第4話 伏線はほどほどに
「これはたくさん盗んだな……」
俺は現在、校内にある大きな木の根元にあるくぼみを覗いている。そこには色んな物が転がっていた。何の住みかか、というと勿論俺達、生徒会が先程苦労して捕獲した猫のだ。
猫はカレアががっしり抱えるように捕まえている。あれはカレアなしでは成せなかったなであろう。胸がなしだけに。
一瞬、悪寒がよぎった気がしたのだが、それを遮るように会長が尋ねてきた。
「カズくんあった?」
「えーと、鍵はありました。これは教頭のズラだな……」
盗難リストに載ってないものも沢山ある。よくもまぁ、こんなにも盗んだな。
手探りを続けていると小さな紙のようなものに手が触れた。とりあえず取り出してみる。
「ん? これは写真か……どれどれ」
取り出した写真を見ると、
「――――は?」
絶句した。
会長が横から覗きこんでくる。突然、腕になにやら弾性のある柔らかな感触が襲いかかる。胸が当たっているのだ。だが、それすら意識できないほどに困惑していた。
何故なら、
「写真? あ……カズくんの着替え写真……?」
その写真は、俺の着替え――つまり、半裸を写しているのだ。体育の授業後の着替えだ。自分の半裸の写真を見られ気恥ずかしさも感じるが、それ以上に自分の着替えが盗撮されたことに俺は狼狽えた。
一体誰が……。
すると、凛華先輩が歩みよってきて、澄ました微笑を浮かべながら何事もなかったように言う。
「和也君、それは私のだがら返してくれると嬉しいわ」
「…………」
俺は写真と凛華先輩に視線を往復させて、それをビリビリに破いた。
「そんな、和也君の生着替え写真が! 折角苦労して買ったのに……」
「あはは……」
「続けましょう」
散り散りになった写真を見て跪き嘆いている凛華先輩を傍目に盗難品探しを続行した。
「これは雑誌っぽいな……」
くぼみの中は暗くて雑誌の表紙は見えない。何の雑誌だろうか?
「「――ッ!?」」
それを見た瞬間、俺と会長は驚愕した。
「……エッチなやつだね。けしからないなぁ」
「……はい、見事に18禁ですね……たく、この同人誌の誰がもってきたんだ?」
会長は頬を赤く染めながら言う。
これの持ち主に言うことがあるとすれば、読みたいのは同じ男として分かるが、せめて家で読んでくれ。
そわそわしながら何かを気にするようにカレアがこっちを見てくる。
「どうした、カレア? 何か盗まれたものでもあったのか?」
「な、ないわよ。最初に言ったじゃない」
「いや、それにしては何かを探してるようだったらか」
「き、気のせいよ、気のせいなんだから」
よく分からないが、俺の気のせいのようだ。
その後もゲーム機やら財布やら色々とでてきた。
「これで最後か……なんだこれ?」
ピンク色の布切れのようなものだ。なんだろうと思い広げてみると、布はゴムのように伸びた。
――Oh,ディスイズランジェリー
突如、横からカシャカシャとシャッター音がなる。
「証拠保存です。和也先輩これをばらまかれたくなかったら、今度おごってくださいね」
スマホを見せながら上目遣いで脅してくる土筆ちゃん。
俺には下心などなかったのだが、これは分が悪く反発できない。他人からしたら、どう見たって俺が下着泥棒みたいだかだ。
「鬼畜かよ………分かったよ」
「やったぁ!」
渋々、了承する俺。この子、悪魔だよ完全に。
「それにしてもこれ盗まれたの誰だよ……」
パンツをつまみながら独り言をこぼす。すると突然、突風が吹いた。
「きゃ!」
女子達はスカートを手で抑えめくれるのを防いだ。しかし、写真の前で未だに四つん這いになっている凛華先輩は防ぐことができなかった。
スカートがめくれ、中が覗く。
「――んな!?」
――――履いていない……だと!
「……凛華先輩のだったなんて。すみません、何も見てないんでこれ早く履いてください……」
「私のじゃないわよ、和也君」
凛華先輩は小首を傾げるように衝撃の事実を伝える。
「え、いや、だって履いてなかったじゃないですか」
「今日は元々履いてないわよ?」
「――え?」
「それよりも、和也君。私の大事なところ見たんだから責任とってもらわないといけないわね」
意味ありげに微笑む凛華先輩。こればかりはぐうの音も上がらない。他のメンバーの目は皆、犯罪者をみるような目だ。
視線で殺されそう……。
「そうねぇ……じゃあ、今度一緒にデートで許してあげるわ」
いっそう強くなる視線。もう、痛いとかそういうレベルじゃない。しかし、逃げ道のない俺にはその選択を選ぶことしかできなかった。
「……分かりました、先輩。今度デートするんで許してください」
「うふふ、楽しみね」
上機嫌になる凛華先輩とは逆に他のメンバーはむくれ顔だ。
なに、皆、俺にマウンドとりたいの? どんだけ俺のメンタル壊したいんだよ……。
結果として盗難品は、土筆ちゃんのサンドイッチ以外無事見つかった。
◆ ◆ ◆
盗難品をもって生徒会室に入ると、そこには棒つきキャンディーを口にくわえながらイスでくつろいでいる柊木先生の姿があった。
「ちゃんと仕事したんですか……?」
「勿論したとも。私はやればできる女だからな」
「じゃあ、これからちゃんと一人でできますね」
「いや、これとそれでは別だ」
「おい」
「それはともかく、その調子だと首尾よくいったんだろ?」
「はい、猫も捕まえて、盗難品も無事回収しました。」
運んできた盗難品を机の上に置く。
「にゃー」
「そいつが犯人か。ずいぶんと変わった猫だな。どうしてやろあか」
「斬りましょう、東条先輩ごと」
「土筆ちゃん、まだ恨んでるんだな……てか、地味にカレア入ってるし」
「食べ物の恨みは怖いんですよ、和也先輩」
「いや、カレアは食べ物と関係ないだろ」
俺と土筆ちゃんがコントじみた会話していると横から会長が横から、
「それなんだけど、この子を生徒会で飼うってのはどうかな?」
「あ、私も会長の意見に賛成です」
それにカレアが追従する。
「会長、そいつ土筆のサンドイッチ奪ったんですよ」
「剣城のサンドイッチはともかく、また他のの生徒の物を盗まれては困る」
先生の言い分は珍しく正論だ。
「それは大丈夫だよ。ちょっと待っててね」
そう言うと会長はカレアに抱えられた猫と向かい合うと杖を取り出して呪文を唱えた。魔法で猫と会話してるようだ。
「えーと、1日三回の食事さえ与えてくれたら見張りの仕事もしてくれるって」
「信用できるのか?」
「でも、少なくとも柊木先生よりは信用できそうですね。俺も賛成です」
「おい、月代。私をディスってるよな」
「気のせいです」
「まぁいい、それなら私は了承してもいい。学校には上手く言っといてやる」
珍しく頼もしい。
「凛は?」
「私はハルちゃんが決めたことなら別段文句はないわ」
「あとは土筆ちゃんだけだね。だめ……かな?」
「――うっ」
会長が上目遣いで土筆ちゃんを見ると、土筆ちゃんは困惑した顔をする。無理もない、上目遣いしてくる会長はとてつもなく魅力的だ。男女問わず見とれさせるほどに。
「……か、会長が言うなら勿論、土筆も反対しませんよ。えぇ、例えそれが私の昼食を奪った猫だとしても」
「ありがとう、土筆ちゃん!」
最終的に土筆ちゃんも折れ、生徒会で飼うことが決定した。
「そういえばこいつに名前なかったですよね?」
「うーん…………全身真っ白だから、シチュー! どうかな……?」
「いいんじゃないですか」
「じゃあ、シチューに決定ね。君の名前は今日からシチューだ」
「にゃ!」
名前も気に入ってもらえたようだ。シチューはカレアから会長に飛び移った。なにこれ、めちゃくちゃ和む。
「後は盗難品だね」
「それは私がやっておこう」
柊木先生がだと……!
「柊木先生、熱でもあるんじゃ……」
「月代お前は私をなんだと思ってるんだ。なに、校内の問題を解決してくれた代わりだ。遠慮するな」
柊木先生の言葉に甘えて俺達は今日は帰ることした。
「ん?」
「どうしたの、カズくん?」
「いや、同人誌がいつの間にか消えているんですが」
そう、机に置いてあったはずのエロ同人誌がなくなっている。
「持ち主がとっていったんじゃない?」
「俺達以外誰もこの部屋に入ってきてないはずなんですが……」
「本が本だからこっそりとってなんじゃない」
「……それも、そうですね」
俺は違和感を覚えつつも、頭から振り払い生徒会室をあとにした。
かくして、生徒会による猫捕獲作戦は幕を閉じた。
◆ ◆ ◆
「まさか、猫に下着を盗まれるなんて……探偵として一生の不覚」
「…………」
「ノーパン、か? それを聞かないでくださいレナ! 恥ずかしいじゃないですか。うぅ、生徒会室に早く取りにいかねば……」
「…………」
「なになに……生徒会の視察も兼ねて、と。フムフム、それはいい案ですね。この隻眼無双の名探偵リアが生徒会の秘密を暴いてやります!」
「…………」
「……慧眼無双の間違い? そ、そうとも言います!」
ここで、今後の話に繋がる伏線をいくらか張りました、よかったら予想してみてください。まぁ、それまで続いていればの話ですが……もちろん頑張るつもりです。
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