第1話~ゲームみたいな世界~
将来の夢はなんですか?
プロ野球選手になりたい!!
宇宙飛行士になりたい!!
芸能人になりたい!!
大金持ちになりたい!!
みんな色々な夢を見ていた頃があったはず。
でも俺は・・・
俺の子供の頃の夢は・・・
『普通のサラリーマンでいい』
大人になり、朝起きて、仕事に行き、食事をして、家に帰り、漫画やゲームをして、寝る。
ただこれだけで十分幸せな日々。
これ以上望むことは何もない。
これが・・・これこそが自分が望んだ普通の生活なのだから。
―――――――――――――――――――――――――――――
・・・んっ。
ここは・・・道?
何処かの田舎道かな?
・・・おかしいな。
確か仕事場の昼休み中で、昼寝をしていたはずなんだけど・・・。
・・・そうか、夢か。
前にも昼寝中に通勤する夢をみたし、いわゆる明晰夢ってやつだな。
時間も気になるし、1回起きるとするか。
・・・起きろ、俺・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・あれ?
おかしいな、目覚めない・・・。
前はこれで起きたはずなのに。
だったら空を飛んで落ちてみるか。
俺は高所恐怖症だから、飛び起きたこともあったしな。
・・・って飛べない!?
これはまさか現実・・・ってことか?
・・・落ち着け。
こういう時は、落ち着いて今月の残業時間を計算しよう。
平日は18日間出勤して、5時間残業だから・・・
90時間だな。
休日は5日間の1日10時間で50時間。
それから徹夜が3回あったから、1回8時間で24時間。
合計164時間。
おっ、これなら今月は200時間超えなくて済みそうだな。
今日も22時には帰れそうだし、久々にゲームでもするかな~♪
さて、落ち着いた所で、良く回りを見てみよう。
左右には深い森。
その森をモーゼの如く、割って出来たような幅の広い道。
地面の感触。
木々のせせらぎ。
空気も美味しいし、のどかな感じもとても良い。
そしてマイナスイオンを一杯浴びれて気分も最高だ。
・・・どうやら夢ではなく、現実らしい。
という事は、瞬間移動の様な事が起きたんだな。
とても信じられんが、そう理解するしかないか。
何でこんな事になったのか全くわからないけど、とりあえずスマホで現在地を・・・って、セキュリティの都合で、キャビネに保管してあるから持ってないや。
でも幸い財布は持ってるし、Suicaもあるから、
電車に乗ればきっとなんとかなるな。
一応会社にも一報入れておかないとな。
じゃあ近くの駅まで歩くとするか。
どっちに行こうかな?
どっちも先が見えないから困ったな。
地平線って確か4~5KMだったけ?
日本にもそんな場所があったんだね~。
・・・外国だったりして。
まっ良い運動になると思って、適当に進むとするかね。
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結構歩いた気はするが、時間がわからないからな。
腕時計があれば良いんだけど、仕事中は外して机の上に置きっぱなしだからね。
遠くに道の端が見える気もするけど・・・ん?
向こうに人がいる!!
助かった~。駅までの道を聞いてどのくらい掛かるか教えて貰うことにしよう。
身長が低いように見えるから、子供かな?
・・・何か変な格好だな。
肌も緑色ぽっいし。
耳も尖ってる・・・。
あっ、こっちを向いて・・・ゴブリン!?
いや、待て。
ゴブリンは空想上の生き物だろ。
きっとコスプレか何かに決まって・・・
笑った・・・?
にやりと言う言葉がピッタリの笑い方だ。
あっ、森の中に入って行った。
今月は先月より残業少ないのに、疲れてるのかな・・・。
でも今のが幻覚とは思えないし。
それに嫌な予感がする。
こう言うときの勘は、絶対に当たる。
・・・走るか。
ハァ、ハァ、ハァ。
日頃の運動不足のせいで、結構疲れるぞ。
でもついに道の端が見えてきた!!
きっとその先は民家とかあるはず。
---ガサガサ---
今の音、まさか・・・。
横を見ると森の中を並走しているゴブリンが複数いた。
しかもこん棒まで持ってる。
でもそんなに早くないから、このまま逃げ切って・・・クソ!!1匹だけ早い!!
あっという間に抜かれて、こん棒を振り上げてこっちを狙ってる。
何とか避けて・・・こっちに向かって飛んだ!?
とっさに避ける事は出来た・・・が、バランスを崩しておもいっきりスッ転んでしまった。
早く起きて逃げないと・・・あっ。
目の前にゴブリンが5匹、立ちふさがった。
しかも後ろからも5匹・・・。
完全に囲まれた・・・。
全員ニタニタと笑ってやがる。
まるで獲物が絶望していく事を楽しんでいるかの様に・・・。
俺はこのままこん棒で滅多打ちにされるのか。
それとも食い殺されるのか・・・。
・・・・・・ふざけるな・・・・・・
こんなところで殺されてたまるか!!
落ち着いて冷静に考えるんだ。
ゴブリンなんて、所詮雑魚キャラってのが相場で決まっている。
何か武器になるような物は・・・道に落ちてる石、木の枝。
駄目か。囲いを突破しない事には無理だ。
ゴブリンのこん棒は奪い取ろうとしている間に殺られるな。
俺の持っている物で使えるものは・・・財布にSuicaにハンカチにスーツ・・・スーツ?
上着とベルトと硬貨。
よし!
まずは硬貨を見せて・・・見ているな。
そのまま指で弾き上に飛ばして、目が硬貨を追ったぞ。
続いて上着を目の前のゴブリンに広げるように投げて、視界を奪った所でベルトをおもいっきり降り下ろす!!
「グギャ!?」
バックルが見事命中!!
この隙に一気に走り抜け、囲いを突破出来た・・・
ドカッ!!
背中に激痛が走り、俺はそのまま倒れこんだ。
どうやらこん棒で殴られたらしい。
急いで振り替えると、笑みの消えたゴブリンがこちらを見ていた。
いや、俺より後ろを見ている?
「ファイヤーボール!!」
後ろから声がすると、火の玉が俺の横を通り抜けた。
「グッギャァァ!!」
ゴブリンが燃え上がった!?
ファイヤーボールって、まさか魔法!?
「スタブ!!」
「ギャッ!?」
「ギッ!?」
槍から何か飛んで、ゴブリン2匹を仕留めた!?
まるでゲームの世界じゃないか!?
一体何が起きてるんだ!?
「お兄さん、大丈夫ですか?」
「えっ?」
振り返るとそこには小麦色の肌、青い瞳、ショートカットが良く似合う可愛いらしい小柄の女性が、俺に手を差しのべていた。