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出会い系異世界、転生して4秒で勇者爆誕!  作者: 武論斗
序章:その勇者、せっかち
3/20

1話:急がば回らず直進行軍!

「それじゃ~、この世界“ナグルマンティ”の説明を簡単にしておくわね~……

 ……――って、その前にぱだかじゃ、あたしがずかしいから、今、服、用意するね」


 胸元に斜(パイスラ)に掛けたポシェットから男性(もの)の服を一式取り出し、風雅ふうが手渡てわたす。

 服を受け取った風雅は不思議そうな表情をかべる。


「どうしたの、風雅?」

「――その小さなポシェットに、どうやってこれだけの服や装備そうびれていたんだ?」

「ああ~、コレ? これネ♪ コレは女神器アーティファクトの一つで“四次元ポシェット”っていうの」


 あれ?

 質問、それだけなの?

 一気に興味を失ったみたい。

 って、あたしが取り出した服を用心深ようじんぶかながめているけど、なに? どーしたの?

 もしかして、趣味に合わない、とか?

 お洒落シャレさんって、ファッションへのこだわりとか強いから、気に入らない服とかにそでを通したくないのも分かるけどさ~……

 でも、全裸はだかよりはマシでしょ?


「――……」

「どうしたの?」

「……――クンクン」おもむろに服のにおいをぎ出す。

「えっ! えっ!? なになに?? どーしたの、風雅!?」

「――お婆ちゃん家(ナフタレン)においがする」

「? ナフタレン?? えっ、それなに? なんなの??」

「ザッツ・オール! なんでもない」


 情熱女神エキサイト翻訳ほんやく常時じょうじスキル発動でコミュニケーションは問題なく取れるんだけど、どうにも別世界べっせかいの固有名詞が上手うまやくせない。

 多分、あたしの残りようは、いい香り、って意味なんだろうけど、もう少し翻訳精度(せいど)の向上が必要ね。

 女神メガミック聖典ライブラリに単語登録しておこう、「女神のいい香り(ナフタレン)お婆ちゃん家の臭い(ナフタレン)」、と。これで良し!


 あ、着替きがえ終わったみたいね?

 ――あら、ヤダ!

 ちょ~似合にあってるんですけどぉ~!

 いや、そりゃさ? 風雅に似合うんじゃないかな~、って思って取り出した服な訳なんだけどさ?

 まさか、さ? 想像よりも恰好良カッコよく着こなすとは思ってなかったのよ、流石さすがにさ。

 う~ん……――イイッ! 早く、となりに並んで冒険したーい!

 手とかつないで、さ? 勿論もちろん、恋人繋ぎ、だよ?

 キャーッ! 想像したらずかしくなった!

 ちょっと、顔赤くなってるかも?

 フヒヒ、れるわ~♪


「ラヴ、着替え終わった。早速さっそくだが――」

「ん? ん? ナニなに?」

「――魔王を倒しに行こう」

「うん♪ よし、行こぉ~――……って、ちょっと待って!」

「どうした?」

「いやいや、どーした、じゃなくて! まだ、魔王の事とかなんも説明してないし。それどころか、ナグルマンティについても風雅、なにも知らないでしょ?」

「確かに、な。だが、てつあついうちに打て、とうだろう?」


 鉄は熱いうち、に?

 何それ? 慣用句かんようく? ことわざ? なんかの格言かくげんとか?

 どーゆ~事? なんでいきなり、“鉄”が出てきたの? 金属についてとか、今、話してなかったじゃん!

 ああ~、鉄製てっせいの武器に火炎属性(ぞくせい)魔術付与エンチャントするってこと?

 ――でも……えー!? 魔王相手にそこらへんの鉄製の武器使っても無駄ムダだよ~。火の力をめたところで、かすり傷だって与えられないよ。

 もしかして、風雅の元々いた世界って青銅器せいどうき文明くらいの技術水準(レベル)なのかも?

 う~ん……だとしたら頭ごなしに、そんなショボい武器じゃ魔王を倒せるはずがないでしょ、とか云っちゃ悪いよね……。


「えーとね、風雅。鉄の武器とかじゃ、魔王を倒すのは難しいと思うんだけど……」

「――だろうな」

「えっ? だろうな、って」

「だが、安心してくれ。俺の意志は鉄よりも固い。鋼鉄はがねいや金剛石ダイヤモンドの意志(メンタル)、だ。俺には鉄よりダイヤモンドの方が良く似合う。そうだろ?」

「…………ちょっと意味分からないんですけど、少しだけだまって聞いてね?」

「ああ、勿論、さ」


 あたしが悪いのか、翻訳の調子が悪いのか、それとも風雅の頭が悪いのか、原因はよく分からないけど、この人、聞きけはいいみたい。

 取り敢えず、この好機チャンスのがしてなるものか!とっとと説明しなきゃ。

 全く分からない状態で魔王討伐(とうばつ)とかされても、すぐにやられちゃうだけだもん。聖召石せいしょうせき使い切っちゃって召喚ガチャ出来ひけないから、すぐにやられちゃったら困るんだってば!


「風雅、あっち見て!」南の方角を指差ゆびさす。

「――ああ。大河たいが、か?」

「あれは河じゃなくて、アズライグル海峡かいきょうっていう海なの。別名“不渡わたれずの海”。その先、かすかに見える山影やまかげようなものが見えるでしょ?」

「うむ、云われてみれば、確かに見えるな」

「そう――、あれこそがこのナグルマンティを恐怖のどんぞこおとしいれた“魔王サタナ殺しの(・キラ・)魔王サタナ”ドグラマグラのまう居城きょじょう死屍累々(ネクロニグロ)”。近くて遠い煉獄れんごくの大地」

「なるほど。確かに、近い(・・)、な」

「でしょ?」

「ああ、あれなら海を渡ればすぐにでも魔王退治(たいじ)ができるな」

「うんうん……――えっ?」


 あれれ?

 もしかして、あたしの聞き間違い、かな?

 それとも、あたしが云い忘れたのかな? アズライグル海峡は渡れない(・・・・)って。


「えっとね、風雅。アズライグル海峡は決して渡れない海なの。別名……」

不渡わたれずの海、だろ」

「そう、正解! 不渡わたれずの海! ――アレ? あたし、云ったっけ? 云ったよね? それ、知ってるって事は云ったって事だよね?」

「ああ、そうだ。そう聞いた」


 云ってたじゃん! やっぱ、あたし、云ってたじゃん!

 あ~、説明不足か。

 とんとんとーん、と説明しないとコイツ(・・・)自分の世界に入っちゃうから、ちょっと先走さきばしり過ぎたかもね。もう少し、丁寧ていねいに説明しなきゃ、だね。


「アズライグル海峡はね、決して渡る事ができない海なの。

 過去、何十年何百年もの間、何百人何千人もの屈強くっきょうな海の男達であってさえ、この海を乗りえ向こうぎし辿たどり着けた者は一人もいないの」

「なるほど。だが、かつていどんできたその男達の中に俺は入っていない」


 ちょっ……――

 そりゃそーでしょ! あんた(・・・)はさっき、あたしが召喚しょうかんしたばっかなんだから。


かく、ネクロニグロに辿り着くためには二通ふたとおりの方法しかないの。一つは西の大陸に向かい、そのまま南下して縦断じゅうだんし、海路かいろで北を目指めざす。もう一つは東の大陸を目指し、陸伝りくづたいでぐるりと回る陸路りくろ

「その方法だと魔王の居城に到着する迄、どれくらいの時間がかかる?」

「えっ? う~ん……はっきりとした事は云えないけど、距離的には順調じゅんちょうにいって2、3年ってところかな?

 けわしい山道や不毛ふもうの大地、湿地帯しっちたいや大森林、砂漠さばくやなんやと道なき道を進まなければならないだろうし、路銀ろぎん物資ぶっし調達ちょうたつ、情報収集(しゅうしゅう)謎解なぞとき、魔王討伐(とうばつ)有志ゆうしつのったり、魔物まものや魔王軍との交戦も考慮こうりょすると最低でも5~7年くらいかかると思ったほうがいいかも?」

悠長ゆうちょう過ぎる。却下きゃっかだ」

「エーッ!!」


 却下、って。

 じゃー、どーやって行くつもりなのよ?

 ちょっとこの人、性急せっかち過ぎるんじゃない?


「――矢張やはり、アズライグル海峡を渡る」

「…………あのね、風雅。アズライグル海峡は本当に誰も渡れないのよ。

 潮流ちょうりゅうの関係でふねを出しても進めないし、仮にほんの少しおきに出られたとしても天候がれやすい上、高波たかなみ頻発ひんぱつ磁石じしゃくも狂うし、海棲かいせいの魔物も頻繁ひんぱん出没しゅつぼつするの。海水温かいすいおんも低いから投げ出されたら、まず助からない。流れが速く漂流物ひょうりゅうぶつも多いから、どんなに頑丈がんじょうふねを作っても、渡る事は不可能だわ」

「なら、空を飛んで行けばいい」

「ええーっ!? どーやって空を飛ぶつもりか知らないけど、それも無理。

 海峡上空は常に突風とっぷうが吹きすさび、西から飛来ひらいする砂塵さじんのせいでやすりの中を進むようなもの。さっきも云った通り荒天こうてん見舞みまわれたら稲妻いなずまに打たれる可能性も高いし、冬場ふゆばだったらこごえてしまうわ」

「舟も駄目、飛んで渡るのも駄目、という訳か」

「そう、そういう事。これはもう、ナグルマンティに定められた大前提ルールみたいなもの。海の水がしょっぱいのと同じ、それくらいの必然ひつぜんなの。

 これを【界抑止力ワールドモラル】と云うの。分かり易く云うと“定説セオリー”ってヤツ。

 人間が、生命が、例えそれが選ばれた勇者であったとしても、曲げる事の出来ない絶対的なルール。そしてそれは、魔王も同じ。だからこそ、魔王も海峡を渡ってれないし、この地がいまだ平和を維持いじできている理由になるの」

「――……」


 あっ、――黙っちゃった。

 うーん、云い過ぎたかな?

 でもね、それくらい海峡を渡るってのは不可能な事なんだよ。

 あたしが女神で、あなた(・・・)が女神じゃないってのと同じくらい、これはもう当然の事なの。それがこのナグルマンティのルール。


「――理解かった」

「分かってくれた?」

「ああ、攻略クリアした」

「? なにを??」

「海峡を渡る方法、だ」


 エエーーッッ!!?

 まだ、性懲しょうこりもなく、海渡るつもりなの!?

 ったく、なに考えてんのよ。

 そんな自信あるってんなら、その方法、教えてみなさいよ!


「どうやって渡るつもりなの?」

「歩いて渡る。走ってもいいがな」

「――え゛え゛っ!!? ど、どっ、どーーやってよ???」

「左足を一歩()み出す。その左足がしずむ前に右足を踏み出す。踏み出した右足が沈む前に今度は左足を踏み出す。

 これを繰り返せば、おのずと水面みなもを歩む事が出来よう」


 ……――

 あー……

 ――あたしも、気付かっちゃった。

 こいつ(・・・)、アホなんだ――

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