第2話 生徒会のおしごと
「うい~す、やってるかぁ」
扉から一人の女性教師が入ってくる。適当感が溢れた教師だ。俺は、俺に仕事を押し付けてきた本人に青筋を浮かべ問いかける。
「柊木先生、仕事ほったらかしてどこに行ってたんですか?」
「ど、どうした月代。怖い顔して」
「どうした、じゃありませんよ。生徒に仕事を押し付けてぶらぶらしてた、なんてことありませんよね?」
柊木先生――生徒会の担当教師で生徒会メンバーの秘密を知っている数少ない人間だ。中々の美人なのだが、それを補って余るほどの残念な人だ。仕事が雑だったり、放任主義だったり等、色々である。
そんな柊木先生は俺の問いかけに慌てるように答える。
「わ、私にも色々とやることがあるんだよ。それにいいだろ、お前と私は運命共同体なんだから」
どう取り繕っても言い訳にしか聞こえない。
「誰も先生と運命共同体になった覚えがないんですが。そうやって、調子のいいことばっか言ってるから、彼氏できないんですよ」
「うぅ、それは、言わないでくれ~」
事実この人は教師になってから彼氏がいない。まぁ、当たり前と言えば当たり前なのだが、誰でもいいから貰ってあげて欲しい。見てるこっちが悲しくなる。
「カズくん、柊木先生には手厳しいね……」
「いえ、この人はもっと仕事をさせるべきなので」
「そんな! 私が過労死するぞ」
「そのぐらいは働いてもらいわないと」
俺がこの人にやらされた仕事の数々を考えれば、当然のことだ。資料の整理やら名簿探し、荷物運びなど手伝わされた俺の身にもなってみろ、この人をいやでも働かせたくなる。
「……ごほん、まぁ、冗談はこのくらいにしてだな」
「冗談で済ませられると思っているんですか?」
「な、ナンノコトカ、ワカラナイナ~。と、ともかく、お前らに仕事を与えに来た」
柊木先生は咳払いをして話を続ける。
あんた、よくさっき仕事をやらせた奴に頼めるな。俺なら絶対に出来ないぞ。
「柊木先生、自分の仕事は自分でしてください」
こればかりは絶対にお断りだ。俺は呆れた口調で言う。
が、しかし、それとは違うらしく、
「いや、残念ながら私の仕事ではない。これは学校からだ。お前らには校内に迷い込んだ猫を捕まえてほしい」
凛華先輩、カレア、土筆ちゃんの肩がビクッと震える。
「猫ですか……?」
「ああ、野良猫だ。そいつが色々と盗んでいるみたいで生徒達だけでなく教師達も困っている。これが盗難リストだ」
柊木先生はそう言って胸ポケットから一枚の紙を取り出し、渡してきた。
えーと、なになに……
「サンドイッチに教頭のヅラ、教室の鍵、写真、同人誌、……パンツ?」
猫にパンツ取られる奴とか今時いるのかよ。会ってみたいものだ。それにしても、色とりどりだな。
「色々盗んでるね」
会長が割り込むように覗き込む。
ち、近い……!それにいい匂いがする。いかんいかん、正気を保つんだ俺! そ、そうだ素数を数えよう、1,2,3……
他のメンバーからジト目を向けられ、俺は咳払いして柊木先生に続きを促した。
「私物については自己責任でいいんだが、学校の鍵ばかりはそうもいかん。という事でお前らに頼みに来た、というわけだ」
「成る程、確かに学校の鍵は困りますね。どうします、会長?」
「うーん……」
会長が考えていると突然、他の三人が立ち上がり、
「やるべきだと思うわ、ハルちゃん」
「生徒の代表としてやるべきだと思います」
「やりましょう会長!」
会長がそれに「わっ!」と驚き、椅子から転げ落ちる。こういうちょっと抜けたところが、可愛いんだよな会長は。
それよりも、
「今日は皆、やる気あるな……何か、盗まれたのか?」
柊木先生までとはいかなくても、普段あまりやる気のない土筆ちゃんがここまで熱心なのは珍しい。
怪しい……。
「「「ギクッ!」」」
すると、三人は慌てる様な仕草をし始める。
「や、やだなぁ和也君、私が猫に物を盗まれるような顔をしてるかしら」
いや先輩、盗まれてないなら、そんなに慌てなくても……。
「そ、そうよ、和也! 私も何も盗まれていないけど、学校の為にしょうがなくなんだからね!」
カレア、お前は何故そこでツンデレを発動するんだ?
「そうですよ和也先輩、私はただ、私から昼食を奪ったあの憎たらしい猫を懲らしめやりたいだけなんですから――あ」
自分が白状していることに気付いた土筆は、「しまった!」という顔をして口を押さえる。
「やっぱりか、あの土筆ちゃんがやけにやる気があるんで、おかしいとは思ったんだよ。じゃあ、盗まれたのはサンドイッチ?」
「…………はい」
しゅんとした表情で答える。
いつもは俺をいじくり倒そうとしてくるくせに、立場が逆になるとどうもこうなるんだよな……。
「まぁ、どのみち誰かはやらないといけないから、やるってことでいいんじゃないかな、カズくんも、それでいい?」
会長の提案に土筆ちゃんはパッと顔を輝かせる。そして、俺の方に向き直り、わざとらしく上目遣いで見つめてくる。
あざといな。まぁ、土筆ちゃんがやると様になってて、可愛いには可愛いんだが……。
「まぁ、会長がやるってんなら俺は構わないですが……」
しょうがない、可愛い後輩のためだ。先輩として人肌脱ぐよりほかない。
「やったぁ! 会長、土筆、一生会長について行きます。」
「わっ! 大袈裟だよ土筆ちゃん。」
土筆ちゃんは会長に親に抱きつく子供のように抱きついた。そんなに猫に復讐したかったんだな。それはさておいて、なんとも微笑ましい光景だ。
「よし、そうと決まったら生徒会活動開始だ!」
「「「「「オー!」」」」」
会長の掛け声に合わせ、皆一斉に唱和する。
その後、俺は聞こえはずのないの五人目の肩を青筋を浮かべた笑顔で掴んむ。
「柊木先生、なにちゃっかりに入ろうとしてるんですか。先生はちゃんと仕事してください」
「…………はい」