第1話 俺の周りには普通の人間がいない
最初はコメディー要素強めですが、徐々にラブの要素が加わってくるので我慢強く読んで頂けると嬉しいです。あと、優しい目で!
「これは生徒会に遅れたな……」
見慣れた廊下を歩きつつ、俺はため息をついた。窓からは散り始めた桜がみえる。四月も、もう終わりに近付いていた。
「柊木先生も自分の仕事を生徒に手伝わせるとか、どんな教師だよ」
俺――月代和也は清ノ海高校に通う高校生で生徒会副会長なんぞをやっている。それ以外は全く取り柄がない普通の男子高校生だ。会長に指名されから一年ちょっと。ようやく、生徒会にも慣れてきたところだ。
そして、俺は現在、生徒会の仕事をするために生徒会室に向かっている。
再びため息をつく。気が重い……。生徒会に遅れたことでではない、それは最悪、先生に押し付けられた仕事を手伝っていたで言い訳がきくので気にしないのだが。俺はあの環境に身を晒すと考えると、やはり、気が重いのだ。
しばらく廊下を歩き、俺は生徒会室の前にたどり着いた。
ドアに手を掛ける。心なしか、ドアが重く感じる。開けたいか、開けたくないかでいったら1対9で開けたくないのだが、不本意ながら生徒会の責務を放棄するわけにはいかない。
行くしかない。俺は心の準備をすると度胸を決めてドアを無造作に開けた。
「ピィ!」
「ぶふっ!」
突然、生徒会室から俺の顔面に向かって何かが突っ込んできた。思わず、バランスを崩し倒れる。
ぶつかってきた物体は俺の顔面に健在でモフモフした感触が顔一面に伝わる。俺はそれを両手で捕まえて立ち上がる。
鳥だ。全身は青色の羽毛で包まれていて、ハンドボール位の大きさで体型はまん丸としている。おまけに目はくりくりとしていて妙に可愛らしい。だが、こんな鳥は普通、世界中を満遍なく探しても見つからない。例えるなら、二次元ヒロイン並みの存在確率だ。
ということは会長の仕業か……
「ピィ?」
丸っこい鳥は俺を見つめて首を傾げる。俺はそいつを両手で掴んだまま生徒会室にはいる。
「おー来たか! 私の自慢のカズくん!」
俺の前に少し小柄な少女が立つ。鮮やかな紅色をしたショートヘアと少しあどけなさを残しつつも整った顔立ちをしている美少女だ。俺は呆れた顔でその美少女に話かける。
「今度は何をしたんですか……会長」
そう、この少女こそが清ノ海高校 生徒会会長――胡蝶蘭陽菜その人だ。容姿端麗、成績優秀、おまけに誰隔てなく接することから学園で人気が高く、俺の憧れの先輩だった。そして、会長には秘密がある。
「その子はチルクム鳥っていう魔法の世界では有名な鳥なんだけど、それを召喚したんだ。ついでに名前はピーちゃん」
なんと、会長は魔法使いなのである。この事実を知ったのは去年の春、会長に生徒会役員に指名された時だ。
これを知った時は正直、驚いた。考えてみろ、小説やアニメみたいなファンタジーの世界とは真逆の法則に縛られた厳しい現実世界に美少女な魔法使いが実在する。そんな都合よく現実が出来てるはずがない。この時の俺は信じてなかったが、その後会長から魔法を見せられあんぐりとしたのを覚えている。
「何でそんなもんをここに?」
「そりゃ勿論、その子を焼き鳥にして食べるためだよ。魔力も回復して、美味しいって聞いたから、一度試してみたいと思って。ほら、怖くないでちゅよ」
会長がよだれを滴ながら、差し迫ってくる。
「ピィ!?」
当然ながら、チルクム鳥改めピーちゃんが怖がり、俺の懐に隠れようとする。こんな可愛い生物を食べようするなど恐ろしい会長だ。というか、食べるなら何故名前付けた。
俺はピーちゃんを今にも食おうとする会長から庇う
「会長、食べちゃだめです」
「そこをどくんだ、カズくん」
「すみません、それはできないです」
「カズくん! 世の中は弱肉強食なんだよ。そんな甘ったるい考え方じゃ、この先、生きていけないよ!」
「それでもです」
「私よりもピーちゃんを選ぶなんて……カズくんの浮気者!」
「何でそうなるんですか!?」
と、まぁ、こんな感じで今は憧れの先輩というよりも、俺の日々の悩みの一つと成りつつある。
「そこら辺にしてあげたら、ハルちゃん。和也君も困っているわよ」
「凛が言うならしょうがないなぁ……」
会長が引き、俺とピーちゃんは安堵する。とりあえずピーちゃんが食べられることは止めれたようだ。会長は制服から杖を取り出し、ピーちゃんを元の場所に還す呪文を唱える。
強く生きろよ、ピーちゃん。
ピーちゃんが消えるのを見届けてから、俺は助け舟を出してくれた人の方向を向く。
そこには一人の美少女というよりも美人といったほうがしっくりくる少女が椅子に座り紅茶を飲んでいた。
髪は鮮やかな水色で腰の当たりまで真っ直ぐと伸びている。顔立ちは凛々しく大人びている。一言で表現するならクールがお似合いだろうそんな美少女だ。
「こんにちは、和也君。遅かったわね」
笹垣凛華――この生徒会において副会長を務める三年生で、清ノ海高校ではクール系美少女として会長に並ぶ人気を集めている。
そして、この人も俺の憧れの先輩だった。
「すみません、柊木先生に付き合わされて……凛華先輩?」
「…………」
先輩は突然黙り込み、俺を凝視する。
「和也君の今日のパンツは黒色か、堪らないわね」
「超能力で人の下着を見ないでください!」
俺は咄嗟にパンツを隠す。凛華先輩に見えるはずがない俺のパンツが見えるのは何故か。それは彼女も普通の人間でないからだ。彼女は超能力者で念力から透視、テレパシーなど様々な超能力を使える。
それだけならまだマシなのだが、問題は別にある。凛華先輩は俺に好意を抱いている。普通は喜ぶべきなのだろう、だがしかし、俺は喜べないでいた。何故なら……この人が変態だからだ! 俺が凛華先輩に受けてきたセクハラは数知れない。
「和也君を見るとついやってしまうのよ。それに、いいじゃない、別に減るものではないのでしょう?」
「そういう問題じゃないです。……まさかとは思いますが、これより下は……」
恐る恐る聞く。この人ならやりかねない
「さすがに透視を使って見るつもりないわ」
ふう、よかっ――
「生で見るつもりだから、安心して大丈夫よ♪」
「安心する要素ありませんが!?」
凛華先輩が顔を赤め、手で口元を押さえながら言う。なんでだろう、この人がやると妙にお嬢様めいたものになる。噂では、凛華先輩は大企業の社長の令嬢らしい。まぁ、所詮噂だ、こんな変態な先輩がお嬢様のわけがない。
ついでに、凛華先輩が変態だと知っているのは生徒会のメンバーだけなので、他の知らない人からしたらそう見えるのだろう。
「もう、和也君たら。そんなに照れなくても。私はいつでもウェルカムだから大丈夫よ」
「照れてません! あとノーサンキューです」
「それは残念。じゃあ、またの機会ね」
「そんな機会ありませんから」
もう、このやり取りを何回繰り返したことか。俺は馴れてしまっていた。
フフ、と微笑んでクールな表情に戻る凛華先輩。いつもそんな感じにしてくれたら、俺も確実に惚れてると思う。
凛華先輩は紅茶に口をつけ、俺に促すように言う。
「それよりも、あの二人を止めてきたらどうかしら?」
視線の先を見やると二人の人影が言い争っていた。一人は長い銀髪をツーサイドアップにした少女で、もう一人は煌びやかな金髪のショートボブの少女だ。
「また、やってるのかぁ……」
これもいつものことなのだが、こればかりは面倒臭くてしょうがない。
金髪の少女が銀髪の少女を挑発するように言う。
「だから、手が滑ったて言ってるじゃないですか。器が小さいから胸がないんですよ、先輩。ププ」
「――っ! 胸と器は別よ! そんな事も分からないから頭が残念なのよ!」
「――っな! 言ってくれるじゃないですか、もう我慢の限界です。今日こそは剣の錆びにしてあげますよ、このペチャパイ魔王!」
「それはこっちのセリフよ、このポンコツ勇者!」
最後は悪口の応酬になり、二人の少女は取っ組み合いを始めようとしていた。俺は割って入ることで止める。
「二人ともストッープ! ストップだ! いったい、何を揉めてるだ」
「あ、和也先輩! ちょうどいいところに。聞いてくださいよ、東條先輩たら自分に胸がないからって土筆に八つ当たりしてくるんですよ。どう思います?」
金髪の少女が俺の腕を掴む。
剣城土筆――生徒会で書記を務める俺の後輩。いたずらっ子のような顔していて、少し小柄な可愛らしい美少女だ。だが、見た目に騙されてはいけない。この後輩はドがつくほどのS。ついでにいうと彼女も普通の人間でなはく、なんと勇者の一族だ。
そんな土筆が俺の腕にわざとらしく胸をあて覗き込むように聞いてくる。まさに小悪魔だ。
「――ふ、ふざけないで! 先に手を出してきたのはそっちでしょ! そんな奴に惑わされちゃダメよ、和也!」
銀髪の少女がそれに反発するように叫ぶ。
こっちは東条カレア――生徒会の会計担当で、俺と同じ2年且つ同じクラス。透き通った銀髪に少しつり目の整った顔立ちをしていて、猫を連想させるような美少女だ。そして、何より際立つのは体のラインで、胸 以外は綺麗な優美線を描いている。胸は言わずもがな、全くといっていいほど真っ平らだ。
勿論、彼女も例外なく普通の人間ではない。彼女はリアル魔王の娘だ。本人曰く父親が魔王らしい。
「負け犬の遠吠えですか? 先輩だって胸の大きい女の子の方がいいに決まってるじゃないですか。ねぇ、和也先輩」
土筆がよりいっそう腕を胸に当ててくる。
や、やわらかい……。俺は腕に伝わる好ましい感触を堪能しようとしたところでカレアに睨み付けられ、咳払いをして言う。
「土筆ちゃん、女の子は胸の大きさだけで決まらないよ。胸がない子にだって胸がない子なりのよさがあるんだ――――っておわっ!いきなり蹴るなよ、カレア」
「ムカついたからよ」
「ムカつくって……俺は蹴られる覚えがないんだが。それより、早く足どけてくれません?」
「あんたに一発いれるまでどけないわ。早くその腕をどけて」
俺は頭の横でカレアの蹴りを間一髪で止めている状態だ。カレアの攻撃を一年間受けてきた俺だからこそ出来た賜物だ。
しばらくしても、カレアは諦める気がないらしくこの体勢が続く。故に俺の視線はカレアの足に引き寄せられた。爪先からニーソックス、もっちりとした柔らかな太もも、更に進み最後にたどり着いたのは、
「あ、ピンク……」
「――――ッ!」
しまった! つい心の声が漏れてしまった。
カレアは羞恥で顔を赤く染め、限界に達したのか、
「どこ見てるのよ、和也! この変態!」
「ぐほっ!」
という怒声と共に俺の腹に渾身のアッパーが放つ。そして、吹っ飛ばされた俺を一瞥するなり、フンと鼻を鳴らし顔を背けてしまった。
ここは「もう、エッチ♪」ぐらいで済ましてくれると男子的には嬉しいのだが、それもカレアのよさなのだろう。
しかし、もう少し手加減と言うものを知って欲しい。危うく内臓が破裂するところだったぞ。
「みんな揃ったし、生徒会を始めよう!」
「そうね、今日も和也君の仕事姿を観察しないと」
「凛華さん、仕事してください。そうだ、和也手伝って」
「あ、和也先輩、私もここ分からないので教えてください。東条先輩は無視していいんで」
ともあれ、このちょっと変わった美少女四人と俺を含むこのメンバーが私立清ノ海高校生徒会なのだ。ほんと、俺の所属してる生徒会は間違いだらけだ……。