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第14話「鉄腕探偵華世」【Dパート 流血現場】

 【4】


ーっ局、ラブな要素ひとつも浮かばなかったねー……」

「浮かぶわけないでしょ。そもそもあの二人、そういう関係じゃないんだし」

「華世ちゃんったら、ニブちんなんだー!」

「あんたが恋愛脳すぎるのよ」


 買い物を終えて解散後。

 すっかり空がオレンジから黒に移り変わる時間帯。

 ボールペンを浜野に返すため、彼女の家へと華世は結衣と共に郊外の住宅地を歩いていた。

 向かって左に車通りの多い大通りを見下ろしながら、並木道に沿って立ち並ぶ無数のアパートメント郡。

 このどこかに、浜野が住んでいる家があるらしいのだが。


「そもそも、浜野さんもう帰ってるのかしら」

「帰ってると思うよ! それにもし居なかったらポストに入れておいてって」

「ハァ……あら? あれは……」


 正面の道路で赤く輝くひとつの回転灯に、華世の視線が吸い寄せられた。

 ルーフの上から光を放つその車両は、黒と白の塗装が施されたコロニー・ポリスの警察車両パトロールカー

 数こそ一台ではあるが、閑静な住宅街にふさわしくない物々しい雰囲気に、目尻がひとりでに上がる。


「結衣、あのパトカーが停まってるところ……まさか浜野さんの家じゃないわよね?」

「えっ、パトカー? あっ……」


 顔を上げた結衣の顔が、さっと青ざめる。

 華世が視線を上に上げると、窓越しに見えるひとつの玄関扉に目立つ黄色いテープが張られていた。


「そのまさかだよ! 浜野さんのお家、あのアパートの2階のあの部屋!」

「……何かあったんだわ!」


 大通りへと飛び出し、アパートの入口へと駆け出す華世。

 そのまま非常用階段を駆け上がり、2階へと昇る。

 そしてアルファベットで「KEEP OUT」と書かれた黄色いテープをくぐり、右手でドアノブを回して扉を開いた。


「あがっ!」

「ビッ!!?」


 飛び込もうとした矢先、華世は玄関で浮いていた何かに額をぶつけた。

 円盤から短い手足が生えたような浮遊物体が、珍妙な電子音を鳴らしながらゆっくりと床へと落ちていく。


「痛った~……」


「おいビット、お前またヘマをやらかし……何者だ、お前は?」


 廊下の奥から姿を表したのは、ヨレヨレのトレンチコートを羽織ったスーツ姿の男。

 白く短い顎ヒゲを生やし、ボサついた髪の毛が電灯の光を反射する。

 そんな彼の鋭い眼光が、華世の顔を睨みつけた。


「嬢ちゃんよ、立入禁止のテープが見えなかったのか? さっさと出ていかないと摘み出すぞ」

「あたしはコロニー・アーミィよ」


 華世は急いでカバンから、アーミィの証である手帳を見せる。

 訝しむ男が顎を少し突き上げると、床に転がっていた円盤ロボットが浮力をとりもどし、華世の眼前に浮かび上がった。


「ビ、ビ……スキャン完了。デッカー警部補、たしかにコロニー・アーミィの手帳のようです。ビッ……」

「ご苦労、ビット。だがなあアーミィの嬢ちゃんよ、ここはポリスの領域だ。アーミィの出る幕じゃねえんだよ」

「別にポリスの邪魔をしに来たわけじゃないわ。この家の家主に届け物があって来たのよ」

「届け物だぁ? ビット、調べろ」


 ビットと呼ばれた浮遊体……捜査ロボットが、華世が取り出したボールペンを短い手で掴み、額から伸びる緑色の光線で照らしだす。

 そのままガリガリと機械音を鳴らした後、ビットの前面についたパトランプのような赤色灯がピカピカと輝いた。


「ビビッ、TVアニメ“ロールス・スター”主人公・瀬戸マサキが描かれたボールペンと断定。去年行われたファンイベントにおいて抽選で配られた限定品のようです」

「柄のことはいい。指紋とかはどうだ?」

「ビッ。表面およびノック部分から、多数の被害者の指紋を検出。しかしそれ以外の指紋は見られません」

「見られねえだと? おい嬢ちゃん、あんたのその手」

「……義手よ」


 華世は一瞬だけ腕を外し、男へと見せつける。

 義手を覆う人工皮膚には、当たり前だが生身の皮膚と違って汗腺かんせんが存在しない。

 指先に滑り止め用の突起こそあるが分泌物が発生しないため、義手で触れたモノには指紋が残らないのだ。


「完全に無関係ってワケじゃあねえってことか。俺はロバート・ヴィン・デッカー、階級は警部補だ。こいつはポンコツ捜査メカのビット」

「ビビッ、ポンコツとは失礼です警部補」

「あたしは葉月華世。今朝この家の家主から取材を受けたんだけど……さっき被害者って言ってたわよね。何があったの?」


「ハァ……ハァ……やっと追いついたぁ。か、華世ちゃん……! そこ、血……!?」


 追いかけてきた結衣が、玄関に入るやいなや震える手で床を指差す。

 その先にあったのは、洗面所への扉の向かいにある壁から飛び出した、収納扉の取っ手に付着した赤黒い血痕。


「ビッ……負傷したのはは浜野香織23歳独身、書芸出版所属の記者をされている女性です。今から1時間ほど前に付近住民から、悲鳴が聞こえたと通報。ポリス隊が駆けつけたところ、玄関にて浜野さんが後頭部から血を流して倒れているのが発見されました」

「後頭部から血ねぇ……」

「その後、浜野さんは救急車で病院へと搬送されましたが、現状は意識不明の重態であると病院から報告がありました」

「浜野さん……」


 声を震わせ涙目で血痕を見つめる結衣。

 浜野は華世にとっては今日初めて会った人物だが、結衣にとっては古い馴染みである。

 そんな人物がいま、生死の境をさまよってると聞けば、こうなるのも無理はない。

 華世は、そんな結衣の隣で腕を組み、現場の状況から流れを推察する。


「ここの取っ手に後頭部を強打ってことは、洗面所の方を向きながら廊下へと後ろ向きに倒れたってことよね?」

「ビビッ。私の推論では、被害者女性は廊下にて宙返りを敢行した模様」

「宙返り……!?」

「そのまま着地を誤って後頭部を強打……ビギャッ!?」

「ポンコツ、お前すこし黙ってろ」


 メチャクチャな推理を展開し始めた捜査ロボに、デッカー警部補から鋭いチョップが飛んだ。

 殴られたことで浮遊バランスを崩したのか、ビットはくるくると回転しながら床へと墜落する。

 捜査メカは証拠をスキャンすることで三次元グラフィックデータとして取り込んだり、現場の状況を細かい部分まで保存することができる。

 それに加えてある程度の推理機能が盛り込まれていると聞いたことはあったが、どうやらこのビットとかいうメカの機能は壊れているようだ。


「こいつのポンコツ推察は置いといて、ポリスはこの出来事を事故で処理しようとしやがってな」

「こうやって捜査してるってことは事件性ありだと思ったのよね。事故じゃないと感じた理由は? やっぱり怪我をしたのが後頭部だから?」

「それもあるが、妙なもんを見ちまったからな」

「妙なモノ?」


 首を傾げる華世を尻目に、デッカー警部補が歩き出した。





    ───Eパートへ続く

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― 新着の感想 ―
[良い点] 華世ちゃんと、デッカー警部補の組み合わせ、とても良いです!! 華世ちゃん、おじさまとのタッグ、滅茶苦茶いいですね!いいコンビ! デッカー警部補と捜査ロボ・ビットの組み合わせもかなり良く、今…
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