第6話 アンケート案件
午後の授業も終わり、俺はいつものように生徒会室へと向かう。
眠い。昨日夜遅くまで夏葉を説教していたせいだ。授業中も、うとうとしてしまい、先生から小言の一つを頂戴してしまった。
あくびをしながらドアを開けるとそこには屈んだ状態のカレアがいた。カレアの向かい合う先には先日の俺達生徒会によって捕まえられ、ここで飼うことになった猫のシチューがいる。
シチューの前で四つん這いになると、猫を真似るような仕草をする。
「……にゃー」
なにあれ、めちゃくちゃ可愛いんだけど!
常日頃、理不尽な暴力を受けている俺ですらハートを鷲掴みにされそうな破壊力だ。
しばらくして、さっきまで猫に話しかけるのに夢中だったカレアが俺の存在に気づいた。
「――っ!? か、和也、いつからそこに!?」
動揺するカレア。普段のツンツンしている様子からは想像できないほどだ。
「……み、見た……?」
顔を少し赤く染めながら上目遣いで聞いてくる。
は、反則だろそれは。可愛いすぎる!
俺は自然とからかいたくなった。意味ありげに微笑みながら、
「あ、何も見てないから、気にせず続けてどうぞ」
「――――っ!」
カレアの顔が羞恥でさらに赤く染まっていった。耳まで赤い。カレアはしばらく下にうつ向き微動だに動く様子がない。
あれ、少しやりすぎたかな?
俺がそう思っていると、カレアは顔を上げた。今度は羞恥ではなく怒りで顔を赤く染めている。涙目で俺を睨むと、
「こ、このバカーー!!」
――――え?
「ぐほっ!」
気づいたときにはもう遅かった。カレアの渾身の右ストレートが俺の腹を直撃していた。まさに、魔王の一撃。俺はそのままぶっ飛び、扉にぶつかったがそれでも勢いは止まらず、扉をぶち破って廊下に吹き飛ばされる。そして、その先にある壁に激突して止まった。
「わっ! か、カズくん!?」
目の前を横切って吹っ飛んできた俺に会長が驚く。俺は体の半分くらい壁にめり込ませている。
「フン!」
カレアはそんな俺を一瞥するなり、鼻を鳴らして身を翻した。
「え、えーと……大丈夫?」
「……ここは天国なのか? 会長に似た天使が目の前に……」
「しっかりしてカズくん! 君はまだ生きてるよ!」
◆ ◆ ◆
その後、凛華先輩と土筆ちゃんが加わり、今日の生徒会活動が始まろうとしていた。瀕死状態だった俺は会長の治癒魔法で治してもらい、まだ体が痛むが復活した。
「今日は回収したアンケートを確認だよ」
「……はぁ~」
会長の言葉を聞き俺はため息をついた。
「あれ、和也先輩が元気ないですけど、どうしたんですか?」
「ちょっと、な……」
実のところ、俺は生徒会のアンケートがトラウマになのだ。なぜそうなったかというと、去年のアンケートで、
「アンケートに和也向けの脅迫状が入ってるのよ」
俺を殺しかけた本人であるカレアが言う。
そう、前回の生徒会のアンケートでは俺宛への脅迫状と会長達へのラブレター、ファンレターが八割をしめたのだ。
去年は俺が生徒会に入って間もない頃で、土筆ちゃんを抜いたこのメンバーで生徒会をしていて、アンケートを見た次の数日間は落ち込んでいた。
「去年は何枚だったけ?」
「……246通です……」
「めちゃくちゃ多い!」
この数はこの清ノ海高校の全校生徒の三割だ。あとの五割が先ほどのラブレターやらファンレター。真面目にアンケートに取り組んでいる生徒はたったの二割ほどしかいない。
「まぁ、そんな感じでカズくんは元気がないだよ。今年何枚だろうね。それよりもなんでカズくんを恨むんだろう?」
なにげなく首をかしげる会長。
半分以上あんたのせいだよ! というツッコミたい衝動を抑え、俺は嫌々ながら担当分のアンケートを机の上に置いた。
さぁ、今年は何枚だろうか。少なくなったことを祈って、俺はアンケートを読み始めた。
――結果はこの通り、
『生徒会の天使達に手を出したらお前の命はない』
最初から脅迫状である。これなんかまだましな方で、
『嫉妬の炎に抱かれて消えろ!』
『殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺』
『エクスプ◯ージョン』
怖い怖い怖い。二番目なんて殺意以外感じらないんだが! もう、呪いだよね! 病んでるよね! 三番目のはいろんな意味で危ないし!
その後も続き、
『月代和也を副会長から解任しろ』
『月代和也 死因 爆死』
『月代和也 デスorデス』
『バ◯ス』
否応なしに贈られてくる心傷つくアンケートをめくっていくと今度は、
『会長応援部創設させてください』
『凛華様に蔑まれたい』
『カレア様の胸って何カップなんですか?』
『土筆様に虐められたい』
等々、会長達へのラブレター(?)が大量にある。
もはや皆さん、様扱いとなっている。それにしても、カレアの胸は確かに気になる。俺がカレアに視線を向けると目があう。カレアさんはまだ怒っていらっしゃるようで、フンっと視線を逸らしアンケートの確認へと戻っていった。
今度なんか奢って機嫌を直してもらいますか。
残り少しというところで、ようやく脅迫状でもラブレターでもない、まともなのがきた。
『コンピューター部の部費を増やせ!』
「会長、コンピューター部から部費を増やせ、と書いてありますが?」
「カレアちゃん、コンピューター予算は?」
「えーと、他の部と変わらないので、問題ありません」
「じゃあ、処分してオーケーだね」
「分かりました」
そのアンケートを山のように積もった。脅迫状等々と共にシュレッダーにかけ、ゴミ箱に捨てた。
しばらく作業を続け、ついに最後の一枚となった。
『果たし状 名探偵リアが生徒会の謎を解き明かしてやります。後期到来の時まで首を洗って待っているがいい』
ん? この学校に探偵部ってあったけ? てか、後期到来のこうきって、好期だよな。間違えてるのか、それとも後期に来るという意味なのか?
「まぁ、よく分からないし、処分しよう」
俺は最後のアンケートを処分した。他四人もちょうど終わったようでカレアが統計を記入している。
「やっと終わりましたよー、もう土筆くたくたです」
「土筆ちゃん、お疲れ様。カレア手伝おうか?」
「大丈夫よ和也君、カレアちゃんは私が手伝うから和也君はゆっくりしてるといいわ…………これで和也君の好感度アップね」
「凛華さん、本音漏れてます。じゃあ、これお願いしてもらっていいですか」
アンケートの統計が終わり、会長がそれに判子を押して、カレアと一緒に柊木先生に渡すべく職員室に向かった。
結果は
アンケートの合計 全校生徒にあたる 750
月代和也への脅迫状 300
ラブレター ファンレター 430
その他 20
「なぜだ、なぜ増えた!」
「ちょっと、和也先輩の顔が死んでますよ! あ、和也先輩が壁と一体化しようとして――落ち着いてくださいよ先輩!」
「……壁と一体化しようとする和也君も素敵だわ」
「ちょ、凛華先輩、変なこと言わずに助けてください! 『いいんだ、土筆ちゃん俺は壁になる……』和也先輩、だから無理って言ってるじゃないですか!」
と、俺達が茶番劇をしていると、アンケートの結果を職員室にもっていった会長とカレアが戻ってきた。会長は目の前で繰り広げられている喧騒に戸惑ってしまったが、いつものように締めくくった。
「じゃあ、今日の生徒会活動はおしまい。みんなお疲れ様」
会長の締めくくりを最後に今日の生徒会活動は終わりを告げた。
おまけ
「お兄ちゃん、ご飯まだー、ってわ! お、お兄ちゃん!」
「……夏葉、お兄ちゃんはもうダメだ……」
「なにがあったの!? それよりご飯は……?」
「お兄ちゃんは将来、壁になりたい……」
「なに、その幼稚園児の夢をネガティブ化したような夢は!?」
「できたら、50メートルの……」
「意外と具体的だった!? というかそれは色んな意味で危ないよお兄ちゃん!」
「……じゃあ、壁ドン……」
「もはや、壁じゃない! 私もお兄ちゃんにされたいけど!」
「……なら、カツ丼……」
「わかったよ、お兄ちゃん! すぐにカツ丼買ってくるから、ちょっと待ってて!」
二日間ずっとこんな調子だった。
ここにきて未だ自分の文章がぐちゃぐちゃなのが際立つ。やっぱ、書くの難しい!これからも書き続け、レベルアップを目指して頑張りたいですね。
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