プロローグ
桜の舞い散る中、とある高校で入学生である一人の少年が校内の芝生で寝転んでいた。
少年は間違えて早く来てしまったせいで、入学式がまでの時間は十分にあった。
暇潰しに校内を歩いていると、たまたま寝心地のよさそうな芝生を見つけたので寝転んでみたのだ。想像以上に気持ちよかった。
少年はそこで入学式が始まるまで寝転ぶことにした。
しばらく少年が空を眺めていると上から覗き込むように一人の少女が話しかけてきた。
「新入生の子?」
「はい、そうですが」
少女は可笑しそうに首をかしげる。みたところ上級生のようだ。
「それにしては早いね」
「えぇ、まあ、ちょっと時間を間違えてしまって」
「ふーん、そうなんだ。あ、それより、一つ質問していいかな?」
「……えーと、どうぞ」
少女は少しにこやかな表情で、それでもって先を見据えたかのような少し暗い表情でしゃべる。
「例えばの話だよ。もし、君がこれから他の生徒と仲良くなって、その子が突然、私は魔法使いで特別な力を使えるって言ったとき、君はどうする?」
「魔法使いですか、そうですね……別に変わらず接すると思います」
「……なんで?」
少女は思っていたのと違う答えに戸惑い、少年に聞き返した。
「なんでって言われましても……特別力を持ってるからってだけで態度を変える必要なんてないと思うんですが」
「……怖くないの?」
少女は聞きたくないようなことを聞くように言う。
「怖くないっていったら嘘になりますけど、他人なんて最初は誰もが皆、怖いものです。だから、そんなことはいちいち怖がる理由にならないと思います。それに俺はそっちの方が面白そうだからですかね。……すいません、勝手な理屈になっちゃって」
少年は自分が言ったことの恥ずかしさを誤魔化すように頭をかこうとしたところで、少女の頬に光る雫が滴っていたことに気づいた。
「……そうか、やっと出会えた……ずっと望んでいたような人と……」
少女は指で目頭を拭うと、さっきまでとは違う満面の笑みを見せた。
少年の中に、よく分からない何か――いや、分からなくても一つだけ言える、これから楽しくなりそうな予感、そんなようなものが春風と一緒に駆け抜けていった気がした。