第2話~白い飲み物~
ようやく町に辿り着いた。
あれから3日もさ迷ってしまったよ。
何とか食料が尽きる前に辿り着いたけど、今度からもう少し多目に買っておいた方が良いかな?
さて、早速入るとするか。
・・・門番の人がいないな。
勝手に入って良いのかな?
何か町に違和感が・・・町に人がいない?
いや、家の中にはいるみたいだ。
となると魔物でも侵入したのか、はたまた犯罪者が侵入したのか。
立ち寄りたくないけど、食料買わなきゃ飢え死にするしな・・・。
仕方がない、入ってみるか。
静かだな。
でも色んな家から俺に視線が注がれているから不思議な感じだ。
とりあえず一軒一軒訪ねて何があったか聞いてみないと。
・・・誰も出て来てくれないし。
これじゃ何があったのか全くわからんな。
最悪、食料だけでも手に入れば良いんだけど。
ん?話し声が聞こえてきたぞ。
行ってみるか。
ここは酒場か。
昼間っから酒を飲む奴なんて屑しかいないと思うが、仕方がないか。
「何だ、兄ちゃん?今日は俺達の貸し切りだぜ。」
見てわかるくらい屑どもが群がってるな。
相手するのも面倒だ。
食料だけ買って帰るか。
「マスター。旅の食料が欲しいんだが、売ってくれないか。」
「おい、兄ちゃん。何無視してんだ?」
「出来れば2週間分位あると嬉しいんだけど。」
「無視すんじゃねーって言ってるだろうが。」
「・・・何かようかい?」
「今日は俺達の貸し切りだ。お前にやる食料なんざねーんだよ!!」
「そこを何とか欲しいんだが。」
「有り金全部置いて消えた方が身のためだぜ?」
酔っぱらい相手は本当に面倒だよ。
ん?手の甲に模様?何処かで見た気が・・・。
「・・・ダメダメ盗賊団の一味か。」
「ダーメス盗賊団だ!!どうやら死にたいらしいな。表に出ろ!!」
興味のない名前を覚えるのは苦手だよ。
一生覚えられる気がしないな。
「素っ裸で3べん回ってワンと言えば許してやるぞ。」
『花○慶次-雲のかなたに-』の与次郎を思い出すな。
さて、どうするか。
全部で50人位かな?
まわりを囲まれているから今一つわからんけど。
全員を素早く片付けるには、やっぱり魔法しかないよな。
でも死体が散乱してたら片付けるのも面倒だし。
町の外に追い出すことが出来れば楽なんだけど。
・・・入口はあっちか。
「ロケットブースター!!」
「なっ、飛んだ!?逃げる気か!!」
逃げる気はないですよ。
囲いを突破しただけです。
「逃がすな!!追え!!」
よし、入口と逆のこの位置なら、押せば全員入口から外に追い出せるな。
イメージは巨大な波。
『湘南純○組!』で真冬が乗った・・・
「アイリーン!!」
「つ・津波!?そんな馬鹿な!!」
お~、どんどん流されて行くな。
予定通り建物は無事だし。
加減はしたつもりだから、奴らも生きてるだろ多分。
死んでても構わないけど、復讐する前に死んでたら嫌だろうからね。
「今のうちに扉を閉めるんだ!!」
「奴らがまた来る前に急げ!!」
町の住人が一斉に出てきたぞ。
やっぱり見てたんだな。
「あんた、ありがとうな。あんたのおかげでこの町は救われたよ。」
さっきの酒場のマスターか。
報復に来る可能性もあるから、救われたとは言い切れないけどな。
「マスター。さっきも言ったけど食料を売って下さい。」
「わかりました。すぐに用意しますね。」
これで食料問題も解決だな。
おっと忘れてたな。
「マスター、この町に時間や空間の魔法に詳しい人はいませんか?」
「時間や空間の魔法?聞いた事がありませんね。」
もっと北に進むしかないか。
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一方その頃、吹き飛ばされた盗賊団はというと、
「ク・クソ!何て威力の魔法だ!しかも水属性だと!?
・・・てめえら、いつまで寝てやがる!!
とっとと起きろ!!
ダーメス盗賊団に喧嘩を売ったことを後悔させてやる!!」
仲間を蹴り起こしてまわり、ヨロヨロと立ち上がり始めた。
「凄い音がしたから何かと思って来てみたら・・・ちょうど良かったわね。」
「黒い翼・・・ダークエルフ!?何でこんな所に!?」
そこに現れたのはメディーナだった。
メディーナは一瞬微笑むと、一呼吸の内に右腕を切り捨てた。
「ギャーーー!!」
その叫び声で盗賊達が起き出した。
「良かったわ、起きてくれて。苦しまずに死んだんじゃ仲間が浮かばれないもの。」
「ダークエルフ?一体何が?」
メディーナは次々と腕や足を切り捨てていった。
盗賊団の叫び声に、苦痛を歪める顔に、歓喜しながら。
ひとしきり苦しめた後、首をゆっくりと斬って殺し、火炙りにして殺し、電撃を浴びせて殺し、ありとあらゆる手段で殺して回った。
その場にいた盗賊団を全て殺し1人残ったメディーナの姿は、金色の輝きを失った髪、白く透き通る様な肌は色付き始め、瞳には復讐の炎が宿った赤になっていた。
「次は北ね。」
そういうとメディーナは翼を広げ飛び去った。
翼に闇を纏いながら・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――
「さあ、飲んでくれ!私の奢りだ。」
あんまりお酒は好きじゃないんだよね。
とはいえ、好意だからな。
一杯付き合うのが大人の礼儀って奴だ。
「あれ?お酒は苦手でしたか?」
速攻で気付かれてしまった。
「あまり好きでは無いですね。普段から飲みませんし。」
「あんなに凄い魔法を使う奴が、お酒も飲めねぇたあ情けないな!!」
いかにも酔っぱらいと言う面倒そうなのが絡んできた。
これだから酒は嫌いなんだ。
「飲めない訳ではないさ。嫌いなだけだ。」
「ほぉ~、だったら勝負と行こうじゃないか!!負けた方が支払いだ。」
本当に面倒だ・・・。
「金札1枚なら受けてやるよ。」
「き・金札1枚だと!?どうせハッタリだろ?」
「受けるんだな。マスター、この店で一番強い酒を出してくれ。」
30分後。
「潰れたな。」
「兄さん、強すぎですよ。」
「嫌いとは言ったが、弱いと言った覚えは無いぞ。」
お酒で酔える人間ってのは、所詮普通に生きてこれた人間だけだよ。
それはともかく・・・
「金札1枚払って貰わないとな。ウォーターボール!!」
「ゴボゴボゴボ、ブハッーー!!な・なに!?」
「起きたな。金札1枚貰おうか。」
「えっ?あっ・・・。」
「まさか持ってないなんて言わないだろうな?」
「50銀札で勘弁してくれ。」
「腕1本貰うのと、黙って払うのどっちが良い?」
「・・・払います。」
こういう酔っぱらいには徹底的にやっておかないとな。
「兄ちゃん、ありがとうな。あいつには何時も困ってたんだよ。
人に飲み代を払わせるために、無理矢理勝負を挑むんだ。」
違う客が声を掛けてきたぞ。
「酒を飲むなら節度を持たないとな。」
「これは俺の奢りだ。心配しなくてもこれは酒ではないさ。」
白い液体だ。何だろう?飲んでみるか。
「こ・これはまさか・・・カルピス!?」
「いや、ホワイトウォーターだか。」
確かにちょっと薄いが、カルピスウォーターじゃないか。
俺が一番好きな飲み物がこの世界で飲めるとは。
「マスター、このホワイトウォーターを持ち運べるだけ売ってくれないか。」
「・・・飲み過ぎは良くないですよ。」
変なのもいるけど、この世界も悪くはないね。




