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第15話「少女の夢見る人工知能」【Gパート 狂乱の道】

 【7】


 会計を終えて喫茶店を出たホノカたち。

 彼女らを待っていたのは、逃げ惑う人々の悲鳴と怒号だった。


「アーミィのキャリーフレーム同士が戦ってるぞーーっ!!」

「巻き込まれる前に逃げろーっ!!」


 口々に叫ばれる人々の言葉に、青い顔をする咲良。

 放たれるビームの発射音に上空を見上げると、〈ジエル〉と隊長機仕様の〈ザンドール(エース)〉が空中でドッグファイトをしていた。

 見上げた瞬間から、ホノカの頭にツクモロズと遭遇したとき特有の耳鳴りが発生する。


「葵曹長! あれ、あなたの機体では……!?」

「そんな……まさか!?」

『そのまさかやで!』


 コール音をすっ飛ばし、強制的に通話モードになった咲良の携帯電話から鳴り響く内宮の声。

 どういうことだと咲良が問いかける前に、上空でビーム・セイバー同士がぶつかるスパーク光が炸裂した。


『あんさんの機体、無人状態で勝手に動きよったんや! 十中八九ツクモロズの仕業やで!』

「隊長、EL(エル)は無事なんですか……!?」

『そのAIがどうもツクモロズのコアなっとるみたいやで! さっきからあんさんのこと、ずっと呼んどるんや! 下がっとれや!』


 上方で金属装甲同士がぶつかる音が鳴り響き、数度のビーム発射音が交錯する。

 次の瞬間、〈ジエル〉の振るう光の刃が〈ザンドール(エース)〉の左肩を一閃。

 切り裂かれた鋼鉄の腕部が落下し、轟音と地響きを伴いながらホノカたちのそばの道路へと突き刺さった。


EL(エル)、やめてぇっ!!」


 空に向けて虚しく響く、咲良の声。

 片腕を失った内宮機が体勢を立て直すためか、建物の向こうへと退く。

 その後を追って、〈ジエル〉のビーム・スラスターが光を放った。


 一瞬、目を離した隙に愛機が飛び去った方向へ駆け出す咲良。


「咲良さん、ダメです!」


 その後を追って、ミイナが走る。

 狂騒に包まれる市街の中。

 狼狽えるチナミの横で、ホノカは首飾り(ロザリオ)を握りしめた。


(今、この状況で力になれるのは私しかいない……!)


 華世からの許可が出ていないため、無断の戦闘行為になる。

 けれどもこの状況を放っておけるほど、ホノカは冷徹ではなかった。


「ドリーム・チェンジッ……!!」


 変身の呪文とともに、ホノカの身体が激しい輝きに包まれる。

 身につけていた衣服が光の中へと霧散。

 顕になった細い肉体を、黒色のインナーが覆い隠す。

 その上を包み込むように、ところどころが焼ききれた空色の魔法少女衣装が現れる。

 そして耐火構造の修道女服を身に纏い、最後に頭巾と太い機械篭手ガントレットが装着された。


「わぁ、間近で変身を見たのは初めてです!」

「チナミさん、感心してないで早く避難を……」

「あ、危ないっ!」


 不意に側面から飛んできた一閃に、ホノカは上体を大きく反らして間一髪で回避する。

 そのまま後方へバク転し、攻撃を放ってきた方向を見据える。

 そこに立っていたのは、尖端に鋭い刃を持つ槍を持った一人の少女。

 真紅の長髪と無表情の顔に浮かぶ赤い瞳が、静かに殺気を放っていた。


「この娘、前に華世が言ってた……?」

「マスターの命令。消えてもらいます」


 槍を構え、飛びかかってくる赤髪の少女。

 口ぶりからすると、狙いは自分。

 ホノカはチナミを危険に合わせないためにも、〈ジエル〉が飛んだ方向の路地へと飛び込んだ。


 高層建築に挟まれた、薄暗い真っ直ぐな路地。

 長柄武器を扱う都合上、狭い空間では取り回しが悪くなる。

 そのため直線的な点を突く攻撃に相手の攻め手が偏るため、ぎょしやすくなるはずだ。


 放たれる鋭い突きを最小限の動きで、右へ左へと回避する。

 不利を悟ったのか、相手の少女が一旦飛び退き、距離をとった。


「あなたはツクモロズ……ではありませんね。なぜ私の命を?」

「マスターの命令。魔法少女を抹殺します」


 まるで機械のような応答。

 早く〈ジエル〉の方へと加勢したいが、この娘をなんとかしないとそれもかなわないだろう。

 しかし……。


(どうして、そんなに軽装なの……?)


 少女の格好は、言ってしまえば普段着そのもの。

 ハイネックのシャツに、足の動きを阻害しないための深いスリットの入った短いタイトスカート。

 どう見ても防御能力が薄い格好で、ホノカの前に立ちはだかっていた。


 ホノカのポリシーとして、人死には出したくない。

 けれども相手の衣装は、ホノカの攻撃を受けるには脆すぎる。

 どの攻撃を当てたとしても、当たり方次第では致命傷になってしまう。


 可燃ガスの散布量で、火力の調節はできる。

 けれども生身の相手を大怪我させずに無力化させるほどの微調整は、流石にできない。


 一体どうするべきか。

 悩んでいたところで、突然後ろ肩に鋭い痛みが走った。


「なっ……!?」


 傷口に突き刺さるナイフ。

 とっさに振り向くと、そこにいたのは先程まで相対していた少女そっくりな女の子。

 違いらしい違いといえば、髪が少し短めなくらいだった。


「これでいい? スゥお姉ちゃん……」

「上出来よ、リウ」


「伏兵……!」


 同じ顔をした二人の少女に挟まれ、ホノカは逃げ道を失った。




    ───Hパートへ続く

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