転生の星 ~俺は、この星で一番~
俺は、転生してしまった。
生前何の変哲もない日本人の俺が転生した先、それは、異世界だった。
なぜ異世界と分かるかって? そりゃ、魔法とかがあるからさ。
ドラゴンにまたがる騎士が魔法陣を展開してレーザービームで戦うんだぜ? こんなの異世界以外の何物でもない。くぅ~~~、胸が熱くなるな!
とはいえ、だ。俺自身にそういう才能がなければ話は全く別だ。せっかくの異世界なのにドラゴンや魔法を見てるだけってのは、皿の上に最高級のA5ランク和牛霜降りサーロインステーキがのってるのにお預けを食らうようなもんだ。
さて、そういうわけで転生した俺がこの剣と魔法とドラゴンな世界の物語に乱入できるか、それを確認してみよう!
ちなみに俺は惑星に転生した。
ちなみに俺は惑星に転生した。
大事なことだから2回言ったぞ。
……そう。俺はあろうことか惑星に転生してしまったのだ。
よく、「星は生きている!」とか「それが、この星の意思だ……」とかあるじゃん?
アレが俺。じゃなかった、俺がアレ。
そんな俺が剣と魔法とドラゴンな世界に、入ることができるのか――
――答え:ほぼなし。
演劇で言うなら役者やカキワリ背景を乗せた「舞台そのもの」、TVゲームであれば「ゲームを作る会社」、漫画で言えば「掲載誌」というくらいに土台も土台。
「確かに俺が居なきゃ成り立たないけど俺の出番って本編に絶対ないよね?」というくらいの存在だった。
出てくるとしても地球割りとかでぱっくり割れてるけど次の回には直ってるギャグ要因のモブ星とか。
あ、ちなみに俺が記憶御取り戻したきっかけな。魔王と勇者が最後の戦いで大爆発して、「あいてっ」てなったからだ。マントルを抉るような、そんな痛みだった。
隕石の衝突とどっちがマシかは知らんが。痛いのは勘弁してほしい。
「ヘィ、太陽さん。お茶しない?」
太陽に向かって話しかけるが、返事はない。むしろ声も出てない。
というか宇宙に空気はないので声を出しても伝わらなかっただろう。
……ためしに表面を噴火させてみればなにかコミュニケーションとれるかなーとか思ったけど、人間が自分の体を意思だけで爆発できないように、自己意思で噴火とかできやしなかった。
つまり、コミュニケーションをとる方法はなかった。
せいぜい太陽さんにローストビーフにされる気分を味わいつつ自転するのが関の山だぜ……くくく、回転焼き……バウムクーヘンでも可。
……暇だあ。
星にとって、娯楽なんてもんは無い。トランプ? オセロ? できる訳ねーだろ。ああいうのは人間サイズで人間の体だからできるんだ。そもそも俺には手も足もないわ。ほぼ球体だわ。
あー、インターネットしたいわぁ。「太陽さんのエロ画像マダー?」とか「隕石3個うp」とかしたいわー。
とは言っても無理なもんは無理。
……あ、でもよく考えたら魔法のある世界なんだし魔法でどうにかできるんじゃないか?
俺もなんでかわからないけどたまに地表の様子がわかることがあるし。これって遠視とかそういう系の魔法なんじゃないの?
そもそも星に目は無いのに見えるって魔法だろ?
よーし、こいつは特訓するしかないな!
*
やあ、俺だよ俺。星だよ! ここ数万年の努力の成果で地上の様子を自在に観れるようになったぜ。
(太陽さんの周りを俺が一周回ったら1年とカウントしていた。北半球? がちょっと熱い時期が夏、ちょっと寒い時期を冬って感じだな。まぁ俺中心の視点だと毎日ぐるぐる回るから分かりにくいんだけど)
俺には魔力があった。そして、これを使えば地上の様子を観たり、局地的に天気を弄れたりする。
やっぱり地上は見ていて飽きない。どうも2回くらい文明滅んだっぽいけど、案外この人間という二足歩行で手を使う生物ってしぶとくてしたたかなもんで、なんだかんだ俺の上に蔓延っている。
まぁ俺が元人間というのもあるからちょっと優遇したい気持ちになっちゃうよね。
雨乞いしてるところに雲集めて雨降らせたりはしてあげたりさ。……代わりに他の地方が砂漠化して乾燥肌っぽくなっちゃったけど。
ちなみに滅んだ原因の1回は俺の魔力枯渇によるマナ氷河期の到来だ。その時はとても高度な魔法文明だったのだが、俺が調子に乗って魔力使い過ぎたせいで地表から魔力の元であるマナが枯渇した。
日本社会で電気や石油が消えたらどうなる?
つまり、そういうこった。しかもこの文明は何をするにも魔法だったので、そのまま滅んだという訳だ。
なんというか、その。ごめんね?
マナが回復するまで200年くらいかかった。
どうも俺の余剰魔力がマナとして地表に溢れるっぽいので、ほどほどにしようと心に誓ったエピソードだ。
さて、そんなある時、星の意思を呼び出す儀式があった。
俺の出番か! と思ったが、なんか勝手に幼女っぽいのが出ていた。
誰だお前は。
『私はこの星の意思……』
お前は俺だったのか……
いや、んなわけねーじゃん。仮に俺に幼女な部分があったとしよう。
しかしそれは俺ではない。俺の意思じゃない部分で勝手に歩き回っておいて俺の意思を名乗らないで欲しい。
『――お前たち人類は、星を傷つける存在。故に――滅ぶべきなのだと、私は判断した……』
は? おい、お前何言ってんの?
周りの人間もざわざわしている。
そもそも、何のために星の意思なんて呼び出そうとしたのかは知らないけど、ちょっとこれは見過ごせないなぁ……
俺は、発声魔法を発動した。音は空気の振動、ということを知っている俺は、魔法で声を再現することにも成功していた。
尚、繊細な制御のため莫大な魔力を消費するので、あまり使い過ぎるとまたマナが枯渇する。気を付けねば。
「おい、誰の許可を得て、何勝手に人類滅ぶべきとか言ってるわけ?」
『私は星の意思……許可など――何者だ?』
俺が話しかけると、自称星の意思である幼女はきょろきょろとあたりを見回した。
その部屋に俺はいない――いや、いるけど地面だ! あ、でも建物内だからさらにその下だ!
「それこそ俺のセリフだよ。勝手に俺の意思とか名乗らないで欲しいんだけど! 俺は人類超好きなんだけど! むしろ優遇してるんですけど! うっかりで1回滅ぼしちゃったけど!」
『何者かは知らぬが、いい度胸だ。滅ぼしてくれようぞ……!』
いや、俺滅ぼしたらイコールで星消えるからね?
『姿は見えぬが、まとめて吹き飛ばせば問題ない……究極殲滅魔法――ゼロリバース……!』
「おいまてやめろ! ぬぅうん、マナ一部強制枯渇!」
俺は、幼女の居る一帯半径100キロのマナを強制的に枯渇させた。
あれだ、ぐっと力を入れるとそこだけ疲労がたまる感じ。
……ただ微調整が難しいから半径100キロは枯渇するけど、仕方ないよね!
だがこれでこの中では魔法が使えない。故に、究極殲滅魔法とやらも発動しなくなるはずだ! 俺は自前の魔力がちゃんとマントル内にあるから問題なく覗き見も発声も使えるけどね!
と、思ったのだが。マナを枯渇させたところで幼女は苦しみだした。
『く、苦しい……息が……マナが……!?』
どうやら呼吸でマナを酸素のように取り込んでいたようだ。
倒れる幼女。その体は徐々に光の粒子に分解され、消えていった。
俺は勝利し、悪は滅びた――
が、ここの周囲のマナが復活するのに10年ほどかかったことを補足しておく。
俺からすればもはや一瞬みたいなもんだが人類にはそこそこ長い時間であったため、あの儀式魔法は「国を滅ぼし10年もマナの出ない不毛な土地にした禁忌の術」と呼ばれることとなった。
実際マナが枯渇したのは俺の仕業なのだが、黙っておこう。てへぺろ。
それにしてもあの幼女、魔法生物ってやつだったのかな?
その割に、術者である周囲の人間もまとめて吹き飛ばそうとしていたようだけど――もしかして、独立タイプ?
そうだ! 俺もこれを再現すれば今度こそ地上の物語に参戦できるんじゃね!?
維持にマナがあればいいってことだろ? よっしゃ研究したろ! 今度は何万年かかるかなー。
あの魔法陣とか参考にすれば短縮できるかな?
そうして、真・星の意思が誕生するのはそれから2万年後(途中人類滅亡5回、うちマナ枯渇によるもの4回)となった。
しかしこのときの魔法陣を使ったせいか勝手に意思が宿り、かつ俺のことをパパと呼ぶ(他から見たら星を父親呼ばわりするちょっとおかしい)幼女が生まれることになるのだが、それはまた別の話。
……そっかー、テレパスならマナ消費少なくて済んだんだな。その発想はなかった。もっとも受け取る側がパーンしない器が必要だったけど。
(尚、体表で異世界転生とか異世界転移はされている模様)