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2話・寝不足デートスタート

 かつて、こんなにも長い時間自室の天井を眺めていたことが一度でもあっただろうか。

 ベッドに仰向けになった時、木目も認識できない程部屋は暗かったはずだ。だというのに、今は窓から射し込む眼に悪そうな光が天井を照らし、木材の繊維まで認識できそうだ。

 ……いや、私に天井の木目を八時間前後かけてじっくり観察するというややマニアックな趣味はない。同じ対象を八時間見るなら、天井じゃなくてれんちゃんを見ていた方が楽しいと思う。

 というか、そのれんちゃんのせいで一睡もできないままデートの日を迎えてしまったという話だ。

「……うぅおおおううう…………」

 テスト前でもないのに徹夜するのなんて久しぶりだ。関節という関節が固く、適当に身体を捻ったり腕を伸ばしたりすると、思わず呻いてしまう。デート前の女の子にあるまじき低い声だった。

 ……まぁ、こうなってしまった以上は仕方あるまい。このままデートに行くしかない。

 でも、一般的にデートで良い雰囲気になってマウストゥーマウスする時間帯は夕方頃だ。正直、その時間まで意識を保つことができるのか不安だ……

 仕方ない。あまりアレに頼りたくはないけど、エナジードリンクでも飲んで行こうかな。

 そうと決まれば、少し早めに家を出よう。

 重い身体を無理矢理起こし、洗面所に向かう。わしゃわしゃと顔を洗い、タオルで水を拭き取る。顔用のジェルを適当に擦り付け、髪を数回梳かし、パジャマを籠にばっさり脱ぎ捨て昨晩取り出しておいた涼し気な白と水色のワンピースを着る。

 特にオシャレには興味ないものの、これだけは毎日やっておけとれんちゃんに言われて以降はこんな感じで身だしなみを整えてる。

 鏡を見ると、目の下のクマが目立つ。これじゃ寝てないのはバレバレだな。別に隠さなくてもいいんだけど。

 さておき、これで準備は完璧だ。机で充電してたスマホを手に取り時計を表示すると、八時三十分と表示されていた。駅まで徒歩十分だから、これだけ早く出れば寄り道してエナジードリンクを飲む時間くらいはあるよね。

 一応、ハイヒールとサンダルを足して二で割ったような靴もあるにはあるが、今の体調だと歩きやすさ重視にしないと転びそうだ。普段使いのシューズを履き、紐を結ぶ。

 ……さて。

 唾を飲み、扉を開けた。空を見上げると、れんちゃんとのデートに相応しい快晴だ。暑いけどジメジメした感じはなく、楽しいデートになりそうだ。

 右隣のれんちゃんの家の玄関に目を向ける。れんちゃんは穏やかに笑って返し、小さく手を振ってくれた。

 ……ん?れんちゃんが、穏やかに笑って……?

「──ってれんちゃん!?」

「ん?……あれ、トモぉ!?」

 公園で待ち合わせる予定だったれんちゃんと、うっかり家の前で鉢合わせてしまった。どういうことだ?待ち合わせ時間より二十分も早く到着するような時間なのに。

 とりあえず近くまで駆け寄ってみる。

「……れんちゃん、少し早過ぎやしないかね?」

「当然じゃないですか。デートですし?」

「奇遇だねぇれんちゃん、私も同じ理由だよれんちゃん」

「……デートの日にエナジードリンクはやめた方がいいと思うんですよ、はい」

「ははは、バレてしまっては仕方な──いや、なんで!?なんでわかるの!?!?」

 ぼんやりとした思考の中、いつものノリで話してみたものの……何故か私が早めに家を出た理由をノーヒントで言い当てられてしまった。

「目のクマやばすぎ」

「……あー…………」

「テスト前で徹夜するときとかいっつもエナジードリンク飲むじゃんトモ。流石に予想つくって」

 なるほど、目のクマから徹夜がバレ、テスト前の行動でエナジードリンクがバレたと……

 ただ、そうなるとどうしても気になることがある。

「そう言うれんちゃんはぐっすり眠れたようで……本当に緊張してないんだねぇ。……ムカつく」

 ……れんちゃんの顔はいつも通り綺麗で、クマなんて全然なかったから。恋人になろうと言ってきたのはれんちゃんなのに、意識してるのは私だけなんて……おかしな話だ。

「ムカついてくれるんだ?」

「そりゃあ。こちとら全く落ち着けなかったんだし」

「その感情は普通恋人にしか抱かないんだよねー」

「いやいや、幼馴染なら普通に抱く感情だよ」

「まだ『幼馴染なら普通』とか言うんだ……この期に及んで」

 呆れたように笑うれんちゃん。呆れられたはずなのに、その表情が優しく見えるのはどうしてだろう。

「はぁ……良かったね。実は私も寝てないの」

「え、れんちゃんも?全然目のクマないのに」

「目のクマってメイクで隠せるんだよ。普段クマできることなんて無いから私も初めてやったんだけど」

「そんなことができるんだ……すごい」

 れんちゃんの肩に手を置き、目元を凝視してみる。じっと見てやっとほんの僅かな色の違いに気付く。

「ちょっとトモ早い!!!まだ朝だよ?馬鹿なの!?」

「え?」

 れんちゃんは急に焦り出して、両手を重ねて自らの口元に翳す。一瞬どうしたのかと思ったが、考えてみれば今日マウストゥーマウス狙ってることを昨日宣言したんだっけ。それでこの体制だから焦ってるのか。

「……メイク見てただけなんだけどなー」

「………………あっ」

「うーわかわいいな」

 れんちゃんの唇への道を遮る右手の甲に、軽めに一発……ちゅっと。

「──はぁぁぁぁ!?!?!?」

 動揺したれんちゃんに思い切り突き飛ばされてしまう。運動靴で来てたおかげで何とか体制を立て直すけど、今のでれんちゃんとの距離が二メートル近く空いてしまった。詰めなくては。

「どうしよっか、とりあえず公園でも行こっか」

 あんなことした直後なのに、距離を詰め直す分には抵抗しないんだ。

 恋人になるって聞いたとき、私がドキドキすることばかり考えてたけど……考えてみればれんちゃんもドキドキしてるわけで。そう考えると、この後のデートが楽しみに思えてくる。

「……恋人だから、移動するときは手を繋ぐ」

 当たり前みたいに私の手を攫うれんちゃん。

 ……正直、手汗がすごい。言わないけど。

「幼馴染でもしてるじゃん、これ」

「いいからいくよ」

更新お待たせしました。まだ続くので気長にお待ちください!

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