第7話~スティール~
「兵士が一杯うろつき始めたのぉ。」
「そうだね。」
「城の城門も閉じた様ですね。」
「そうだね・・・。」
気配感知が出来る奴が近くにいないのは幸いだけど
メーセ城を囲む様に薄いドーム状の何かが
包んでいる所を見ると、触れたらすぐに感知
出来るんだろうなと容易に想像出来るよ。
正面突破は絶対に無理だな。
「困ったね。」
「やっぱり私が囮に・・・」
「それは駄目。」
「いっそ城を消し飛ばすかのぉ。」
「一応アイルとディールは助ける予定だからさ、
さすがにそれはね・・・。」
とはいえどうすれば良いのやら。
瞬間移動で地下に飛べたら様子だけは
確認出来るんだけどな。
行った事ない場所はイメージ出来ない・・・あれ?
確か俺をこの世界に呼び出した魔族が
イメージ出来れば容易いけど、
出来ない場合はそうはいかないって言ってたよな。
出来ないとは言ってないという事は、
難しいけど出来るという事か?
「はるか。
行った事ない場所に瞬間移動・・・
つまり地下に瞬間移動する事は可能かい?」
「場所のイメージがないと・・・いえ、
コウイチ様なら気配感知出来る場所なら
可能かも知れません。」
「じゃあ、やってみるか。2人共捕まって。」
「はい。」
「良いぞ。」
「行くよ。かなたへ」
移動は出来たが・・・暗くて全く何も見えないな。
ちゃんと地下に着いたのかな?
とりあえずまずは明かりを・・・。
「灯火」
これで回りの状況が見えるな。
・・・魔族が一杯いるぞ。
どうやら瞬間移動は成功したみたいだ。
魔族はやはり全員奴隷の首輪を付けている。
いきなり明るくなっても驚かない所を見ると
意識まで奪われている状態の様だ。
みんな虚ろな目をしているしね。
奴隷の首輪を良く見ると管が付いていて、
上に伸びている。
恐らくこれで精神力を奪っているのだろう。
「王族以外の者がここに来るとはな・・・。」
見つかっ・・・た訳ではなく、
壁に拘束されている魔族が喋り掛けてきた様だ。
「人間に魔族に龍族・・・変わった組み合わせだが
何を企んでいる?」
「何も企んで何かいないよ。」
「企みを巧妙に隠すのが人間だ。」
「・・・こんな所に縛られてたら
疑うのも仕方がないか。」
「そうではない。
人間を信頼した結果がこれなのだ。」
「裏切られたという訳ね。」
「そこの魔族の女。
こいつとは早く離れた方が良いぞ。
裏切られた後ではもう遅い。
俺の様にはなりたくはないだろう?」
「コウイチ様は裏切ったりしません。」
「まるで昔の私だな。」
「一体何があったのですか?」
・・・これは長話になりそうな展開だな。
正直どうでも良いんだけど・・・。
「まだ私が自由だった頃、
1人の人間の女性と出会った・・・。」
語り始めちゃったよ。
長くなりそうだなぁ・・・。
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いつも通り魔物の配置調整をするため、
森を歩いていると1人の人間の女性が
魔物に追われていたんだ。
いつもの事だから一瞥して去るつもりだったのだが
彼女を見た瞬間、目を奪われてしまった。
いや、心を奪われたと言った方が正しいか。
瞬間、思うより先に体が動き、
彼女を追っていた魔物の間に割って入り、
彼女を助けた。
そして声を掛けたのだが、私は魔族だ。
彼女には魔族が襲いに来たと思ったんだろう。
彼女の目は恐怖に支配されていたよ。
私は彼女を襲うつもりがない事を何度も説明した。
不安そうな彼女も少しづつ警戒を解いていった。
そして彼女はこう言ったんだ。
「あなたの事を信用したいので、
明日もう一度この場所で会えますか。」
とね。
私はもちろん承諾して、朝一から彼女を待った。
3時間程過ぎた頃だったか。
早く来すぎた後悔や、
来てくれないのではないかという不安の中、
それでも待ち続ける私の前に彼女は現れたのだ。
満面の笑顔で。
彼女の名前はソアラ。
赤い髪のウェーブが掛かったロングヘアーに、
ブルーの瞳の小柄な女性だ。
そんな彼女と逢瀬を重ねて一月程たった頃だったか
いつも通り彼女に会いに向かっていると、
彼女が魔族に見付かり襲われ掛けていたのだ。
魔族が人間に陵辱しようとしている等、
信じられない光景だったが、
私が近くにいたので何とか助ける事が出来た。
しかし彼女が怯えてしまってね。
「あなたには会いたいけれど、
ここには魔族も魔物も沢山いるわ。
今までは運良く何もなく過ごして来れたけど、
また今日みたいな事があるかも知れない・・・。
もう来ない方が良いのかも・・・。」
「私がさっきの様に守るよ。」
「さっきのも偶然近くにあなたがいたから
助かったけれど・・・次はどうなるか・・・。」
「・・・一緒に暮らさないか?」
「!!」
「ソアラを一生守るよ。」
「スティール・・・。」
ソアラとの暮らしは幸せだった。
ソアラはいつでも笑顔を私にくれる。
でもそんなソアラの笑顔を奪うのは、
やっぱり他の魔族や魔物だ。
「スティールの様に話しを聞いて貰えれば
良いのにね・・・。」
「ソアラ・・・。」
「せめて私が来ないでと言ったら
去ってくれれば・・・。」
「・・・それだ!!」
私はソアラを守るための道具を開発する事に
したんだ。
魔族を制御する道具をね。
制御すると言っても簡単な命令だけ・・・例えば
『去れ』とかね。
しかし簡単な命令だと個体毎に受け取り方が
違うのではないかというソアラの助言から
複雑な命令も出せる様な道具に修正を
加えていったんだ。
だけど道具はそんなに簡単には作れなかった。
それから4年が過ぎ、少しずつ道具の完成形の
イメージ出来始めた頃、私達に子供が出来た。
魔族同士が子供を作れるのは数百年に1度。
それがこんなにも早く授かる事が出来たのだ。
本当に嬉しかった。
ソアラも言葉にはしていなかったが、
強く望んでいた様で、凄く喜んでいた。
そして同時に魔族を制御する道具も、
子供のためにも早く作らねばと強く思ったのだ。
忙しくも充実した日々を過ごしながらも
完成間近に子供が無事に生まれた。
その子は外見は人間の赤ん坊だが、
生まれながらにして成長の儀を終えた魔族の力を
持っていた。
ソアラは
「間違った力の使い方をしない様に
教えなくちゃね。」
と笑顔で嬉し涙を流していた。
そして数ヶ月後。
ついに魔族を制御する道具が完成した。
真っ先にソアラに報告して道具を渡したんだ。
ソアラは喜び私に抱き付いてきた。
しかしそこで私の幸せは終わりを告げた・・・。




