トリックオアとリート!
黒疫の執筆の気晴らしに書きました。
ぼうちゃんねるに上げたのを、修正しました。
「お菓子もらえるんだよ」「トリックオアとリートってやつ」「うん」「行かない?」
カボチャ頭の子は一方的にまくしたてて、小学4年生の僕と裕子に首を傾げた。
僕らは神社の境内で遊んでいて、そろそろ帰ろうかと言っていた時、 カボチャ頭が夕暮れの空から降ってきたのだ。
華奢な体つきで声も中性的だったから、性別は分からなかったけど、楽しそうだった。
カボチャ頭は何故か僕に飛びついて、トリックオアトリートを誘ったのだ。僕は塾があった。
裕子が、どこからきたの? とカボチャ頭に訊くと、裕子の住所を、奴は答えた。
何か変だ。
けど、僕は塾の時間が迫っていたから、二人をおいて、境内から街に続く階段を駆け下りた。
まあ、裕子は優しいから、おまわりさんに連れてってやるんだろうな、と思った。
その晩彼女は自宅に戻らず、一週間後には行方不明のビラが配られ、ニュースにもなった。
僕は交番をたずねた。カボチャ頭の事を話したけど、信じてもらえなかった。
そして、裕子が戻らないまま、20年たった。
この間に、僕はこの町を離れた。
都会の大学に進み、 そして就職した。
嫁もできたが子供はまだだ。
20年前より、随分とハロウイン、トリックオアトリートという言葉が有名になった。
僕は所用で、久しぶりに里帰りをした。
今晩はハロウインだ。
恐ろしかった境内に、僕はいる。
煙草を吸いながら、裕子の事を思う。
と、空からカボチャが降ってきた。
「お菓子もらえるんだよ」「トリックオアとリートってやつ」「うん」「行かない?」
奴は20年前とそっくり同じ台詞をはいてきた。
僕は、ふざけんな! とか、裕子をどこにやった! とか、カボチャ越しではなく、面と向っていってやりたくて、 カボチャ頭から、無理やりカボチャを取った。
……。
……裕子がいた。20年前そっくりそのままの、裕子がいて、俺を見上げた。
「ね、トリックオアとリート、しよ?」