとする身体へと跳躍。

 そのまま華世は自分が下になるように、結衣とともに大地へと飛び込んだ。


(結衣……あなた、私にこうして欲しかったのよね……?)


 横になりながらの、優しい抱擁。

 これが、結衣を元に戻すために出した華世の結論だった。




 ここに向かうまでの道中で、交わしたやり取りを思い出す。

 結衣を戻すため、彼女がツクモロズになるほどに抱いた不満が何かという議論。


『結衣さんは、華世……あなたの温もりを求めているのですわ!』

『温もり?』

『あの子の言ったという、華世が好きという言葉。あの子の事ですから、それが友達としてではないのは明白です!』


 リンが感じたという、結衣から華世への好意。

 側にいるだけでは我慢できなくなった、乙女の欲求。

 頭を撫でてほしい、優しく抱きしめてほしい。

 女同士だからと、言い出せなかった素直な想い。

 それが常日頃から恋愛に心を委ねていた結衣が、心から求めていることだと。


 正直、すこし可能性としては考えていた。

 楓真ふうまに対する憧れとは違い、同年代の相手に抱く淡い想い。

 ウィルが華世へと向けている感情を、結衣が発しているのは勘付いていた。

 彼女がいまツクモロズの手に落ちたのは、華世がその想いに触れなかったから。

 まさか、という感情で流してしまっていたから。




「う……う……!!」


 しかし、結衣は応えてくれなかった。

 華世の抱擁から抜け出そうと、もがき始める彼女の手足。

 目の前で苦悶の表情を浮かべ、涙を流す結衣の顔。


(しょうがないわね……特別サービスよ)


 華世は目を瞑り、結衣の口へと自らの唇を優しく合わせた。

 女同士の、柔らかな口づけ。

 それが真に結衣が求めていたものかはわからない。

 けれども、愛しい相手からのキスで目を覚ますお姫様。

 ファンシーな物語にありがちな物に、結衣が憧れないはずがない。


 もがくのをやめ、大人しくなる結衣の身体。

 そのまま彼女の身体が、淡い光に包まれる。

 華世が唇を離したとき、目の前に浮かんでいたのは大粒の涙を流す、元の姿を取り戻した結衣の姿だった。


「華世ちゃん……私……!」

「いいのよ、結衣。あんたは……悪くないわ」

「でも華世ちゃん、その目……!!」


 結衣の瞳に反射して映る、華世の真っ赤な義眼の右目。

 魔法少女化した中にあっても、彼女の意識はあったのだろう。

 それはすなわち、自分の手で華世の目を焼いたことを知っていることに他ならない。

 けれども華世は、再度の優しい抱擁の中で……ゆっくりと言葉を綴った。


「いいのよ、結衣。あんたが無事なら」

「でも、でも……!」

「あんたが無事なら、あたしの片目くらい。安いものよ……!」





    ───Gパートへ続く

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― 新着の感想 ―
結衣ちゃんが華世ちゃんに抱いていた感情が、まさかの恋愛感情だとは思いませんでした。 絶対颯真さんが好きだと思い込んでいたから、嬉しい誤算というか意外な展開で素敵でした。 華世ちゃんの抱擁シーンもとても…
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