第3話 猫捕獲作戦
「まずは作戦会議だね。誰かいい案ある人」
会長がゲン●ウポーズをしながら言う。結構ノリノリようだ。それっぽい雰囲気をだしている。
現在、生徒会室では『猫捕獲作戦』の作戦会議が行われている。
会長の前には右に俺、左には凛華先輩が向かい合うように座っていて、俺の右にカレア、先輩の左に土筆ちゃんが座っている。これが生徒会のいつもの座席だ。
「はい、はい!」
「土筆ちゃんどうぞ」
サンドイッチを猫に取られ、やる気のある土筆ちゃんが手を挙げる。
「見つけ次第、魔剣でぶったぎるのはどうでしょうか?」
そう言い、魔剣を構える土筆ちゃん。勇者なのに聖剣じゃなくて魔剣を使うのはどうかと思うのだが、本人曰く、聖剣よりも魔剣の方が使いやすいらしい。
本当にこの子は勇者なのだろうか……? いつも疑ってしまう。
「土筆ちゃん、作戦になってないけど……」
「悪即斬です」
自信満々に言い切る土筆ちゃん。
いや、どっちが悪党なのか最早分からないんだが……。
「いや、だめだろ」
「ダメね」
「ダメに決まってるじゃない」
「却下だね」
満場一致で土筆ちゃんの案は不採用となった。
「そんな~」
ガクッとうなだれる土筆ちゃん。
「それより、和也君。猫の特徴は?」
「えーと、全身が真っ白で額に黄色の星マークがあるそうです。目撃者曰く、すごくすばしっこいそうです」
事実、色んな物を盗んでいて、捕まっていないのだからそうなのだろう。
「人の下着を盗むぐらいだからね」
「そうですね。盗まれた人が間抜け過ぎたのかもしれませんが……」
十中八九、間抜けに違いない。そう思っていると、凛華先輩が突然、クールな表情でそれにそぐわぬ発言をした。
「和也君も私の下着を奪ってもいいのよ。強引にでも」
この人は何を言っているのだろうか。
「凛華先輩、さりげなく問題発言するのやめてもらえます」
「もう、処女まで盗もうだなんて、和也君は欲張りさんなんだから♪」
「何も言ってないから! 誤解されるようなこと言わんでください!」
俺の必死の弁解にも関わらず他のメンバーからは氷点下の眼差しを向けられる。
「……カズくん」
「和也先輩、マジ、キモいです」
「は、破廉恥よ、和也!」
「いやだがら、してないから!」
ゴミを見るような目だ。それとカレア、何故お前が恥ずかしがってる。そこは普通、前者二人のような反応をするべきだと思うのだが。不本意ながら。
俺は咳払いをして、話を割りきるために案をだす。
「ともかく、見つけたら何人かで囲って捕まえるってのでどうですか?」
「確かにそれが一番合意的ね」
「異論はないわ」
「いいんじゃないですか」
「じゃあ、それで決まりだね。よし、まずは猫がどこにいるか探さないとね」
会長は凛華先輩の方を振り向くと、
「凛、透視で探せる?」
「学校全体となるとちょっと難しいわ、ごめんなさい」
凛華先輩曰く透視で見れる範囲は半径5メートルまでらしい。流石に学校全体は広すぎるので、できなくてもしょうがない。
「それなら、手分けして探して見つけた人が他の人に知らせるのが最善ですね」
「でも、連絡はどうするんですか?」
土筆ちゃんが指摘する。確かに、いちいち電話するのも面倒臭いし、手間がかかる。
それを見越したかのように凛華先輩が今度こそという意気込みで言う。
「そこは私に任せて。テレパシーで私が皆に知らせるわ」
テレパシーと言えば、超能力者の十八番だ。相手と心の中で会話することのできる能力だ。
そういえば、最初の頃はよくこの人に授業中にテレパシーで話しかけられてビックリしたな……内容が内容だけに。
「よし、じゃあ見つけたら凛に報告ね。それじゃあ猫捕獲作戦開始!」
会長の掛け声と共に作戦は開始された。俺達は生徒会を出てばらばらになり、猫探すことから始めた。
しばらく探し続けること数分、ようやく見つけた。猫の方も俺に気付き逃げようとする。俺は追いかけながら心の中で凛華先輩を呼ぶ。
(凛華先輩、聞こえてますか)
(ええ、聞こえてるは私の愛しの和也君の声が)
(ちょっと! 真面目にやってください!)
(真面目なのだけれど? それよりも見つけたのでしょ?)
(はい、二階の廊下です。今追いかけてます。かなり、早いです)
(分かったわ。…………和也君、皆に伝えたわ。あと、すぐそこに土筆ちゃんが向かっているわ)
(了解です)
凛華先輩と心の中で会話を終え、猫との追いかけっこを継続する。すると、猫の向かう先の廊下から土筆ちゃんが現れた。
「この泥棒猫めが、サンドイッチの恨みいまここで晴らしてやります!」
仁王立ちで構えている。
この調子なら挟み撃ちで捕まえることができそうだ。内心で勝利を確信した。
だが、猫は土筆ちゃんの股の間を通り抜け、ことごとく逃げていった。
「にゃー!」
「んな!」
「なにやってるの土筆ちゃん!」
その後、会長も加わり俺達三人は猫と激戦を繰り返し、ついに住みかであろう木まで追い込んだ。しかし、それでも猫を捕まえることができず、いまだに俺達は空気しか掴めていない。そして、激戦の末俺達はダウンした。
「はぁ、はぁ、カズくん、私もうダメ」
「うぅ……無念です」
グニャリとへたれ込む会長とバタリと倒れる土筆ちゃん。
「にゃ」
勝利とも言わんばかりに鳴く猫。
残念ながら俺も、もう体が一ミリとて動かすことができない。万事休すか……。
そう思われた矢先、思いがけない事が起きた。
「ごめんなさい、遅くなったわ」
「ふぅ、追いついた!」
校舎の方から走ってくる二つの人影。凛華先輩とカレアだ。二人は体育館の方を探していたのでここまで来るのに時間が、かかったのだ。
猫は二人の方を向いたかと思うと、あろうことかカレアに向かって飛び込む。
「にゃーー!」
「「「え?」」」
呆然とする俺達。
「わっ!」
カレアは驚きながらも、飛びかかってきた猫を見事キャッチした。
「ど、どうして東条先輩のところに」
狼狽する土筆ちゃん。それもそうだ。さっきまで俺達から逃げていたはずの猫がわざわざ捕まりに行くとは思えない。
俺は考え出した結果、一つの真意にたどり着いた。
「そうか! 猫は壁で爪とぎをする習性がある。」
「あ! カレアちゃんには胸がない!」
ハッと思い浮かんだ会長が答える。他のメンバーもなるほど、と言った感じで納得し始める。「うぐっ」と唸るカレア。
このヒントから答えを導きすと、
「そう、カレアの胸は絶壁。つまり、その猫はカレアを壁とまちが――ぐほっ!」
「誰が絶壁よ!」
俺が回答を言い終わる前に、カレアの膝蹴りが俺の腹に炸裂した。
「私だって少しぐらいあるんだからね! 和也のバカ」
あと、付け加えるならカレアの猫っぽいところから親近感が湧いたのだろう。
ともあれ俺達は猫を捕まえることができたのだった。
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