第3話~ルーミーの親父さん~
「あっ、見えてきましたよ。あれがマーベラの町です。」
高さ2メートル位の木の板に囲まれた町だ。
真ん中がアーチ上になってるから、そこが入り口かな?
アーチに何かに書いてあるけど・・・読めない。
おかしいな。今まで日本語で話してたよね?
なんで?
「あの、ルーミーさん。
俺たちって日本語で話してるよね?」
「ニホンゴ?
えっと、この世界ではある程度知能があれば、誰でも話すことができます。
コウイチさんはニホンゴで話してると思っている様ですが、メーセによって、脳内で変換しているんです。
実際にはメーセの言葉で話していますよ?」
凄いな、メーセ。
文字は俺に知識が無いから読めないってことか。
あれ?でも・・・
「ゴブリンは『ギッ』とかしか、しゃべれてないよね。
こん棒を持ってたり、集団で襲ったりと、そこまで知能が無いようには思えないよ。」
「ゴブリンは知能はあるのですが、舌と喉が退化しているせいで、しゃべれないんです。」
なるほど。
とりあえず、読み書きが出来ないと不便だな。
なるべく早く覚えたいところだけど、英語が赤点の俺には至難の業かも・・・。
それよりも・・・
「とても聞きづらいんだけど・・・」
「何ですか?」
そんな笑顔で見られると、もっと聞きづらいけど。
「俺、この世界のお金を全く持ってなくて・・・。
恥ずかしい話、1文無しなんだ。」
「・・・」
あっ、やっぱり呆れるよね。
「その服って大事な服ですか?」
「このスーツ?コ○カで買った安物だから、大事ではないけど・・・。」
「じゃあ大丈夫ですよ。そのスーツ?という服を売れば、1・2年は生活出来るお金になりますよ。」
「えっ!?このスーツがそんなに!?」
「そんな服見たこと無いですし、素材も変わっているのできちんと調べれば、もっと高く売れるかもしれません。」
驚いた。
1着買ったら、2着目は千円という安売りの服なのに良いのかな?
「私のお父さんは仕立て屋をしているので、良かったら案内しましょうか?」
「お願いします。」
ルーミーさんの親父さんか。
この娘の親だから、きっと良い親父さんなんだろうな。
高く売れると良いな~。
「ルーミー、おかえり。そのおかしな格好の兄さんはどちら様だい?」
そう声を掛けてきたのは、背中にでっかい斧を背負った屈強の男だ。
赤い鎧まで着ている。
門番みたいな感じからいっても、きっとルーミーさんと同じ警備隊の人なんだろう。
「ゴブリンに襲われていた所を助けたの。」
「それは災難だったな。兄さん名前は?」
「耕一と言います。」
「コウイチさんね。一応決まりだからこいつに手を触れてくれ。」
クリスタル?
不思議そうにクリスタルを見ていると、ルーミーさんが教えてくれた。
「このクリスタルは触れることで、魔物や犯罪者を判別することが出来るんです。」
なるほど。
人間に化けた魔物とかもこれでわかる訳か。
でも・・・。
「犯罪者はどう判別しているの?」
「犯罪者になると体に犯罪者の烙印が押されます。
特殊な烙印なので、そこで判別出来るようになるんです。」
なるほどね。
という事は、俺なら何にも問題ないな。
・・・地球人は別の反応とかしなきゃ良いけど。
恐る恐る触れてみると
「ん、問題ないな。
短期間の滞在なら100リノス、永住するつもりなら10,000リノスだ。」
・・・リノスって多分この世界の通貨の事だよな。
文無しはどこの世界でも厳しいね。
「ここは私が払いますね。」
「すいません、ルーミーさん。
この服を売ったら必ず返しますので。」
情けないな・・・。
「ほら、許可証だ。」
随分小さい許可証だな。
ちょっと大きい付箋位しかない。
持ち歩くと無くしそうだよ。
「コウイチさん。許可証は腕に付けて下さい。」
言われた通り腕に着けてみると、ピタッと張り付いた。
腕を振っても取れる気配すらない。
でも取るつもりで触ると、簡単には剥がせる。
便利な道具だね。
「許可証は1週間有効ですので、1週間以上いる場合は更新が必要になります。
更新する場合は半分の50リノスです。」
「1週間もいないと思うから大丈夫だな。」
「では町に入りましょう。
ケントさん、今日はこのまま上がるので、後をよろしくお願いします。」
「わかった。お疲れ、ルーミー。」
ケントという名前なのね。
・・・すぐ忘れそうだけど。
町に入ると何者かの視線を感じた。
というより、全員俺を見ているようだ。
「ママ~。あの人変な格好しているよ~?」
「シッ!見ちゃいけません!!」
どうやら物凄くおかしい格好らしい。
1人で歩いていたら不審人物として捕まっていたかもな・・・。
ルーミーさんと一緒で良かったよ。
「着きました。ここです。」
Tシャツぽい服と布を描いた看板だ。
文字は読めないから分かりやすくて助かるな。
・・・全く関係ないけど、女性の父親に会うのはちょっと緊張するのは何故だろう?
「いらっしゃい・・・って、ルーミーか。
今日はもう上がりかい?」
「うん。それと、お客さんを連れて来たよ。」
「お客?」
頭にキラリと輝くスキンヘッド。
貫禄や威厳を漂わせる口ひげ。
そして筋肉隆々のボディビルダーの様な肉体。
とても仕立て屋にいるとは思えない親父さんだ。
本当にルーミーさんの親父さんなのか疑いたくなるよ。
「このスーツを買い取って貰いたくて、ルーミーさんに案内して貰ったんです。」
「ほー珍しい服だな。じっくりと見てみたいな。
ところで見かけない面だが、ルーミーとはどんな関係で?」
「ルーミーさんには色々と良くして貰って・・・」
「良くして貰って・・・?」
ん?
何か不味いこと言ったのか?
「てめえ、ルーミーに手を出したのか!?」
ちょっ!!ネック・ハンギング・ツリー!?
苦しい・・・。
「お父さん、何してるの!!
彼とは何でも無いんだから下ろして上げて!!」
「彼だと!!!!!」
それ火に油を注いでるだけ・・・。
死ぬ・・・。
意識が遠くに・・・。