春をたくさん
春は好きですか?
春は出逢いと別れの季節でありますが、四季の中では最も好かれている季節だと思っています。
好きな人も、そうでない人も、春を味わいつくしましょう!
窓を開けると、それは、香る風と一緒に、ももいろの祝福も一緒に、私の頬を通り抜け、部屋の中を満たしていった。それだけで、部屋の色調が変わったと、思わせるほどの、暖かく、明るく、部屋というキャンパスに、豪快な手つきで、それでいて優しく、色が塗りたくられていった。この絵の具の色は、すぐにわかった。『春』だ。
用事もないのに、すぐに外へ行った。自転車に飛び乗った。
さっきは、春の方から、私を迎えてくれた。
そうしたら、つぎは、私の方から、春にいっぱいあいさつをしようと、そう思ったのだ。
家の近くの坂を、下る。下る。
下るとは言っても、いつもとは違って、ブレーキを目一杯かけながらだ。速さを味わうのではなく、春を味わうために。
なら、歩けば良かったのにって?
いいんです、春なんだから。
ああ、ついつい、ブレーキをかけている手を放して、天を仰ぐようなポーズをとりたい。
「は〜るよ〜」なんて有名な歌が、くちから出てしまいそう。
だって、頭の上に、桜の花びらがふってくる。
ただそれだけかと思うかもしれないけど、ほんとうにそれだけのこと。
道の両端に、桜の木。つまりは、桜のアーチ。
強い風が吹くと、桜は、有頂天になって舞い踊り、風が止むと、桜は、ももいろをした雪のように、しんしんと、降り積もってくる。
地面を見ると、どこの家具屋にも無いと思う、桜カーペットができあがり、空を見ると、蒼と桃のコントラストが美しい。
そんなことを考えていると、もう、坂の一番下までおりてきてしまった。
そして、思い出す。あっ、今日、学校だ。
幸い、時間は余裕そうで、いつもなら重たい、学校までの道のりを、今日は、軽快なステップを踏みながらでも、行けそうな気がしていた。ワルツでも行けそうだ。
一度家へ帰る。父と母にはたいそう驚かれた。
こんな朝早くにどこへ?
ではなく、
こんな朝早くに起きたのか?
だった。
少しむっとして、でも、嫌な気はせず、いつもの支度をする。
玄関へ行き、靴を履く。
またあの春に会えるのかと、期待と興奮は冷めず、ドアへ手を掛ける。
普段と同じ声を上げるが、普段とはちがった光景へ。
「行ってきます!」
ドアは、自然と開いた気がした。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
共感して頂けたのであれば、たいへん嬉しく思います。